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47-2・雛子の美穂勧誘~崇と龍山~熊谷邸の割井

-ロビー-


 呼び出された紅葉が、美穂&バルミィと合流していた。3人で雛子の到着を待っていたら、美穂のスマホがメールの着信音を鳴らす。

 メールを開いた美穂は、「殺人事件の容疑者が文架市に向かっている」というメッセージと共に添付された画像を見て息を飲んだ。


「・・・マジかよ?」


 画像の男を知っている。数日前に、紅葉をスカウトに来たテレビ局のプロデューサーだ。


「どうしたばる、美穂?」

「葵さんの情報だ。

 紅葉と麻由をスカウトに来たアイツ(割井)が、

 また文架市の方に向かっているらしい。

 ソイツが殺人犯かもしれないから気を付けろってさ」

「んぁ?何の為に来るんだろ?サツジンしにくるの?それとも、またスカウト?」

「情報が少なすぎて、よく解らん。

 とりあえず、殺人犯がスカウトに来ると思っておけ」


 怪物なら得意分野だが、犯罪者は専門外。何故、怜香は美穂に情報を提供したのだろうか?


「んぉっ!ヒナコが来た!こっちだよぉ~!」


 雛子がロビーに姿を見せたので、紅葉が手招きをして呼ぶ。美穂は雛子を眺めながら思考する。怜香が犯罪者の情報を美穂にだけ伝えて、雛子をスルーするとは思えない。雛子も同じ情報を持っていると考えるべきだろう。


「葵さんから妙な情報が送られてきました。夏沢さんの知ってる情報ですよね?」

「察しが良いわね」

「あたしだけが情報を送られたとも思えないんでね」

「ホント、女子高生にしておくには勿体ない洞察力ね」

「だけど、犯罪者なら、いくら凶悪だとしても、

 あたし達に情報が来るのは妙ですよね?」

「私も、まだ詳しくは聞いていないわ」

「葵さん、こっちに来るんすか?」

「あら?どうしてそう思うの?」

「あの怖い女記者さんが、情報だけ送って何もしないとは思えないんでね」

「葵さんがこっちに来たら合流するつもりよ」

「あたしも同席したいんですけど」


 美穂の提案には、さすがの雛子も戸惑ってしまう。だが、確かに美穂が言う通り、一般的な事件ならば、怜香がただの女子高生“”に情報を流すはずがない。怜香は「美穂の助力が必要だ」と思ったから情報を送ったのだ。


「送られてきた画像の男、数日前に接触したんですよ。

 『超食クイーンGP』のプロデューサーとかって言って、

 紅葉と麻由を、しつこくスカウトしてました。

 だけど、その一件は、葵さんには話していません。

 それなのに、葵さんから情報が来た。

 つまり、『またスカウトに来るから気を付けろ』以外の注意喚起ですよね?」

「・・・そ、そうなるわね」


 雛子は、まだ怜香から詳細情報は得ていない。だが「怜香が美穂に情報を提供した理由」を、「割井に人外の能力があるからかも」と想定した。雛子は、美穂の洞察力と度胸を買っている。同様に怜香も、美穂の能力を認めているようだ。


「桐藤さん、高校を卒業したら警察学校に行きなさいよ。

 私が推薦状を準備してあげるわよ」

「うげぇっ!」

「おぉっ!すげー!ミホすっげー!ケーサツにスカウトされた!」

「あら、イヤなの?」

「将来は夏沢さんの部下ですか?」

「もちろんよっ!」

「スミマセン、あたし、夏沢さんの期待には、ちょっと・・・」

「おやぁ?美穂の志望って、ケーサツじゃなかったばるか?

