47-4・セラフvs馬&狼~雛子と怜香
「も、もう一度、試してみる?」
「そ、そうですね。少し休んだら、もう一度、お願いします」
「大丈夫かマユユ。無理をせぬように」
麻由の全身には、まだ鳥肌が立っている。だけど、「言われた通りにリンクに干渉したら、不気味な女に話しかけられました」「以上報告終わり」では済ませられない。それが何なのか確かめてみる必要がある。
「なんだ!?」 「何か来ますっ!」 「えっ?」
ジャンヌとのリンクを強く意識した真奈と、魔力変換をした麻由。そして魔力で精製されたジャンヌ。これらの力は、天狗が放った刺客に存在場所を示してしまった。
「ヒヒ~~ン!!!」
周囲に響き渡る低い嘶き声。麻由&真奈&ジャンヌが声のする方に振り向いたら、馬の意匠のアナザービースト=ラムポスが近付いてくる。
「アナザービースト!?」
「私が倒した怪物の色違いか!?」
「私を狙っている!?・・・・うぅっ!!」
構える麻由とジャンヌ。真奈は安全圏に退避をしようとするが、内側から何かに全身を突き破られる様な錯覚に陥って蹲る。同時にジャンヌは、真奈とのリンクが薄くなってことことに気付く。
「マユユッ!あの馬は危険だ!マナから引き離さねばならぬようです!」
ジャンヌが真奈を庇うようにして構え、麻由はラムポスの横に廻り込むようにして駆ける!
「幻装っ!!」
麻由の全身が輝いて聖幻ファイターセラフ登場!ジャンヌは苦しむ真奈を抱えて塔屋の中に退避をする!
セラフは素早く梓弓を召喚して光の矢を射た!ラムポスは拳を振るって光の矢を叩き落とす!セラフはラムポスとの距離を確保しながら、すかさず、2射目、3射目を射る!ラムポスは、2射目を回避して3射目は素手で弾き飛ばし、セラフを邪魔者と判断して突進をしてきた!
「掛かった!」
セラフは足を止め、念を込めた矢を番えて鏃を上空に向けた!問答無用で突進をしてくるラムポス!その背後から、先ほど回避した2射目が迫ってきた!それは、回避されたのではなく、セラフが意図的に回避をさせた“念糸の矢”!迫り来るラムポスの背に、セラフの意志通りに飛ぶ矢が突き刺さる!
「ヒヒィィィンッッッッッッッ!!!」
ラムポスが悲鳴を上げた瞬間、セラフはラムポス頭上の上空に向けて理力が蓄えられた矢を放った!光の矢は上空で曼荼羅へと形を変える!天の曼荼羅・法雨発動!大量の破壊力のある光が、豪雨の如くラムポスに降り注いだ!
奥義の直撃を喰らったラムポスは、まだ息はあるが動けない。セラフは真奈を襲った目的を確認する為に、一定の警戒をしたままラムポスに寄って行く。・・・が!
上空から、何かが落ちてきて、屋上に着地をする轟音が鳴り響く!
「怪物?ヒーローショーの着ぐるみ?・・・いや、違うな。
何かの気配を感じて来てみたが・・・オマエは何者だ!?」
麻由&真奈&ジャンヌの一連の魔力発生に誘い出された者は、ラムポス以外にも居た。金色の毛並みをした狼の怪物=ワーウルフが、セラフの前に立つ。
「オオカミの怪物・・・アナタは一体?」
あきらかに“ただのアナザービースト”とは違う。狼の怪物は人語を話したのだ。
「ほぉ・・・その声は女だな。道理で華奢な姿をしている」
「・・・そ、それが何か?」
「ん?・・・美味そうだと思ってな!」
そこからのワーウルフの行動は早かった!セラフがワーウルフを「敵か味方か」を判断するよりも早く突進して懐に飛び込む!そして、セラフが防御態勢を取る前に、腹に蹴りを叩き込んだ!
「くっっ!!」
弾き飛ばされて屋上手摺りを越え、真っ逆さまに落ちるセラフ!どうにか体勢を立て直して足で着地をして、屋上を見上げる!ワーウルフは、屋上手摺りから身を乗り出して、地面に向かって急降下!着地するのと同時に、セラフに向かって拳を放った!セラフは半歩退いて回避!構えながら周囲を確認する!
「こ、こんなところで戦うつもり?」
周囲では、散歩中の患者や見舞客が「何事か?」と、セラフとワーウルフを眺めている。言うまでもなく、眼前には病院の建物が建ち、窓が並んでいる。しかし、ワーウルフは構う事なくセラフに突進をしてきた!
