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48-2・崇とユカリ~魔界大戦回想~10年前の真奈

―武面拠自動車学校―


 崇(紅葉の父)が待合室に顔を出したら、海跳がベンチに座って外の風景を眺めながら待機をしていた。海跳が居る=弁才天ユカリが海跳を見張る為に教習所に潜んでいる可能性は高い。崇は海跳に気付かれないように気配を消してユカリを探して、それらしい教習生を見付けて隣に腰を降ろした。


「やぁ、こんにちは」

「こんにちは」

「こうして、直接話すのは初めてだね」

「そうね」

「僕の名は源川崇。紅葉の父親だ。

 まぁ、優秀な君なら自己紹介をせずとも知っているんだろうけどね」

「私に何の用かしら?」

「熊谷真奈ちゃんについて聞きたいことがあってね。

 何故、君は、彼女に白羽の矢を立てたんだい?」


 ユカリには、今更、愉怪な仲間達と敵対をする気は無いが、仲良くする義理も無い。情報を提供するなら、何らかの見返りが欲しいところだ。

 プイと横を向くユカリ。・・・だが数秒後に、冷や汗を垂らして崇を二度見の末にガン見する。何故、崇は普通に話しかけてきたのだ?変装を見破られたのか?当たり前のように話しかけられたから、何の疑問も持たずに普通に受け答えをしてしまった。そもそも、自己紹介をされるまで、目の前の男が源川紅葉の父親とは知らなかった。ユカリは全く認識していないのに、顔見知り扱いで話し掛けてくるってことは、彼がずっと前から認識していたってことか?


「君を焼いて食おうってワケじゃないから安心してくれ。

 話を聞いてくれる気になったかい?」

「・・・くっ!」

「熊谷真奈ちゃんて何者なんだい?君は、どんな理由で彼女を利用したんだ?

 まさか、君ほど容姿端麗で聡明な女性が、

 “たまたま目に止まったから利用した”なんて間抜けなことは言わないよね」


 ユカリは「偶然、近くを歩いていて目に止まったから利用した」と言おうとしたが先手を打たれた。しかもイケメンに、「容姿端麗で聡明な女性」って褒められた。鼓動が甘酸っぱく高鳴る。ユカリは「この男に誤魔化しは効かない」と観念して(てか、ありのままの自分を見て欲しくなって)変装を解いた。


「私があの娘を初めて見た時、あの娘はカマイタチに憑かれていたわ。

 だけど、カマイタチは、熊谷真奈に完全には憑くことが出来ず、

 本領を発揮せずに討伐された。

 あの娘には、既に別の者が憑いていたの。

 だから、カマイタチ程度では、あの娘を支配できなかったのよ」

「それで君は、彼女に興味を持って調べたって事か?」

「あの娘は、時折、無意識に魔力を発していたわ。既に魔族に憑かれている。

 魔属性は専門分野ではないからハッキリとは解らないけど、かなりの大物にね。

 だから、私の洗脳を破られて離反をされてしまったのよ」

「ふむ・・・情報ありがとう。話に辻褄は合うな」


 崇は、徐に視線を遠い空に向ける。やはり、「裏で何かが暗躍している」って推測は的外れではなさそうだ。



 人間界の上にアスガルド(天界・極楽浄土)、人間界の下にヘルヘイム(冥界・地獄)、そして人間界ミドガルドの裏にヨツンヘイム(魔界)がある。3界とも人間界ほど大きな世界ではない。


 太古に、天界・地界・魔界があった。三界は不可侵で交流は無かった。やがて「三界が同等の立場で交流を出来る場所が必要」との考えに至り、三界の中間に人間界が作られた。天界が空間(空・大気)を、地界が大地と海を、魔界が生命を創造する。


 天界は人間界を見守るスタンスで、天災に対して人知れず手を差し伸べることはあっても、人災等の人間界の出来事には積極的には介入しない。

 冥界は個々の妖怪が物見遊山で人間界や魔界に介入することはあったが、天界との軋轢を避けるため、組織的介入は無かった。


 人間界の直ぐ近くにある魔界は、天界や冥界とは対照的で、魔族の長は自分達と似た姿をした人類を愛しており、魔人と人間の交流や技術提供に積極的だった。魔人は、たびたび、人間と接触を持ち、時として交配をした。その結果、人間は知恵を付け、火を武器にし、風に乗り、水を渡り、時には“魔力”を扱う者達が誕生するようになった。

