47-3・真奈脱走~麻由と真奈のリンク
―文架総合病院・救急外来―
美穂&バルミィが紅葉を連れて戻ってきた。真奈が意識を取り戻したのを知って安堵をした後、「買い出しに行く」という建前で、麻由&ジャンヌを連れ出す。
売店で適当にお菓子やジュースを購入して、誰が提案するでもなく屋外に出て適当なベンチへ。先ずは、美穂が「エリスの独断で命を狙ったのは真奈だけ」と「インバージョンワールド内で真奈に感じた違和感」を説明して、続けてジャンヌが「時々リンクが薄くなる」ことと「何故、弁才天ユカリは真奈に白羽の矢を立てたのか?」の疑問を投げ掛けた。
「マスターが、アナザービーストの自決を平然と眺めていたのですか?」
「あの時は真奈さんの無事だけを考えて、他のことには気が廻りませんでしたが、
確かに、真奈さんがインバージョンワールドに引き込まれてから、
美穂さんが救出に向かうまで、数分のタイムラグがあったにも関わらず、
真奈さんが無事だったというのは不思議ですね」
「どんな条件だと、ジャンヌと真奈のリンクが薄くなるのか確認するべきだな。
ジャンヌと真奈の間に立つ“別の存在”ってのは、
麻由のことではないんだよな?」
「言われてみれば、弁才天が紅葉と麻由を倒す為に、
ボク達の仲間をジャンヌのマスターにしたってのは不思議ばるよね」
「ん~~~~~~~~・・・みんなの話を纏めると、マナゎスゲーってことだね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4
美穂&麻由&バルミィ&ジャンヌが、呆れた表情で一斉に紅葉に視線を向けた。紅葉の感想は間違いではないのだが、「真奈は凄い」で話が終わったら、誰も悩んだり真奈を心配せずに済む。
「あのな、紅葉。あたし達の話、どう聞いていたんだ?」
「真奈さんには、私達には理解の出来ない謎があるのかもしれないのですよ。
単純に『凄い』で終わらせて良い話ではないのです」
「ん~~・・・でも、凄いよね。
だって、マナはなんかヒミツがあるから、
ユカリの家来にされたり、ジャンヌのマスターになれたり、
アナザービーストに狙われて普通ならダメなのに助かったんだよね?
ジャンヌがマナを感じなくなる時って、何かジャマ者がいるっぽいんでしょ?
蛇が死んだ時、もしかしたら、
ジャンヌがジャマって思ってる真奈の秘密みたいなのが目覚めてたんぢゃね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4
紅葉の言う通りだ。「真奈は凄い」で終わらせては拙いが、真奈は何らかの秘密があり、それ故に弁才天ユカリに利用されて、ジャンヌのマスターになり、エリスに殺されかけ、アナザービーストに襲われても無事だった。真奈の中にある秘密が目覚めるとジャンヌとのリンクが薄くなり、目覚めていたから蛇の怪物の自決を見ても平然としていた。
「鏡の国のミホがマナをやっつけようとしたのは、
ミホの気持ちとはカンケーなくて、
マナのヒミツが怖かったのかもね~。
ちゃんと目覚めちゃうとやっつけられちゃうから、
その前にやっつけようとしてたとか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×4
全部正解のような気がしてきた。全部が上手く繋がったが、おバカさんな紅葉の予想なので美穂&麻由&バルミィ&ジャンヌは釈然としない。
真奈の秘密を少なからず把握しているのは、弁才天ユカリかエリス(鏡像の美穂)になる。だが、捕まえて知ってることを白状させたくても、何処に居るのか解らない。
「あの・・・弁才天等へのアプローチとは全く別の手段なのだが、
マユユに試してもらいたいことが・・・」
「えっ?私に・・・ですか?」
「先程(真奈が目覚める直前)マユユは、自らの生命力を魔力変換して、
何かを試そうとしていたな?
あれは、魔力でマナに何らかの干渉しようとしていたのでは?」
「き、気付いていたのですか?」
「私は魔力で作られた魔力起源の守護者です。
マユユが微弱ながらも魔力を発していたことには気付いて当然だ」
「た、試そうとしたのは事実ですが、何の確証もありません」
「ま~た尻込みばるか?麻由の悪いクセばるよ!
他に手段が無いなら、ダメ元で試してみるばる!」
「で、ですがっ!」
「『ですが』じゃね~よ!ぐだぐだ言うな!バルミィの言う通り!
