表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/34

28-1・美穂の夢~進路希望~担任とジョギング

「俺が今日から、君たちの授業をすることになった!よろしくなっ!」


 美穂のクラスの教壇に立ったのは、美穂がよく知る人物だった。若くてイケメンな新任教師を前にして、教室内がざわつく。


(なんでアイツがここに居るの?生きていたの?)


 美穂がポカンとした表情で教師を眺めていたら、斜め前の席の紅葉が挙手をして立ち上がる。


「センセー!彼女とかいるんですかっ!?」


 紅葉の隣の席の亜美が、恥ずかしそうに「いきなりその質問は失礼」と小声で呟いて紅葉の服を引っ張る


「ん?恋人か?はははっ!それはちょっと言えないな」


 若い教師は、紅葉の質問を笑って誤魔化しつつ、一瞬だけ美穂の方に視線を向ける。美穂は少し赤面をして窓側に視線を逸らす。

 窓側最前列の麻由と、前から2番目の席の真奈が、「あんなに若い教師で大丈夫なの?」と不安そうに会話をする。

 美穂のすぐ前の席のジャンヌとバルミィが振り返って「格好イイ先生ばるね」「ミポリン、顔が赤いぞ」と話しかけてきたので、「興味ない、気のせい」と誤魔化す。

 アイツの、優しくて、少し間の抜けた笑顔は、あの頃と変わらない。休み時間になったら、早速、仲間達には内緒で話をしに行くつもりだ。



 美穂が、生活感の無い自室で目を覚まし、起き上がって溜息をつく。途中から「これは夢だ」と解っていた。辺りはまだ暗い。スマホで時間を確認したら深夜の3時だった。


 アイツが美穂の前に現れるハズがない。アイツが生きているハズがない。

 アイツと出会ったのは、美穂が高校1年の春だった。新卒の教師で教壇に立つことに慣れておらず、生徒達に茶化されながら下手な授業を懸命にしていた。歳があまり離れていないからなのか、イケメンだからなのか、それとも“イジリがい”が有るからなのかは解らないが、生徒達からは人気があり、直ぐに優麗高に馴染んだ。恋に憧れる年頃の女生徒達からすれば、イケメンの新卒教師はモロにストライクゾーンだ。

 美穂も、他の女生徒と同じように、そのイケメン教師に興味を持った。


「シンジロウっ!お昼、カップラーメンなの?あたしが作ってきてあげよっか?」

「『先生』を付けろ!

 作らなくてイイよっ!俺はカップラーメンが好きなんだよっ!」

「またまた~、照れちゃって!

 美穂様が、腕によりを掛けて作ってきてあげるから、楽しみにして!」


 翌日、美穂がイケメン教師に差し出したのは、腕によりを掛けて作ったギューギューに握られたオニギリ(具無し)と、コンビニで買ったお総菜だった。調子に乗って大言はしたものの、美穂は料理スキルなんて皆無。更に言うと、姉に「明日は自分で弁当を作る」と言った手前、本日は美穂の弁当も無い。


「・・・これは?」

「う、うるさいっ!食いたくなきゃ、食わなくていいよ!」

「そっか・・・サンキュー。なら、お言葉に甘えて、食いたいのだけもらう」

「・・・え?」


 イケメン教師は、不味そうなオニギリだけを受け取って、買ったオカズは美穂に返した。美穂は、驚いた表情で、イケメン教師の顔を眺め、イケメン教師は少し恥ずかしそうに微笑んだ。


「オマエも、飯、まだなんだろ?そのオカズはオマエが食えよ。

 俺は、オニギリをもらうからさ」

「・・・う・・・うん」


 この時の、イケメン教師に魅せられた笑顔が脳内に焼き付き、美穂の中で、これまでに経験したことの無い“潤った鼓動”が高鳴る。多分、アイツを好きになっちゃったのは、あの時だろう。