 だが、魔族の長が死に、子のバルログが魔王を名乗った頃から様子が変わる。魔王は「人間がこれ以上の力を付けること」を危惧した。「人間に進化は必要無い」と主張して、力を持った人間を滅ぼす決意をする。族長のもう1人の子・バルドルは「人間の進化は必然」と考え、魔王バルログの意思に反対をした。


 当初は戦力は互角で膠着したまま、人間界侵攻派バルログ人間界友好派バルドルが和睦をして、争いは鎮静化するかと思われた。


 しかし、冥界で高みの見物をしていた妖族の一部が魔王バルログと手を組んだことで、状況は一変する。魔王は勝利に執着し、親から与えられたバルログの名を捨て、妖怪と似た姿を持つ魔獣(後のアナザービースト)を作って尖兵とした。

 バルドルは、アナザービーストを懐柔するシステムを開発して対抗したが、魔王軍の圧倒的な戦力を覆すことが出来ず、次第に追い詰められる。

 やがて、天界人のうち、革新派と呼ばれる者達が、魔界と冥界の共闘を見かねて独断で魔界大戦に介入をした。天界人が魔界に持ち込んだ“魂を司る力”とバルドルの技術によって、勇名に象られた魔法生命体・ガーディアン(マスクドウォーリア)が開発される。

 それは争いの激化を意味しており、王族間の内輪の政権争いは天と地の激しい代理戦争に発展をして、魔界全土に波及した。


 バルドルは致命傷を負って人間界に逃れ、人間達が自己防衛を出来るように、アナザービーストを懐柔するシステム=異獣サマナーシステムと、魔法生命体・ガーディアンの技術を人間に与えた後、姿を隠した。魔王は勝利したが、力を使い切り長い眠りに着く。