「・・・くっ!付いてきてっ!」
セラフはワーウルフに背を向けて、素早く移動を開始。高い跳躍で民家の屋根に飛び上がって足場にして、更に中層ビルの屋上に飛び上がり、屋上から屋上へと飛び移って走りながら戦えそうな場所を捜す。
一方のワーウルフは、遠ざかっていくセラフを眺めながら満足そうに頷く。彼女の一連の行動から、一定の知能と一般常識を持っている事が推測できる。人語も話した。つまり、自分と同じ、特殊能力を持った人間の可能性が高い。
「くっくっく・・・文架市に来て正解だった」
ワーウルフは、大きく助走を付けてジャンプ。屋上から屋上へと飛び移り、セラフを追う。
「マユユっ!」 「麻由ちゃん!」
真奈とジャンヌが塔屋から飛び出してきて、遠ざかっていくセラフと狼の怪物を眺める。いつの間にか、馬のアナザーは姿を消していた。ジャンヌは直ぐに麻由の援護に行きたいのだが、「真奈が、また狙われる可能性」を考えると真奈から離れられない。
「ジャンヌさん、行こうっ!」
「・・・え!?」
「麻由ちゃんの援護に!」
「マスター?」
「ちょっと怖いけど、任せて待ってるってワケにはいかないよね」
「すまない、マスター!」
ジャンヌは真奈に一礼をすると、懐中時計のペンダントを握り締めて魔力を込めてユニコーンを召喚した。先ずはジャンヌが飛び乗り、真奈に手を貸して後ろに乗せ、手綱を引いてユニコーンの脇腹を足で軽く蹴る。ジャンヌと真奈を乗せたユニコーンは、屋上から飛び上がって空を駆け、セラフを追っていく。
-文架警察署-
病院から戻った雛子のところに、ジャーナリストの怜香が尋ねてきた。
「早速だけど貴女の持っている情報を教えてくれないかしら?」
「もちろんよ。その為に来たんですからね」
怜香は以前から”若い女性が不審死をする事故”を追っていて、その女性達の多数が『超食クイーンGP』の出演者と突き止めた。そして今回の”湯内優葉の不審死”が発生した。「事故ではなく事件の可能性がある」と判断した怜香は、コネを使って”湯内優葉に関する重要な情報”を手に入れる。
「先ずはこれを見て。
警視庁が同じ物を得ていたとしても、
他部署の夏沢さんが見る機会は無いでしょ?」
怜香はモバイルパソコンを操作して、雛子に見せる。画面には何処かの駐車場の防犯カメラの映像が映っていた。
「湯内優葉さんのマンション駐車場の防犯カメラよ」
映像の近景から駆けていく女性らしき背中が映る。映像の遠景では男性らしい人影が立っていて、寄って行った女性と共に柱の影に隠れる。傍目には、カップルが人目を忍んでるようにしか見えない。
数十秒後、女性が後退りをして、柱の影から出てきた。様子がおかしい。怯えているようだ。女性を追い詰めるようにして、柱の影から人型の獣のが出てくる。
「・・・怪物!?」
次の瞬間には映像が乱れて砂嵐状態になり、次に映像が整った時には女性だけが倒れていた。
「これって、まさか?」
「お察しの通り、湯内優葉さんの変死現場よ」
肝心の犯行現場が映っていない。逢瀬の男に殺害されたとしても、これでは立証できない。雛子は「何か手掛かりは無いか?」と映像を遡って再確認をする。
「・・・え?目撃者?それとも共犯者?」
1度目の視聴では、柱付近の男女だけに集中をしていたので気付かなかったが、いつの間にか、人のような何かがフレームインをして女性と怪物を眺めている。それの周りだけが、黒いモザイクでもかかったかのようにハッキリとは見えない。それは、防犯カメラに向かって「撮っているんだろ?」と威嚇するようにして、カメラ目線になって冷たく微笑んだ。その直後に映像は砂嵐状態になる。
「何これ?」
闇のモヤに包まれて歪んでいるのに、氷の微笑だけはハッキリと見えた。雛子の背筋が凍る。いつからこんな人影が映っていたのか解らない。再び映像を遡って確認をするが、0.1秒前には居なかった物が次の瞬間には立っているのだ。忽然と出現したようにしか見えない。脳に焼き付いた氷の微笑を思い出すだけで気分が悪くなる。
「男は番組プロデューサーの割井和留雄よ。
数分前の付近の防犯カメラに割井の車が映っているわ」
怜香の声で雛子が我に返る。
「彼は“事件”について、確実に何かを知っているはずよ」