「ザックトルーパーに入隊すれば、

 ゴーホー的に暴れられるって言ってたよねぇ?」

「ば、ばかっ!紅葉とバルミィは、余計な事を言うな!」

「なら、ちょうど良いわね。私の下に来なさいよ」

「頻繁に怪事件が起きる文架市じゃなくて、もっと別の都市で・・・」

「それは困ったわね。

 何らかの理由で、桐藤さんを逮捕して、

 超法規的取引で釈放する代わりに協力させるって道筋にしようかしら?」

「すげー!超ほーき的取引すっげー!ミホ、クサイ飯食べるのぉ?」

「美穂なら、2~3日尾行されれば直ぐに逮捕されそうばるね。

 スピード違反とか、器物破損とか、万引きとか、カツアゲとか!」

「良かったねぇ、ミホ!キブツ破損すれば、ザックトルーパーになれるよっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ふふふっ!安心して!冗談よ!」


 雛子の笑顔が怖い。胃に穴が開きそうだ。


「・・・・じょ、冗談とは思えない」


 雛子的には、美穂の勧誘は半分は本気だが、もう半分は自分から遠ざける為のハッタリだ。美穂は怜香が提供した事件に首を突っ込む気満々だが、まだ詳細が解らない現時点では協力要請は出来ない。少女達に、殺人事件を捜査させたり、他人の死を身近に感じさせるのは酷だ。自分だけで怜香の話を聞き、人外事件として美穂達の助力が必要なら、改めて依頼をしようと考えている。




-救急外来-


 ミイラ男並みに全身が包帯だらけの男が、ベンチに座って麻由達を眺めていた。抗争で重傷を負った暴力団に変装をした龍山剛太郎(麻由の後見人)だ。気配の消し方が見事なので、麻由は「暴力団同士の抗争で重傷を負った男」としか認識していない。


「やぁ、天の巫女(麻由)のストーキング、ご苦労様」


 隣に杖をついた老人が腰掛ける。重傷男(剛太郎)は老人など知らないが、変装を見抜かれて話し掛けてきたので一定の警戒をする。


「僕は君の顔見知りだから、そんなに構えなくてもいいよ。

 娘に気付かれたくないからも変装をしているんだ」

「・・・娘?」

「そう。僕は、源川紅葉の父親さ」


 老人に変装しているのは紅葉の父・源川崇だった。相手が酒呑童子(崇)では、一発で変装を見抜かれても仕方が無い。


「娘の監視か?」

「いや、娘の監視はママの任務だ。

 今は、ロビーで患者さんに扮して紅葉を見守っているよ。

 僕の今日の任務は、君と弁才天ユカリへの接触なんだ」


 異獣サマナーエリスの件を含めて、数日前から魔族アナザービーストの活動が活性化をしている。最初は「たまたま出現した野良ビースト」と思ったが、これだけ立て続けに出現すると偶然とは思えない。これらを総合した結果、崇と退治屋は「裏で何かが暗躍している可能性がある」という推測に達した。


「わしに、なに用じゃ!?」

「魔族の気配は、僕では上手く感知できない。

 今のところ、まだまだ、高い精度とは言い切れないけど、

 器用に力の変換をする天の巫女(麻由)の索敵力に頼るしかない。

 その為にも、君との連絡手段を確保したくてね。

 それに、最近、熊谷さんが人間とは違う妙な気配を発するのも気になる。

 彼女を使って、ガーディアン(ジャンヌ)を起動させた弁才天の話も

 聞きたくてね」

「麻由お嬢様の索敵力・・・か」

「自力で妖力と魔力への干渉を出来るようになったからね。大したもんだよ。

 彼女が魔力で索敵をすれば、魔族アナザービーストを感知できるだろうし、

 やがて魔力の扱いに慣れれば、無意識でも感知でいるようになるだろうね。

 君には、そんな視点で彼女を導いて欲しくてね」

「・・・心掛けよう」


 剛太郎には用件を伝えた。あとはユカリだが、彼女はストーキング対象にしている冨久海跳に接触をするのが確実だろう。


「さてと・・・サトリは教習所・・・かな?