 そして、魔界全土は荒廃し、魔人族は大きく力を失った。主を失って統制が取れなくなったアナザービースト達は、狩り場を人間界に求めて活動するようになる。


 なお、主流の保守派に不満を持ち、許可を得ずに魔界大戦に介入した天界人達は、後の“天の反逆者”の礎となる。

 そして、魔法生命体の技術を記したうちの一冊は、不動明王ツヨシを経由して、弁才天ユカリが使用した。



「魔界大戦・・・ね」

「うん、あくまでも、僕の視点での概略。地獄界の汚点だ。

 魔界の争いなんて放っておけば良かったのに、

 妖怪が介入した為に激化してしまった。

 天界ではどう伝わっているのかは知らないけどね」


 源川崇が遠い目で空を見上げながら、独り言のようにして、ユカリに“魔界大戦のあらまし”を語る。


「アレは、マズかったよ。

 極楽のジジイ共(神々)が保守的だったから、どうにか納まったけど、

 一歩間違えれば、極楽と地獄の全面戦争に発展していた可能性があったからね」

「ふんっ、天界では、革新派が、その“保守”に不満を蓄積することになったのよ」


 ユカリは不動明王ツヨシと共に革新派のメンバーだったが、魔界大戦を経験していない。過去の出来事として伝え聞いただけだ。


「貴方も介入したの?」

「してないよ、バカバカしい。人間界で眺めていただけさ」

「なんで私にこんな話を?昔語りで私を口説いているのかしら?」

「美しい君を口説いたら妻に殺されちゃうな。でも、半分は正解。

 ただし、君を抱く為じゃなくて、

 歴史的事実を再認識してもらった上で、

 君が敵になって魔界人と手を組まない為に口説いている。

 最近、暗躍をしているのは、魔界人のように思えるからさ」

「今更、天地を転覆させるようなことに興味は無いわよ」

「それを聞いて安心をしたよ」


 欲する情報は得て、念の為に弁才天ユカリが状況を掻き回さないように釘も刺した。用件を終えた崇は、「サトリ(海跳)をよろしく」と託して立ち去る。




-文架総合病院-


 意識を失った麻由がベッドで眠っている。付き添いながら、真奈とジャンヌが、紅葉&美穂&バルミィに成り行きを説明する。

 美穂のサマナーホルダは、馬のアナザービーストと狼のアナザービーストを感知していた。だからこそ美穂は、麻由が、今更、アナザービースト程度に敗北したのが信じられなかった。そして、ジャンヌと真奈の説明を聞いて、更に脳内が混乱をする。サマナーホルダが反応を示したのだから、狼はアナザービーストに間違いは無い。だが、知能があって人語を話すアナザービーストなんて遭遇したことが無い。エリスのような、知能があって人語を話す奴は、アナザービーストではなく異獣サマナーのはずだ。


「一体、どうなっているんだ?」


 麻由が真奈とジャンヌのリンクに割り込んだ際にジャンヌが見たビジョン(干渉を拒否した不気味な女)も気になる。直後に、呼び寄せられるようにして、馬のアナザービーストと狼の怪人が出現した。今まで真奈が頻繁に狙われ続けた件と、何か関係があるのだろうか?




-熊谷邸-


 管理者代理の杉田義一(真奈の叔父)の立ち会いで、雛子と怜香が屋敷の中を捜索する。熊谷教授の死亡時の報告書では、宗教学を勤勉に研究していた教授の側面と、家族思いの父親の側面が解った。だからこそ、雛子と怜香は怪しいと感じた。当時の聞き込みでは、同僚や学生から「狂信的な一面があった」と評価されていたのに身辺が綺麗すぎる。なにか、裏の顔が隠されているのではないか?


「真奈には何も聞かない条件、本当に守ってくれるんだろうね?

 彼女は事件の事は何も知らない。父親の死の事は思い出させたくないんだ」


 躍起になって室内を見回す雛子&怜香とは対照的に、杉田の表情は浮かない。ソファーに腰を降ろし、心配そうな表情で女刑事達を見つめる。


「解っています。

 だから、真奈さんではなく、代理の貴方に立ち会っていただきました」


 杉田は、家宅捜索に手を貸すつもりは無い。顔をしかめたまま成り行きを見守る。



―杉田の回想・10年前―


 心理学助教授(当時)の杉田義一は、義兄で宗教学助教授(当時)だった熊谷伸幸と頻繁に会って、互いの学問の見地から意見を交わす関係だった。

 ある日、杉田は熊谷の家に呼び出されて、信じがたい光景を見せられる。


「スペードのA・・・ダイヤのJ・・・ハートのQ・・・」


 いつもとは違う“冷たい表情の真奈”が1人で神経衰弱をして、マークと数字を宣言してからカードを捲り、最後の1枚まで外す事なく言い当てたのだ。カードのシャッフルと配置は杉田が行った。熊谷の特殊な行動は真奈を催眠状態にしたことだけで、神経衰弱の間は合図をする素振りは一切見られなかった。


