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48-1・セラフ敗北~割井の予知

-市街地周辺にある採石場-


 セラフ(麻由)が選んだのは、市街地近くに有る広い採石場だった。セラフを追ったワーウルフが到着をする。


「ほぉ?サービスが良いな。

 ワザワザ、人目の届かない場所を選んでくれるなんて・・・

 殺(犯)られる覚悟はできているってこと事か。

 これで中身が若くて容姿が合格点なら最高なんだがな」

「な、なに、こいつ?」

「先に言っておく!俺は面食いだ!中身が不合格なら糧にする!

 醜い自覚があるなら、俺に倒される前に念仏を唱えておけ!」

「薄気味悪いっ!」


 ワーウルフは仰け反って雄叫びを上げた後、両手を広げてセラフへの突進をする!セラフは戸惑いつつ素早く後退!

 彼は言葉が通じる相手だが、会話で相互理解を深め合うつもりは無さそうだ。


「てぇぇぇぇぇっっぃっっ!!!」


 セラフが横移動をしながら弓を構えて矢を連射をする!突進中のワーウルフは、鋭い爪で飛んでくる複数の矢を弾く!複数本の矢の中に、意志通りに飛ばせる“念糸の矢”も混ぜているのだが、通常矢を射る場合と“念糸の矢”を射る場合のセラフの呼吸の違い(足を止めて呼吸を整える)を見抜かれて、ワーウルフに優先的に叩き落とされてしまう!


「・・・くっ!」


 “念糸の矢”を2本以上飛ばせれば戦略的な広がりを作れるのだが、今のセラフ(麻由)には不可能。何度か2本以上の‘念糸の矢’の同時発射の訓練した。だが、2本が並んで同じ軌道を飛ぶか、別々の軌道で飛ぶが長時間の維持が出来ずに直ぐに消えてしまい、2つ以上のことを同時に集中して行う難しさを痛感した。


「だけどっ!この矢ならっ!!」


 ワーウルフから距離を空け、足を止めて呼吸を整えるセラフ!念を込めた矢を出現させて番え、鏃をワーウルフに向けて弓を押して弦を引く!この一連の行動を見たワーウルフは「今までと同じ誘導できる矢」と判断して、叩き落とそうとするだろう!だが、それこそが、セラフの狙いだ!理力コントロールが出来るようになった今ならば、成功させる自信はある!鏃に貯まった理力が放電をする!


「行けええええええええええええええええっ!!!!」


 目一杯に引き絞って、ワーウルフに向かって矢を射る!ワーウルフは、矢の速度を計って拳を振り上げ、爪を叩き付けた!その瞬間、ワーウルフの眼前で光の矢が広がって黄金色のは曼荼羅に変化!コントロールされた理力により“天の曼荼羅”ほど広範囲の射程を持たない代わりに、消耗も抑えられる応用技の“法雨”発動!大量の破壊力のある光が、ピンポイントでワーウルフに放出をされる!


「ぬおぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 ワーウルフは両腕でガードをするが、凌ぎきれずに弾き飛ばされる!その間にセラフは腰に装備してある小太刀を抜刀し、カマイタチのキーホルダーを柄に引っ掛けて突進!ワーウルフが体勢を立て直すよりも早く、懐に飛び込んで小太刀を振り下ろ・・・


「ま、待ってくれぇっ!!俺が何をしたぁ!?」

「・・・なっ!!?」

「殺さないでくれっ!俺を倒して、どうするつもりだぁっ!!?」


 手のひらを向けて、制止を要求するワーウルフ。命乞いをしてきた敵など経験が無い。セラフは困惑をして、カマイタチの真空波を発動させる直前で足と剣を止める。


「どうもこうも、いきなりアナタが襲ってきたから応戦を!」

「俺だって、必死なんだよ!

 人間とは違う姿の者に遭遇したんだから、

 驚いて戦おうとするのは当然の心理だろう!?」

「た、確かに・・・そうですが・・・」

「だけど、戦ってみて解った!オマエの行動には理性が感じられる!

 オマエは人間なんだろう!?」

「・・・えっ?・・・えっ?」


 ワーウルフの言い分は噛み合わない。奴は最初から「セラフを人間」と認識した上で悪趣味な言動をしていた。セラフの聞き違いだったのか?それとも、どんな惨めな言い訳をしてでも助かりたいのか?

 いずれにしても、戦意が喪失した相手に刃を向ける理由は無い。あとは会話で解決できそうだ。セラフは小太刀を腰に備えた鞘に納刀する。それを見たワーウルフは口尻を上げた。



-少し離れた上空-


 ジャンヌと真奈を乗せたユニコーンと、バルミィが、空から戦場に向かう。一定の距離まで近付いたところでバルミィの表情が険しくなった。彼女の優れた視力には、遠くの空き地に居るセラフの行動が見え、彼女の耳にはセラフとワーウルフの会話が聞こえる。


「あの子、また甘い事をっ!!マズいばるっ!」

「どうしたの、バルちゃん?」

「麻由が、いつもの悪いクセを発揮しちゃってるばるっ!