とりあえず、やるだけやって、
ダメだったら、弁才天やエリスを探すとか、別の方法を考えるべきだ!」
ジャンヌと真奈は生命力がリンクをされている為に、ジャンヌは真奈の異常を感じることが出来る。また、ジャンヌの過去の記憶が、真奈に無意識に流れ込んでくる。そして、2人の繋がりを補助する為に、麻由もリンクされている。麻由とジャンヌが間接的にリンクされていたので、意図せずに麻由とジャンヌの間に入った葛城昭兵衛の念が実体化をするという想定外が発生した事もある。だから、麻由は「真奈とジャンヌを繋いでいる魔力と同じ物を発生させれば真奈の内面にリンクできるかも」と考えたのだ。
麻由達は知らないことだが、現に、ヴラドには補助者の弁才天ユカリの過去の記憶が流入したことがある。
≪桐藤さん。ナースステーションまで、お越し下さい≫
「ん?何ばるか?」 「あたしに呼び出し?」
放送で呼び出されてナースステーションに向かう。そして、報せを聞いて一斉に動揺した。医師や看護師が目を離した隙に、真奈が何処かへ行ってしまったのだ。
「あのバカっ!」
美穂は真奈に連絡を入れるが、応急外来に残されていた真奈の私物の中でスマホのコール音が鳴るばかりだ。
「とにかく、探しに行きましょう」
紅葉は山頭野川(西)方面へ、美穂は杉田邸(北)方面へ、バルミィは空から鎮守の森公園付近(南)方面へ、麻由は病院内で真奈を捜索する。ジャンヌはユニコーンバイクを召喚して東方面に向かおうとしたが、少しバイクを走らせたところで停車をして病院方向を振り返った。
普段はあまり意識したことは無いのだが、今は、真奈を心配するあまり、真奈との繋がりを意識的に感じ取ろうとしている。そして、元々微弱だった真奈との繋がりが進んだ距離と反比例をした。
「・・・まだ病院内にいるのか?」
一方、杉田邸に向かって小走りをしていた美穂のスマホがコール音を鳴らす。発信者はバルミィだった。美穂は足を止めて通話に応じる。
「どうした?発見したのか?」
《空から探しても、真奈の姿は見えないばるよ。
私物を置いて飛び出しちゃったから、
直ぐには、そんなに遠くには行けないと思うばるけど。
もしかして、まだ病院内にいるってオチは無いばるかな?》
「あたしの予想では、50%以上の確率で、まだ病院内に居ると思ってる。
アイツ(真奈)、かまってちゃんのところが有るから、
ちょっと姿を隠しただけじゃないかな?ってね。」
《ばるっ!?なら、なんで病院の外を探すばる!?》
「言ったろ。予想は50%程度。外してる可能性もあるから外も探すんだよ。
それに病院内の捜索は麻由が担当してるだろ」
《もしかして、病院内の捜索はワザと麻由に任せたばるかっ!?》
「一番可能性の高い病院を麻由に担当させたのは、
アイツ等をツーショットにする為だ。
真奈は、あまり人に会いたくないだろうし、
麻由は『失敗する可能性がある試したいこと』を
皆の前では試しにくいだろうからな。
上手く接触できれば、2人の利害は一致するわけだ。・・・それに」
《・・・ばる?》
「もし、真奈がイジケているとすれば、真奈の気持ちに一番より添えるのは、
落ち込むエキスパートの麻由だろうからな」
《ばるるっ、美穂はそこまで考えていたばるか?》
「まぁ~ね」
そこまでは自信満々に話していた美穂だったが、急に自信なさげな表情になって会話を止める。
《美穂?どうしたばるか?》
「・・・なぁ、バルミィ」
《ばるっ?》
「あたしさ、麻由が仲間になったばっかの頃、
アイツの出来ないっぷりに、だいぶカッカした。
だけどさ、本来は何も出来ないアレが普通なんだろうな。
真奈の周りで色んな事が起きて、真奈には処理が出来なくなってきて・・・
今の真奈は、以前の麻由と同じなんだろうな」
《急にどうしたばる?》
「あたし・・・ヘタレた奴の尻を蹴っ飛ばすことは出来るけど、
落ち込んでる奴の気持ちになるの、あんまり得意じゃないからさ・・・」
《ばるっ!ねぇ、美穂っ!
ボクには、地球人の順応性や学習能力は、よく解らないけど、
でも“強気な美穂”だったから、
初めて出会ったボクを受け入れてくれたんじゃないばるか?