 アイツの担当教科は苦手だったが、アイツに嫌われたくなくて懸命に勉強をしたら、1年生の夏休み明けくらいからは得意科目になっていた。「勉強が解らない」と言って放課後のイケメン教師に質問に行ったり、押しかけ女房的にイケメン教師のアパートに遊びに行ったり、外出中のイケメン教師に付きまとってデートごっこをしたり、時には喧嘩をしたり、学校外ではアイツの名を呼び捨てにしたり、なんとな~く“良い感じ”には成っていたが、明確な交際までは発展しなかった。

 赴任から僅か一年で、イケメン教師は別の高校に転勤となる。美穂の耳には明確な情報は伝わらなかったが、「女生徒(美穂)との親密さ」が教育委員会で問題にされた噂は聞いた。

 その後も、しばらくは、連絡をしたり、時々押し掛けていたが、姉が亡くなって、美穂がやさぐれはじめてからは、徐々に音信不通になり、風の噂で「アイツは教師を辞めて外国に旅に行って死んだ」と聞いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イヤな夢だ」


 久しぶりにアイツの夢を見た。最近は見ない夢だった。それどころか、最近は、周りが騒がしすぎて、アイツのことを思い出す事も少なくなっていた。

 前にアイツの夢を見た時は、ウザなつっこいチビッコが美穂の周りで騒いで、美穂の作った殻を強引にこじ開けようとしていた頃だった。その“ウザなつっこさ”を受け入れた頃から、この夢は見なくなった。


 美穂は、この夢を見るタイミングを理解している。直近にイヤなことがあって不安な時だ。潜在的に“何も悩まずに毎日が楽しかった頃”を欲している。

 間近に迫った定期テスト。優麗高は、2年~3年ではクラス替えをしない他校とは違い、3年進級時に、理系特進(A組)、理系一般(B~C組)、文系特進(D組)、文系一般(E~F組)でクラスの再編成がされる。3学期の試験時に希望クラスを書き、3学期の試験結果と2年時の内申を元にして、成績上位者から順に各特進クラスに振り分けられる。成績が優秀だが特進を選ばない者は、後日面接をして本人が「特進を選ぶ」か「一般のまま」かを再選択させる。スポーツ推薦で大学を目指す者や就職希望は、一般(B・C・E・F)に振り分けられる。

 麻由は間違いなく理系特進(A組)を希望するだろう。紅葉は文系かな?真奈も文系かな?皆、どうするつもりなのか気になる。

 2学期の期末テストの時、麻由から「理数系向き」と評価された。基礎が成っていないので凡ミスが多いが、大半が点数を失う(真奈や亜美もできない)ような小難しい応用問題を、8割方はクリアしている(基礎の凡ミスで正解にはならない)らしい。

 確かに、美穂自身、読み方も解らない単語をいくつも覚えるより、持っている知識で数式を解く方がパズルゲームをしているみたいで面白いとは感じた。


 ただし、美穂の場合は、クラス分け以前の問題で、今年度前半の欠席が多く、1学期の中間&期末テストと2学期の中間テストでは赤点スレスレばかり(2学期の期末の結果は、麻由のおかげで幾分かはマシ)だった為、3年生への進級の可否が掛かっている。半年前までの美穂ならば進級なんてどうでも良かったが、今は仲間達と一緒に3年生になって、仲間達と一緒に卒業をしたいと強く希望している。


「あ~あ・・・もっと、真面目にやっとけば良かったな。」


 イヤな夢の所為でスッカリと目が覚めてしまった。カバンの中から“麻由お手製の予想問題と対策ノート”を引っ張り出して、寝転んだまま眺める。



 旅行先で他界したアイツの所持品の中に、美穂に送るつもりだった葉書があった。アイツの事後処理をした現地の担当者は「葉書の住所にアイツの近しい者が居る」と勘違いして、アイツの所持品をB4サイズの封筒に纏めて美穂のアパートに送ってきた。しかし、美穂は血縁者や未亡人ではないので、封筒は開けられることなく、学校に聞いてもアイツの教師退職後の足取りが解らず、「そのうちアイツの知り合いに会うことがあれば渡そう」程度のつもりで、引き出しの奥に保管したままにしていた。


