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28-2・麻由の宿題が無くなった

-優麗高-


 美穂が登校をしたのは、朝のホームルームの10分後だった。正門は閉じられているので、脇の抜け道から校庭内に侵入して2C教室に到着。教室の後ろの扉をそっと開けて、クラスメート達が1限目の準備をしているのを確認して、スゴスゴと中に入る。

 何ヶ月ぶりの遅刻だろう?紅葉に絡まれるようになってからは、遅刻をしなくなった。以前なら、遅れて登校をしたら、クラスメート達は「え?今日は来たの?」「どうせ、途中で帰るでしょ」的な視線しか向けてこなかった。しかし、優麗祭以降は、徐々にクラスと馴染めてきた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 久々の遅刻なのに、クラスメートの反応は無かった。冷めた視線が無い代わりに、挨拶だの、遅刻の理由を尋ねるクラスメートもいない。せいぜいで、席が隣の生徒から「2限目の理科の宿題のプリントやってきた?」と尋ねられた程度。まるで、クラス内の全員が、美穂の遅刻を認識していないようだ。もしかして、担任が遅刻をして、ホームルーム&出席点呼が無かった?


「・・・てか、やべっ!」


 理科の宿題、やってこなかった。最近は、「自学しろ」「教材を学校に置いて帰るな」と麻由が煩いので、教科書だけは持ち帰るようにしているが、慌てて来たのでカバンの中身は昨日の時間割のままで、理科の教科書が無い。


「あ~~~・・・・面倒くさっ!」


 変な時間に強制的にジョギングをさせられた所為で、まだ眠い。体調が悪い事にして、2限目は保健室で休もう。1限目(昨日と同じ教科)を温和しくクリアした美穂は、2限目の担任の授業が始まる前に保健室へと逃げ込んで、布団を被って眠り込んだ。

 ポケットの中でサマナーホルダが振動をするが、眠っている美穂は気付かない。窓ガラスに映る美穂が起き上がり、現実世界の美穂を見つめて笑みを浮かべる。



「んぁっ?」

「・・・え?」


 2Aの麻由と2Bの紅葉が、同時に、妙な気配に気付く。だが、とても探りにくく悪意も感じられない。直ぐに授業が始まったので、若干気にしつつも放置をする。


 保健室で睡眠中の美穂は気付いていないが、保健室の窓ガラスや鏡には、美穂の姿は映っていない。




-1時間後-


 美穂は、3時間目になって、「まだ少し体調が悪い」フリをして2C教室に戻る。


「宿題やってない雰囲気だったのに、ちゃんとやってたんだね」

「・・・は?」


 クラスメートから「体調大丈夫?」「まだ休んで無くて良いの?」等の気遣いの言葉を掛けられると思っていたので少し驚いた。「宿題をやっていた」ってどういう事だろう?きっと、誰かと間違えてるんだろう。

 何よりも違和感があるのは、遅刻したことも2限目をサボったことも、誰も話題にしない。クラスメートと会話をしていると、美穂の方が「あれ?遅刻してなかったっけ?」「2限目、出席してたっけ?」と自分の行動に自信が無くなる。

 疑問に感じながら1日を過ごし、終学活にてハッキリと違和感を確信した。担任の山本が、2限目に集めた宿題プリントのうち、美穂の提出した物を皆の前で披露して、内容を評価したのだ。


「はぁ?そんなバカなっ?」


 まるで、クラスメートと担任に“ドッキリ”を掛けられている気分だ。足早に教壇に寄って、山本が披露しているプリントを奪い取って眺める。間違いなく“提出者名が桐藤美穂”のプリントがある。丁寧な文字で各設問に回答しつつ、所々で、独自の考察が細々と列記されている。これが通常の試験だったら、100点満点中150点を獲得できそうな見事な出来映えだ。言うまでもなく、美穂はこんな面倒臭いことはしない。基本的には教科書の丸写しで、調べるのが面倒臭ければ適当に書いて、正解不正解に係わらず「8割くらい書いてあればいいや!」って完成度で提出をする。


「・・・この字?」


 丁寧だけどチマチマした文字を眺めていて、心当たりに行き着いた。提出者名以外は麻由の文字だ。麻由が「美穂は宿題をやらないだろう」と考え、気を利かせて美穂の分の宿題をやって提出してくれた?いやいや、それは無い。麻由は、生徒会長として、一般的な学生生活や学業については、それなりに気が利く方だが、「多少ズルをしてでも穏便に済ます」って臨機応変については、てんで融通が利かない。そもそも、誰が提出をした?