ボクは、とっても感謝してるばるよっ!
美穂は、今のまんまでいてくれなきゃ、ボクが困るばるよっ!》
「ははは・・・サンキュー」
美穂は、耳に当てたスマホを強く握って照れ笑う。バルミィのおかげで、少し気が楽になった。
「さっきも言った通り、真奈が病院にいない可能性だってある。
だから、引き続き真奈の捜索は続けてくれ」
《了解ばるっ!》
通話を終えた美穂は、しばらく病院の建物と空を眺めた後、踵を返して再び杉田邸(真奈の居候先)に向けて駆け出した。
-病院の屋上-
空に居るバルミィが背を向けて遠ざかっていくのを、真奈は塔屋の影に隠れて眺めていた。空から捜索されたら一発で見付かってしまうと警戒していたが、上手くやり過ごせた。壁に凭れ掛かりながら座り込んで、小さく溜息をつく。
皆に迷惑を掛けてしまった。今回だけではない。バルカン人に拉致されたり、弁才天に洗脳されたり、目の前で片輪車に半田好代を拉致されたり、美穂の偽物に騙されて殺されそうになったり、仲間達に迷惑を掛けてばかりだ。
何も出来ないのに名ばかりの“副部長”って肩書きを付けていて、我ながら痛々しく思えてくる。
「やはり、此処に居たのですね?」
「・・・え?」
声が掛けられ振り向いたら、麻由が立っていた。真奈は、てっきり全員を遠ざけたと思っていたので、目を丸くして驚く。
「ま、麻由ちゃん?・・・なんでここが?」
「何となく・・・
真奈さんは遠くへは行かず、近くで独りになりたいのでは?と思いました。
正解で良かったです」
麻由は、苦笑した後、真奈の隣に腰を降ろす。
「・・・・・・・・・・・」
「私も落ち込んで、独りになりたいと思う時がありますからね」
「えっ?麻由ちゃんも、独りになりたいことがあるの?」
「私の所為で美穂さんが重傷を負ったり、
私の情報隠蔽で仲間達が全滅しかけたり・・・。
落ち込んでしまって独りになりたいことだらけですよ。
美穂さんや紅葉が、独りぼっちにさせてくれないんですけどね」
「・・・・・・・・・・・」
真奈は「気持ちが解る」と言いながら独りにしてくれない麻由のことを、煩わしく感じてしまう。
一方の麻由は、そんな真奈の気持ちを理解した上で接触をしており、会話の間を開けて反応を確認する。
真奈は、自分に起こっている異常に、まだ気付いていない。単に、周りに迷惑ばかり掛けていることを悩んでいるだけだ。
麻由は、どう説明して、真奈とのリンクを試みるべきか思案する。真奈を傷付けずに解ってもらうには、どうすれば良いのだろう?そもそも、真奈を傷付けずに解ってもらうことなんて出来るのか?「嘘も方便」でその場しのぎをしても、後に事実を知ってしまったら今以上に落ち込んでしまうのではないか?自分(麻由)なら、適当に誤魔化されるより正直に言って欲しい。言われた直後はショックを受けるが、ちゃんと把握できた方が対処や心構えが出来る。
「美穂さんなら・・・余計なことは言わずに、単刀直入かしらね」
「えっ?何の話?」
「いえ、ごめんなさい。今のは独り言です。
真奈さんに試してみたいことがあるのですが、
協力していただけないでしょうか?」
「えっ?私に?何をするの?」
この様なキツい役回りは、いつも美穂に任せていることに、今更気付く。本音を言えば、今回も美穂に任せたいが、それは虫の良い話だ。
「今、真奈さんに起きている異常事態にはお気付きでしょうか?」
「・・・えっ?私の異常?」
麻由は、真奈の「狙われる率」が異常に高いことや、インバージョンワールド内で真奈に何が起きていたのかを説明する。真奈は最初は困惑をしていたが、意外にも「特殊能力がある可能性」を素直に受け入れた。重々しく落ち込んでいた先程までとは違って、今は少し嬉しそうな表情をしている。
「私にも・・・何か凄いことが出来るかもしれないんだね」
塔屋の中では、ジャンヌが麻由と真奈の会話を聞いていた。麻由が上手く真奈を宥めてくれたようだ。安堵の表情を浮かべ、「今は割り込むべきではない」と解釈して階段に腰を降ろし、仲間達に「マユユが発見してくれました」とメールでメッセージを入れた。
「真奈さんは、ジャンヌとの間にある独特の繋がりは認識していますか?」
「うん・・・何となくだけど」
「真奈さんとジャンヌのリンクが整った状態ならば、
真奈さんが意識をすれば、ジャンヌの状況を何となく把握できるはずです。
ジャンヌは、その繋がりで、真奈さんの危機を感じ取っているみたいですよ」
「へぇ・・・そうなんだ?