 ジャンヌ、真奈、急ぐばるよ!」


 バルミィはハイアーマードを装着!ジャンヌはマスクドジャンヌに変身!採石場に向けて飛行速度を上げる!




-市街地周辺にある採石場-


「オマエ、随分と強いが、まだまだ幼い。社会人ではなさそうだな。

 『知らない人を信じちゃいけない』って親から教わらなかったのか?」

「どういうことですか?」

「それはな・・・。こういうことだっっ!!」


 セラフ(麻由)に向けられていたワーウルフの手(指先)から弾丸が発射されて、無防備に立っていたセラフに着弾!悲鳴を上げて弾き飛ばされ、地面を転がるセラフ!ワーウルフは素早く立ち上がって、セラフが体勢を立て直すより早く接近して、首を鷲掴みにした!ワーウルフの掌が光り輝いた途端、セラフの全身が脱力して、踏ん張りが利かなくなる!


「くっくっく・・・俺の特殊能力・エナジードレインだ。

 どうだ、俺のテクニックは?激しすぎて足腰が立たなくなるほど刺激的だろ?」

「・・・ひ、卑怯な」

「敵を目の前にして無防備になるオマエが純粋すぎるんだよ、お嬢ちゃん。

 さて・・・掌からでも、生命を吸えるのだが、俺は、こっちの方が趣味だ!」

「きゃぁぁっっっ!!!」


 ワーウルフは、セラフを力任せに手繰り寄せて押さえ付け、後頭部を鷲掴みにして自身の口をセラフの口部分に押し当て、マスク越しの口吻をする!途端に、セラフの“対抗しようとする力”が急激に奪われていく!


(・・・くっ!力が入らない。このままでは、生命力を奪い尽くされてしまう)


 ドラキュラのエナジードレインは、体内に貯蔵されている生命力を強制的に吸収した。恐ろしい技だったが、「生命力を奪われる」を前提にして攻撃を仕掛けることは出来た。しかし、ワーウルフのエナジードレインは、抵抗しようとして発した力を奪い取る。抵抗すればするほど抗う力を吸収されて、無抵抗の状態にされてしまうのだ。戦おうと思って発した力を吸収されてしまったら、戦えるわけがない。


「・・・うぅぅっっ!」

「くっくっく・・・どうだ、俺の口吻は抜群だろう!?

 優葉や他の女達も、俺の口吻に抗えた者は誰も居ない!

 皆、最初の数秒は拒んでも、直ぐに抵抗できなくなり、

 あとは、なすがままだった!

 オマエも“合格”なら、骨抜きにして飽きるまで飼い慣らしてやるよ!

 もっと、パワーダウンをすれば、

 変身が強制解除をされて中身を拝めるんだろ!?」


 マスクやプロテクターで防御力や抵抗力を上げているのに、急激に生命力を奪い取られてしまった。もし、生身のまま口吻をされたらどうなる?瞬く間に、生命力を根こそぎ吸われてしまうのではないか?


「くっくっく・・・安心しろ。

 “合格”なら、直に口で吸ってやる代わりに殺しはしない。

 遺体に俺の唾液が付着するのはマズいかなら。

 ただし“不合格”なら、掌で全生命力をもらってやる!

 さぁ、オマエはどっちかな?」

「くぅぅぅぅっ・・・い、意識が・・・」


「はぁぁぁっっっっっ!!!テュエ・ディユ・セルパン!!!」


 上空から、ワーウルフに向かって蛇のように伸びる光が降り注ぐ!セラフから手を離して、辛うじて回避をするワーウルフ!光蛇はセラフに衝突する寸前で軌道を変え、空に伸びていって消滅する!ワーウルフは小さく舌打ちをして、解放されたセラフは仰向けに倒れた!


「何者っ!?」


 マスクドジャンヌが着地をして、セラフを庇いながらオラクルフラッグ(先端が槍状の旗)を構える!応じて構えるワーウルフ!気配を察知して振り返ったら、HAバルミィが右手甲の砲門を構えている!


「あの顔は・・・確かバルカン人。

 ・・・ん?奴が抱えているのは?」


 バルミィが抱えている少女には見覚えがある。数日前にTV番組のスカウトに来て接触したグループの中に居た少女で、且つ、つい先程、不法侵入した家に有った写真に写っていた少女だ。


「熊谷教授の娘・・・か」


 文架市に来た目的のド本命が目の前の空に居る。今すぐ交戦をして戦利品にしたいが、2対1では分が悪い。「真奈の獲得」と「セラフの中身の合否を判定」できないのは惜しいが、リスクの高い賭けはしたくない。ジャンヌとバルミィを交互に見て方向と距離を計る。


「ガアアアウウウウウウウッ!!!!」


 ワーウルフの雄叫びに呼応してジャンヌとバルミィが構えた!しかしワーウルフは、2人が構えた隙を突いて素早く逃走を開始!