「何が何だか、サッパリ解らん!」


 何らかの形で麻由は関わっていると判断した美穂は、放課後になると同時に教室から飛び出し、B組教室から出て来た紅葉の前を無言で通過して、駆け足で2Aの教室に飛び込んだ。後ろから、「何事?」と興味津々に紅葉も付いてくる。


どよよぉ~~~~~~~~~ん

「わっ!な、なんだぁ!?」


 妖怪が出現する時の闇とは違うんだけど、A組教室内が、もの凄くドンヨリした空気に覆われていた。美しい長髪がボサボサになった麻由が、白目を剥き、脱力して自分の席にいる。真奈が懸命に話しかけているが無反応だ。


「マュぅぅ~~~~~~~~~~!!?」


 紅葉が、駆け寄って揺さぶってみたが無反応。懸命に呼び続けたら、やっと顔を上げて、虚ろな目を紅葉に向けた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・うふふふ・・・私に人生・・・終わったわ」


 仲間達を眺め、力無く引き攣った笑顔を浮かべる。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 真奈の話によると、事件は6限目に発生をしたようだ。山本先生の理科の授業で、最初に宿題プリントの提出を求められたのだが、麻由の様子がおかしい。「無い!」「無い!」と頭を抱え、半狂乱気味に騒いでいる。どうやら、一昨日のうちに完璧に仕上げ、今朝、指さし呼称で所持の確認をしたはずの理科の宿題が無かったらしい。

 結局、「スーパー優等生の麻由が未提出なのは、余程の理由があるのだろう」って解釈をされて、放課後のうちに提出をすればペナルティーは無しで、その場は納まった。ただし、麻由的には全く納まっておらず、6限目~終学活は、ずっと死にっぱなしだった。


「・・・はぁ?コイツ(麻由)、宿題を提出できなくて、こうなっちゃったの?」

「うん、そういう事になるね」

「たかが宿題を1回提出できなかっただけで、半狂乱&茫然自失って、

 どんだけキャパが狭いんだ?」


 宿題未提出の常習犯の美穂からすれば、理解不能。美穂の名前で提出された理科のプリントは、麻由の物で間違いなさそうだ。そりゃ、成績が超低空飛行な美穂が、学年トップ並のプリントを提出したら、担任は喜んで自慢をするだろう。一体、誰が何の目的で、麻由のプリントを盗んで、美穂の名前で提出をした?もちろん、美穂は、そんな姑息なことはしない。セコいその場しのぎをするくらいなら、堂々と「忘れた」と開き直る。


「なぁ、麻由・・・」

「・・・・ほへぇぇ?」

「オマエのプリントって、設問③で、相対性理論がどうとかって、

 設問が求めている以上の、ワケの解らない事を書いてねーか?」

「・・・な、なんで、それを?」

「何の手違いがあったのかは解らないけど、

 そのプリント、あたしの名前で提出されてた」

「おほほほほ・・・美穂さんたらお優しいのですね。

 その様な、見え透いた嘘で慰めてくださらなくても・・・」

「・・・ダ、ダメだ、こりゃ」


 美穂は、大きな溜息をついてから、麻由の手を掴んで、無理矢理引っ張って教務室に駆け出す。そして、山本先生のところに行って「自分の提出したプリントを見せろ」と言って奪い取り、相変わらず呆けている麻由の顔に押し付けた!


「こ、これは!?」

「オマエのだろ?」

「は、はい、間違いなく私のプリントです!」

「・・・やっぱりな!」


 ようやく、麻由の表情に、いつもの血色が戻ってきた。


「何故、私のプリントがここに?」

「あたしも解らない!

 だけど、何かの手違いがあって、

 オマエのプリントが、あたしのプリントとして提出された」

「えぇっ!?それでは、私は、宿題を忘れたわけではなかったのですね!」

「そ~ゆ~こと。

 誰かが、オマエの鞄から盗んで、あたしの名前に書き換えて提出したんだ」


 しばらく眺めていた山本先生も状況を理解したようだ。美穂と麻由に再度確認をしてから、麻由に、美穂のプリントの提出者名の書き直しをさせて、麻由の提出物として受け取る。そして、改めて美穂に尋ねた。


「正直に言ってくれて嬉しいぞ。

 だが、黙っていれば、おまえの評価になっただろうに、

 何故、正直に話そうと思ったんだ?」

「あたしが、そんな立派なのを提出したら、かえってオカシイだろ?