そう言えば、何となくジャンヌさんの気持ちが解っちゃうことがあったかも」
「ジャンヌは、真奈さんとの間に、
時々『別の何か』が割り込むと言っていました」
「『別の何か』って?」
「あくまでも、ジャンヌの抽象的な表現なので、私にも解りません。
ですから、私が真奈さんとジャンヌのリンクに入り込んで、
何が存在するのか確かめます」
「そんなことできるの?」
「解りません。そんな都合の良いこと、できないかもしれません。
ですが試す価値が有りそうなのでやってみます」
「あの・・・麻由ちゃん、私は何をすれば良いの?」
「ジャンヌとのリンクを強く意識して下さい。
真奈さんとジャンヌの間にある魔力のパスが強くなれば、
私も、魔力変換を意識しやすくなります」
「う、うん。命令権をやる時みたいにジャンヌさんを意識すれば良いのかな?」
「私が初めて変身をした時、私は人とは違う力があると認識をしていました。
無我夢中だったので上手いアドバイスは出来ませんが、
きっと、同じような状況なのだと思います」
「・・・よく解んない」
「何度失敗したって、構いませんよ」
「・・・う、うん、解った。やってみるね」
説得された真奈が、深呼吸をしてから意識を集中させてジャンヌをイメージする。これで、「自分の秘密」が解るのだろうか?自分にも変身能力みたいなのが眠っていて欲しい。皆と肩を並べて戦いたい。
真奈がジャンヌを身近に感じられるようになる。同様に、コンクリートの壁を隔てた階段室で待機していたジャンヌも、真奈を身近に感じる。ジャンヌの中に真奈の希望と不安の感情が流れ込んでくる。
真奈とジャンヌの魔力リンクは、麻由には感じられない。だけど、「多分、繋がっている」と察した麻由は、理力の魔力変換をしてみた。すると、真奈とジャンヌが、青色の光の筋で繋がっているのを感じられるようになる。麻由の発している魔力は微弱で不安定だが、真奈とジャンヌを繋いでいる魔力は静かに整っている。恐る恐る真奈とジャンヌを繋いでいる魔力の筋に触れてみた。激しく放電をして触れた手が軽く痺れる。どうやら、今の麻由の魔力では干渉が出来ないようだ。
「魔力のパターンを同じくらいにする必要がある・・・と言うことなのかしら?」
今の麻由の技術では、不安定な魔力を整えることはできない。だが、周波数と放出量を調整して、似たレベルの魔力にする事は、簡単ではないができる。「このくらいかな?」と調整をして、もう一度、魔力の筋に触れてみた。今度は僅かに放電が発生するが、真奈とジャンヌのリンクの間に麻由の手が通った。途端に、真奈と、階段室にいたジャンヌは、互いの存在が僅かに遠ざかったように感じ、代わりに麻由の存在を身近に感じられるようになる。
〈我を休める殻とガーディアンの間に入り込む者がいるのか?〉
「ガーディアン?ジャンヌのこと!?」
〈天界人ごときが、我に踏み込むな!〉
「えっ!?・・・・・・うわぁぁっっっっっ!!!」
麻由の脳内に“真奈の姿をした真奈とは違う不気味な者”のイメージが流入。冷たい眼が睨み付け、麻由の全身に怖気が走る。階段室で座っていたジャンヌにも同じビジョンが見えて「時々、自分と真奈の間の割り込む“何者か”と同じ気配」と把握した。
「きゃっ!」
麻由は、真奈とジャンヌのリンクから拒絶されて、全身に放電を浴びながら弾き飛ばされてしまう。尻もちをついた麻由に、真奈が駆け寄る。異常を察したジャンヌも、塔屋から飛び出して駆け寄る。
「大丈夫か、マユユ?」
「リンクから弾かれただけ。大丈夫です」
「ジャンヌさん、来てくれたんだね」
「マスター、今のビジョンは一体?」
「・・・え?何のこと?」
「マスターには見えなかったのですか?」
「何が!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
真奈には“不気味な闇を背負った真奈みたいなもの”が見えなかったらしい。どういうことなのだろうか?