 美穂はまだ知らない。その封筒の中にサマナーホルダが有ることを。

 そして、鏡の中にしか出現しないローブの男は、美穂がアイツの知人と知って、異獣サマナーに選んだ事実を。




―翌日の昼休み―


 美穂の昼食は購買部で買ったパンと飲み物。ハムサンドをゲットして「紅葉達と食べよう」と廊下を歩く。


「桐藤~っ」

「え?・・・・・はい」


 呼ばれて振り向いたら、担任の山本武史先生が近寄ってきた。「一所懸命」が信念の、基本は朗らかだが熱血な面もあり、生徒想いの教師だ。担当は理科なんだけど、何故か常にジャージを着ている。「熱血アピール」のつもりだろうか?


「まだ進路を決めてないのか?プリント提出してないの、おまえだけなんだが」

「あ・・・・はい、すいません・・・」


 すっかり忘れていたが、昨日のうちに志望進学先を担任に提出する事になっていた。たぶん、試験結果と合わせて3年時のクラス編成に影響する。美穂は将来の事を漠然とすら考えていなかった。先生と並んで歩きながら考えて、ふと、身近で自分にも務まりそうな職場が思い浮かぶ。


「警察のザックトルーパーに入隊したい思います」

「!?・・・・・え?」

「ザックトルーパーです。体力には、それなりに自信があるんで!」


 山本は「心底ビックリだ」と言いたげな表情で美穂を見つめ、ややあって、明るく爽やかな笑顔を見せた。


「そうか!桐藤が、そんな大きな目標を立ててるとはなっ!

 人間、変われば変わるもんだ!」

「・・・・・へ?」

「入るのが難しいのは勿論だが、本当に辛いのは入校後だ。

 まず、全寮制で厳しい規則を守る生活。

 過酷な訓練を乗り越え、数々の専門知識を学び、

 人としての礼儀も叩き込まれる。

 並大抵の苦労じゃない」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」


 今度は美穂が驚いてしまった。あの集団、そんな苦労して隊員になって、あの体たらくなのか?思い付きで、とんでもない事を口走ってしまったらしい。今さら「すいません、チョット軽い気持ちで言っただけです」とも言いにくい空気だ。


「桐藤なら体力は問題ないか。

 しかしまあ残念ながら、成績と素行は、もう少し改善が必要だな」

「ですよねっ!やっぱり私なんかじゃ無・・・」

「だが、決して不可能じゃない!これから死ぬ気で頑張れ!

 どんなに険しく高い崖でも、一所懸命ぶつかってみろ!」

「・・・・・はあ」

「3年で担任じゃなくなっても、出来る事あったら何でも協力するぞ!」

「・・・あ・・・ありがとうございます」


 山本先生は励ましの言葉を捲し立てて去ってしまう。呆けて見送る美穂のコメカミを大粒の汗が流れ、顔面の筋肉がヒクヒクっと痙攣した。とんでもない事を言ってしまったようだ。




―翌朝・美穂の部屋―


♪~♪~♪~♪~・・・

 寝ていたら枕元のスマホが鳴り響いた。薄目を開けて窓を見たら薄暗い。「起きるには、ちょっと早くね?」と寝惚け眼で画面を見たら“山本”と表示されている。目覚ましのアラームでははなく担任からの着信だ。緊急連絡網かな?


「・・・・・・・・・・・・・・・おはようございます・・・」

≪おはようっ!!寒いけど、いい天気だぞっ!!≫

「はあ・・・・こんな時間に何ですか?」

≪ザック隊を目指すなら、基礎体力も大事だ!