怜香はTVトキオに連絡を入れて割井にアポを取ろうとした。しかし通話相手からの返事は「ロケハンの為に文架市に行っている」だった。文架市は、人智を超えた不可解な事件が何度も起こり、女子高生達が人知れず戦う都市。その地に数々の不審死と関係する男が入り込んでいる。
「まいったわね。
警視庁でも辿り着いていない発想を、民間企業が辿り着くなんて・・・」
「人智を越える事件には、それなりに免疫が出来ましたからね」
雛子も「人智を越える事件」には免疫があるので「怜香の発想が見当違いではない」と判断した。同時に、映像を入手したのが比較的協力的な怜香の会社で助かったと感じる。こんな情報が、売り上げのみを目的にする会社に渡って公開されたら、世間は大混乱をしてしまうだろう。
「これは、あくまでも私の勘だけど、
貴女、また、人が踏み込んじゃいけない事件に首を突っ込んでいるわよ。
私の意見を聞く前に、貴女にその覚悟はあるのかしら?」
雛子が怜香の顔を睨み付ける。この女記者は鋭い勘を持っている。勘に頼って動き回れば、必ず何処かで事件に巻き込まれるだろう。現に、エリス(鏡像の美穂)には殺されかけている。だがそれでも、怜香は勘で異常事件を嗅ぎ付けて寄って来た。
「もちろん覚悟はあります。
覚悟が無ければ、ジャーナリストなんてしていませんからね」
想定通りの答えが返ってきた。雛子は溜息をつき、データベースにアクセスをして、ここ数年の女性変死事件を洗い出し、「割井の関係者」を確認する。ヒットをすれば、怜香の勘は証明されるだろう。
-数分後-
検索の結果、湯内優葉の他に、浦賀エル(うらが える)、魏星紫耶、巻小希、栄木羊が、割井プロデューサーの絡むテレビ番組の出演経験がある変死者だった。確かに、この情報だけを見れば「割井は黒」と思える。しかし、雛子と怜香の捜査は、暗礁に乗り上げていた。
「・・・う~~~ん」
「困りましたね」
警察のデータベースを調べれば、変死事件から割井に辿り着けるかと思ったのだが、考えが甘かった。人間の科学では証明できない未解決変死が、想像以上に沢山ヒットしたのだ。
全ての犯行を割井がやったと考えるのは不可能だ。総合的に見れば、割井が不可能殺人を起こしているのではなく、不可能殺人のうちの数件が、たまたま、割井の周りで起きていたと思えてくる。これでは、警視庁は割井を重要参考人として扱えない。
改めて考えれば、文架市内においても、妖怪や怪物による不可思議事件は多数発生している。
「私達の思い違いだったのかしら?」
「イイ線、行ってると思ったんですけどね~。
そう言えば、数年前にも、文架市で、変死事件がありましたよね?」
「私が文架署に赴任する前の事件だから、詳しくは知らないけど、
あの時の被害者は大学教授。女性ではないわ。
それに、あの事件は、不可能殺人とは言っても、確か外傷があって・・・」
雛子と怜香は女性の変死を軸にして調査をしていた為、市内の大学教授の事件は頭の片隅にも置いていなかった。「割井とは無関係」と思いながら、成り行きで検索をかけてみる。そして、被害者の名前を見た途端に、雛子の表情が険しくなった。
聞き覚えのある苗字。確か“彼女”は数年前に父を亡くし、今は叔父の家に住んでいると聞いている。
「・・・これは?」
熊谷伸幸 変死 大学の研究所内にて死亡。腹部に痣があり。
司法解剖の結果、内臓の圧迫が死因と判明。人間の力では不可能な犯行。
続柄欄に示されている長女の名は、雛子が良く知っている名前だ。
重機も何も無い研究室で、内臓を潰して殺害するなんて不可能。ゆえに、この件は、事件とも事故とも断定できずに迷宮入りをした。
今現在、真奈は、人間では不可能な犯罪(妖怪事件)に対応するグループに所属をしている。そして、真奈の父は人間の犯行では不可能な死因で他界した。これは、「血は争えない」「似た物親子」的な、ただの偶然なのだろうか?
割井が文架市に入ったのは偶然で、真奈と割井は全く関係無い?何もかもが怪しいが何も繋がらない。
「熊谷さんと割井さん、接触させるのはマズいかもしれないわね」
確証は1つも無い。だが、雛子の勘と怜香の勘は「これら2つの事件は、根底では繋がっている」と言っている。