「さっぱりタネが解らないっ!」

「マジックなんかじゃないさ」


 熊谷が真奈の目の前で指を弾くと、真奈はいつもの明るくて年相応の表情に戻った。


「そろそろ、お友達と遊びに行く時間だろ?」

「あっ!もうこんな時間だ」


 真奈は「遊びに行ってくる」と言って部屋から出て行った。真奈の姿が見えなくなってから、顰め面をした杉田が熊谷を見つめる。


「さっきのは何だったんだ?暗示みたいな物をかけていたのは一体?」

「超能力って奴だよ。真奈はトランス状態になることで、それが出来る。

 ・・・さっきのは、透視能力と呼ばれてる物だ」

「・・・・信じられない」

「だが、事実だ。義一君は、この事実を、心理学の見地からどう見る?」

「『どう』と言われましても・・・。

 確かに、心的な強いストレスから、

 人智を越えた力を発揮したという事例は聞いた事がありますが・・・」

「なるほどな、心にストレスか?」

「義兄さんは、真奈ちゃんが強いストレスを受けるような心当たりでも?」

「あぁ、忘れもしない。

 初めて真奈の透視を見たのは、妻の葬儀を終えて帰宅した夜だった。

 最初は、落ち込んでいる私を手品で元気付けているのかと思ったよ。

 しかし違った。あの子には私の知らない能力があるんだ。

 私は、その日を、先立った妻が愛娘の為に力を与えた記念日に決めた」

「記念日・・・ですか」


 熊谷は超能力についての解説を延々と語り続けた。


「私は、この力は、真奈だけが特別に持つ力とは思っていない。

 これは人類の革新だ。

 きっと誰もが、何らかのキッカケで、この力を得られるはずだ」


 たびたび杉田に「心理学的な見地から意見」を求めたが、話を半分も理解できなかったので満足に答える事が出来なかった。亡くなった人が遺族に力を残すなんてオカルトな説は、杉田には専門外である。



―杉田の回想・数年前―


 お互い教授に昇進して数年が経過。熊谷は狂信的に超能力の研究を進めており、批判的な噂は畑違いの杉田の耳にも届いていた。


「今日も没頭しているのだろうか?」


 別の用事で熊谷が務める大学を訪れた杉田が、諫言をする為に研究室に顔を出す。だが、熊谷の研究室のは先客が来ていた。若い男が熊谷と差し向かいで真剣な表情で話し込んでる。


「取り込み中でしたか義兄さん。じゃあ、悪いから帰ろう」

「いや、構わないよ。

 それより、紹介しよう。被験体を引き受けてくれた割井くんだ」

「どうも、割井です」

「義弟の杉田と申します」


 割井は杉田に向かって小さく笑みを浮かべながら会釈をしたのだが、杉田にはその笑顔が気持ち悪く見えた。理由は解らないが生理的嫌悪を感じ、心が「関わり合いになりたくない」と警告してくる。同席をしたくない杉田は「やっぱり出直す」と言って研究室を後にした。

 その日の夜、杉田は「あの男(割井)からは志を感じられない」と忠告をしたが、熊谷は聞く耳を持たなかった。杉田は「人間が侵してはならない領域に踏み込もうとしていた熊谷の異様な執念」に漠然とした危機を感じていた。


 その数週間後、巻小希まき こまれというグラビアアイドルの変死事件が、世間を騒がせていた頃。


「俺は、とんでもない事に手を貸してしまったようだ」


 熊谷教授の表情は憔悴しきっていた。しかし、いくら問い詰めても、熊谷は「自分の蒔いた種は自分で刈る」「知れば迷惑をかける」の一点張りで何も語らなかった。ただ、一枚のメモリカードを杉田に渡す。


「もし、私に何かが有った時は、これを真奈に渡してくれ。

 真奈ならば、これに記録されている事の意味が解るはずだ」


 その日は、真奈の誕生日だった。プレゼントにしては色気が無い代物だったので、杉田はそれが誕生日プレゼントではないと悟った。


「私に出来る事は、これを渡す事で良いんだな」

「あぁ、それで良い。頼んだぞ」


 深々と頭を下げる義兄の姿が印象的だった。その日の夕方、熊谷教授は研究所内で変死体になって発見される。


 更に数日が経過して、熊谷の葬儀が終わった日の夜。杉田は、熊谷から「真奈に渡せ」と託されたデータをパソコンに繋いで確認をする。ディスプレイでは、在りし日の熊谷教授が、超能力にについての研究成果と持論を熟々と語り続けている。こんな記録が真奈への遺品?杉田には、内容が半分も理解出来ない。熊谷は娘に研究を引き継がせたいのか?杉田は、記録を見ながら首を傾げるばかりだった。


「・・・ん?」


 動画がある程度進んだところで、画面がロックされて、パスワードが要求される。この先は、研究の核心について触れられているのだろうか?研究の手順を示して、熊谷が出来なかった事を真奈にやらせる?

 しかし、このパスワードに至る前に、杉田の決意は固まっていた。義兄の遺言だとしても、この記録は真奈に見せない。彼女には、父親の不慮の死を一日も早く忘れてほしい。身寄りが亡くなった真奈を引き取って立派に成人させる事。それが、無き義兄への手向けと考える。

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