 麻由が、同じようなことを書いて再提出をしたらバレるだろうし、

 なによりも、他人の実力で評価されても、あたしは嬉しくない」


 おそらく、以前の美穂なら、どんなに説得力のある説明をしても、優等生の宿題を盗んだと疑われていただろう。だが、一連の話を聞いた山本は、「美穂が麻由のプリントを盗んだ」とは判断せず、手違いとして理解を示してくれた。

 美穂&麻由は安堵の表情を浮かべ、山本に一礼をして教務室から立ち去ろうとする・・・が、直ぐに呼び止められた。


「事情は解ったが、宿題を提出していないわけだから、

 残って本日中に終わらせて提出しろよ!」

「・・・・げっ!しまった!」


 当たり前と言えば当たり前の指示だが、美穂の表情が引き攣る。こんな事なら、麻由のプリントの内容をキチンと記憶してから、正直に話すべきだった。




-2A教室-


 美穂が居残りで宿題プリントに挑み、麻由が付き添って、自学の傍ら、時折アドバイスをくれる。少し小煩いアドバイスで、「ついさっきまで、宿題を提出できなかっただけで廃人化してたヤツと同一人物なのか?」と軽くイラッとするが、居てくれないと倍くらいの時間が掛かりそうなので、渋々とアドバイスに従う。

 頼んでいないのに、紅葉&真奈も付き添ってくれた。ただし、真奈はともかく、紅葉は開始10分くらいで飽きて、スマホで漫画を読んで大笑いをして、麻由に「うるさい」「集中しろ」「勉強しないなら帰れ」と怒られていた。


 どうにか18時過ぎには宿題を終わらせる。麻由的には「空きスペースに、もう少しシッカリと説明を書いた方が良い」と不満げだが、美穂がそんな満点以上の回答をするのは変(というか、継続不可能)なので、それなりの及第点で先生に提出をした。


「喉渇いた!麻由おごりでジュース飲もう!」

「え?なんで私が?」

「あたしの犠牲のおかげで宿題未提出が解消されたんだから、当然だろ!」

「・・・た、確かにそうですが」

「本来なら、美穂さんが麻由ちゃんに奢らなきゃ成らない立場なのに・・・」

「マユ、ゴチで~っす!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 全員、欲張って、缶ジュースやパックジュースではなく、500ミリリットルのペットボトルを買ってもらう。ちなみに、紅葉は1.5リットルを選ぼうとしたが、美穂に「それは欲張りすぎ」と止められた。

 美穂の宿題がメインになってしまって情報交換が出来なかったので、正門前で立ち止まって手短に“放課後ミーティング”をする。

 宿題については、無事にクリアできたが、問題は「誰が麻由のプリントを盗んで提出したのか?」だ。美穂は提出をしていないし、その場にいる誰もが「美穂が麻由から盗んだ」とは疑っていない。しかし、山本の話では、2限目にプリントを提出したのは、間違いなく美穂だったという。美穂は夢遊病で、眠りながら2限目の授業に参加をしていた?妖怪が化けて悪さをした?


「あたしは夢遊病ではない!」

「ヨーカイなら直ぐに解ると思ぅけど、ヨ~キゎ感じなかったなぁ~」

「そう言えば、登校~朝のホームルームと、2限目に、妙な気配を感じましたね」

「んぁっ!そ~いえば、そ~だった!

 悪ぃ感じの気配じゃなかったから、スッカリ忘れてたっ!」

「ホームルームと2限って・・・

 どっちも、あたしが教室にいなかった時間じゃん」


 まだ、何が起こっているのかは解らないが、美穂が教室にいなかった時間帯に、美穂のフリをした何かが発生しているっぽい。ただし、妖怪なら紅葉や麻由が的確に察知できるから、それ以外の何かが発生していることになる。

 しかし、それ以外は解らない。一同は「引き続き警戒をする」「美穂は遅刻&サボりをしない」と満場一致で決めて、解散~帰宅をする。




―翌朝・美穂の部屋―


ブルブルブルブルブルッ!

 睡眠中の美穂の枕元で、スマホが振動をする。美穂は、寝ぼけ眼でディスプレイを確認後、気付かないフリをして布団に潜り込んだ。


「付き合ってらんねっ」


 就寝前にマナーモードにしておいて良かった。山本先生には申し訳ないが、「ウッカリ音を消していて気付かなかった」ので仕方が無い。スマホは、しばらくは振動をしていたが、無視をしていたら、やがて諦めたらしく静かになった。



-アパートの外-


「おはようございます」

「よおっ!」

「気に掛けてもらって、ありがとうございます!」

「はっはっは!どうせ、俺は毎朝このコース走ってるからなっ!」

「じゃ、いきましょうか!」


 ジャージを着て、ジョギングシューズ履いた美穂が、山本と合流をする。2人は、準備運動で体をほぐしてから、昨日と同じコースでジョギングを開始した。


 だが、部屋の中では、布団に潜り込んだ美穂が再び眠りに落ちていた。卓上ミラーには、美穂の姿は映っていない。


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