 ジャンヌとバルミィは拍子抜けをしてしまう。セラフの変身が強制解除をされたので、直ぐ傍に居たジャンヌが駆け寄っての安否を確認する。バルミィはワーウルフの追跡をしたが、真奈を抱えていたので高速で追えず、ワーウルフの姿を見失ってしまった。しばらく飛び回って“怪しそうな奴”を捜した後、収穫を得られずにジャンヌが待つ採石場に戻る。




-十数分後・熊谷邸-


 真奈の生家に戻ってきた(不法侵入)割井は、リビングのソファーに横になり、セラフの味を思い出して、満足そうな笑みを浮かべる。彼女の生命力は今までで一番美味かった。あの芳醇さは若い味だ。あのコクは高い才能の味だ。今まで生命を吸った女達なら、あれだけの量を吸う前にミイラになっていただろう。しかし彼女は戦闘で消耗していたにも係わらず、まだ奥に備蓄があった。


「くっくっく・・・あれで“合格”なら、当分は“飼い鳴かせたい”のだがな」


 もう一度、あの味を堪能したい。凄まじく甘ちゃんで隙だらけだったが、かなり強かった。次は、今回のような「ガキしか引っ掛からないような演技」では通用しないだろう。再び、あれを味わう為には、もっと強くなる必要がある。割井はソファーから立ち上がり、室内に飾られている熊谷家の家族写真を眺める。


「その為にも、まずは、熊谷教授の娘だ。これを食えば、俺はもっと強くなる。

 ・・・ん?待てよ?」


 先日、スカウトで文架市を訪れた時に接触した女子高生グループに、真奈とバルミィが居た。他には、ツインテールの美少女と、ロングヘアの美少女と、気の強そうな少女と、西洋人がいた。今日遭遇したのは、真奈とバルミィ。そして、巫女ふうの黄色い鎧武者と、青銀の騎士。


「もしかして、全員、あの時の連中か?」


 青銀の騎士は接触時間が短かったので、中身が誰なのか察することは出来ない。だが、戦闘をした黄色武者は丁寧語を喋っていた。先日の女子高生グループにも丁寧語の少女がいた。


「ロングヘアの娘か?

 ふっふっふ・・・文句無しの合格じゃね~か。

 良いねぇ、文架市。この都市は、俺が成り上がる為の宝庫だ!」


 突然、割井の脳内に「経験をした事の無いビジョン」が浮かぶ。熊谷邸の前に警察車輌が駐まり、気の強そうな女刑事と、記者ふうの女が姿を見せる。先ずは割井の車を発見して、それから、屋敷の中に入ってきて、リビングに居た割井を見付けて女刑事が銃を構える。そこで脳内映像は終わり、割井は我に返る。


「何だ、今のイメージは?」


 記憶には無い女刑事と女記者。思い出とは違う。嫌な予感がしたので、念の為に、熊谷邸の前に駐めてある車に乗って、路地で曲がって車を駐め、物陰に隠れながら様子を見る。しばらくすると、警察車輌が走ってきて熊谷邸の前で停車。脳内ビジョンと同じ女刑事と記者ふうの女、そして中年の男が、車から出てきて、熊谷邸に入っていった。


「同じ光景?・・・予知ってやつか?」


 女刑事達を隠滅するのは簡単だが、まだ、警察に疑われたくはない。事前に逃げて正解だった。


「くっくっく・・・これは良い」


 割井が笑みを浮かべる。美味い物を食ったので、能力が活性化をして今までに無いスキルを得られたようだ。


「食いたい、食いたい、食いたい、文架市に存在する美味い物を全て食いたい!

 手始めは、熊谷の娘だ!

 熊谷教授によって発現した能力は、

 その娘の命で、更なる高みに飛ぶ足掛かりになる!」


 つい持ち出してしまった写真立てを眺める。そして、目を細めて愛おしむようにして、写真に写った真奈の顔をなでる。

 途端に、写真に宿った“真奈の記憶”が“新たなるビジョン”となって脳内に浮かぶ。学校の校舎と住宅街の一角にある家。校舎は先日のスカウト時に調べたので、真奈と仲間達が通っている学校と解る。家は熊谷邸とは違った。表札には“杉田“という苗字が掲げられていた。


「これも予知?それとも別のスキル?」


 今まで、半日近く熊谷邸で待ったが、娘が帰ってくる気配も、郵便や小包が届く様子も無かった。


「教授の娘は何処かに引っ越した?・・・杉田という家に居るって事か?」


 見えたビジョンの意味は理解出来ない。しかし、熊谷邸に警察が来る予知を当てたのだから、ただの“思い付き”ではなく“何かの意味”がある事は解る。警察が踏み込んできた熊谷邸には、もう滞在できない。割井はワンボックスに乗り、次のヒントを捜してアクセルを踏む。


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