 これから毎朝、一緒にジョギングしようっ!≫

「・・・・・・・・・・へ?」

≪アパートの前で待ってる!支度して、出てこいっ!≫

「・・・ええええ~~~~っ?」


 渋々と起き上って「寒っ」と呟き、カーテンの隙間から覗いたら山本がいた。教壇に立つ時とは違うジャージを着ている。プライベート用と学校用で使い分けているのだろうか?

 ・・・ってか失敗した。寝たふりをして、通話に応じなければ良かった。心底「うざっ」と思いながらジャージを着て、ジョギングシューズ履いて外に出る。


「・・・・・・・お・・・おはようございます。

 あの・・・何で、私にここまで?」

「教え子がザック隊を目指すとあっちゃ、担任として応援したいからな!

 どうせ、俺は毎朝このコース走ってるから、ついでに誘ってみたっ!」


 すげ~ウザいし余計なお世話だ。でも、邪険にも出来ないから付き合うことにした。「まずは準備体操っ」と言われ、一緒に軽くストレッチで体をほぐしてから、山本の後に続いて走る。早朝の景色を眺めるなんて、いつ以来だろう?新聞配達の原チャリが走り、同じくジョギングしてる人や、犬の散歩してる人と擦れ違う。河川敷の堤防に上がって南に走り、文架大橋を渡らずにアンダーパスを通過して、数km先にある明閃大橋を渡って、今度は北方面へ。文架大橋を渡って、浜丹生町方面に戻る。走れない距離ではないが、朝一はキツイ。

 やがて何度も来てるDOCOSファミレスに到着したら、山本が「よし終了!朝ごはんにしようっ!」と、有無を言わさず入ってしまう。


「モーニングビュッフェ2人!」

「かしこまりました。あちらで、御自由にどうぞ。」

「・・・・あのぉ~」

「さあ、食べようっ!元気な1日は、運動と朝食で始まるんだっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


 焼きたてパン数個に、ジャムとバター。ホットコーヒー・オレンジジュース・スクランブルエッグ・生野菜・フルーツを選んで、盆に乗せて席に戻る。山本先生から、あれこれ話を振られたが、ほぼ上の空。「この悪夢のような一時が、早く過ぎますように」って気持ちが心の大半を占め、ただ機械的に持ってきた物を口に運ぶ。


「俺あっちだから・・・・じゃ、また後でなっ!」

「・・・・・・・・・・ありがとうございます」


 山本が支払いを済ませて外へ出て、そのまま解散。美穂は、溜息を吐き、とぼとぼ歩いてアパートに帰って万年床に寝転んだ。普段なら、まだ寝ている時間だ。


「アイツ・・・これから毎日、あたしをジョギングに誘うつもりか?」


 まだ、登校まで時間があるので、仮眠をする。これが2~3日で終わるなら良いが、卒業まで1年以上続く可能性を考えると、頭が痛くなってきた。どうにか拒否をしなければならない。そんな、結論の出ない思案を繰り返していたが、やがて寝息を立て始める。


 万年床につっ伏した美穂の姿が、カラーボックスの上に置かれた卓上ミラーに映っている。テーブルの上のサマナーホルダが振動をして、インバージョンワールド(鏡の中の世界)で異常が発生していることを報せるが、美穂は気付かない。卓上ミラーに映る美穂だけが起き上がり、現実世界の美穂を見つめて笑みを浮かべる。



「やべっ!寝ちゃった!」


 飛び起きて、スマホを手に取って時刻を確認する。朝のホームルームの数分前。紅葉からの着信が23件と、真奈からの着信が2件。紅葉から「まだ?」とか「いつもの場所で待ってる」とか「休み?」等々の催促メッセージが7件入っていた。慌ててブレザーに着替えて、玄関から飛び出し、原チャに飛び乗った。

 卓上ミラーにも、道中の窓ガラスやカーブミラーにも、美穂が映っていない。だが、慌てている美穂は気付かない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