 アイツ、人間になりきるのスッカリ上手くなっちゃったからな~。

 妖気を探すのに苦労をするよ。」


 酒呑童子になって飛べば教習所には数分で行けるのだが、「余程の事が無い限りは人間として振る舞う」と決めているので、崇はマイカーで教習所に向かう。




-ロビー-


 雛子は怜香に遭う為に文架署に帰り、紅葉&美穂&バルミィが残された。紅葉が「何があったのか詳しく知りたい」と言うので、美穂とバルミィで説明をする。美穂自身、真奈を連れて此処に来た時は、目で見た出来事を脳内で上手く整理できていなかったので、詳しく説明をするのは今が初めてになる。

 先ずは、美穂がアナザービーストを感知してインバージョンワールドに入り、ジャンヌの参戦で馬のアナザービーストを倒して、蛇のアナザービーストには逃げられたことを話す。


「あたしの判断ミスだ。

 今までと違うタイプのアナザービーストだったから、

 ちょっとビビっちゃってさ。

 あたし達の前から逃走しただけなのに、

 戦いは終わった判断したのが間違いだった」


 続けて、「討伐完了」のメッセージを受け取った以後のことをバルミィが説明する。「到着する前に戦闘は終わった」と安心して低速で飛んで現地に向かった。だが、バルミィの目に映ったのは、アナザービーストに鏡の中に引き摺り込まれた真奈だった。慌てて「まだ終わっていない」とLINEでメッセージを入れる。既に美穂とジャンヌはリアルワールドに帰還して、麻由は雲外鏡を紅葉に返却していたので、麻由の能力発動による戦闘の仕切り直しにはタイムロスが生じてしまう。美穂は単身でインバージョンワールドに飛び込んだ。


「ゴメンッ!

 マユからウンガイキョーのレンタルのお願いが来た時。

 ママと一緒に居たから、すぐに貸してあげることができなかった」

「紅葉の所為じゃね~よ」

「それを言うなら、ボクも重罪ばるよ。

 ボクがもっと早く現場に到着していれば、

 真奈は危険な目に遭わずに済んだばる」


 インバージョンワールドに入ったネメシスが、蛇のアナザービーストを捕捉した時、真奈はまだ無事だった。だが、直後に上手く説明できないことが発生した。

 真奈の眼前に立っていた蛇のアナザービーストは、拒みながら自分の手を自分の体に突き刺して果てたのだ。


「普通なら、目の前で怪物が自決をすれば、誰でも驚くばるよね?」

「ァタシだってキショいって思っちゃうよ。でも、マナゎ驚いてなかったんだね」

「うん、そんな異常性を、まるで当然のことみたいに眺めてた。

 やっと、あたし自身が違和感に感じて

 モヤモヤと思考を纏められなかった理由が解ったよ。

 この一件で一番異常なのは、自決をしたアナザービーストじゃなかったんだ。

 真奈が、インバージョンワールドに引き摺り込まれたにもかかわらず、

 直ぐには捕食をされずに済んだことと、

 目の前で発生した蛇の自決を平然と眺めていたことだ。

 その異常さが心に引っ掛かっていたから、上手く説明を纏められなかった」


「そう言えば、鏡の中の美穂って、美穂と同じ考えを持っていたばるよね?」

「うん、アイツの意思は、あたしとリンクしていた。それがどうした?」

「鏡の美穂が、雛子や怜香を殺そうとしたのは、

 美穂が雛子や怜香をウザいって思ったからばるよね?」

「うん。あたしがイラッとした相手を、エリス(鏡像の美穂)は殺そうとした」

「それって、辻褄が合わないばるよね?」

「えっ!?」 「ど~ゆ~こと?」

「美穂は、雛子や怜香はともかく、真奈にはイラッとはしていないばる!」

「・・・あっ!」×2


 改めて考えれば、今回の一件や、強制的にジャンヌのマスターにされた以外にも、真奈には特異な事が発生していた。エリス(鏡像の美穂)は、麻由や紅葉の時は間接的に追い詰めただけなのに、何故、真奈の事はインバージョンワールドに引き摺り込んで殺そうとした?バルミィ(のコピー)を引き込んだ時は、「助ける為には、美穂がエリスの軍門に降るしか無い」って策を弄する為だったから、バルミィへの明確な殺意は無かった。

 エリスは、美穂が「邪魔」と感じた者に殺意を向けた。エリスが殺意を持ったのは、「美穂が怒りを向けた雛子(雛子の演技だったけど)」と「美穂の神経を逆立たせた怜香」の2人。それ以外では真奈しかいない。真奈だけは、美穂の意思に関係無く、エリス本人がエリス自身の意思で殺そうとしたのだ。


 紅葉&美穂&バルミィは、真奈の異常性と、真奈を中心にして自分達の周りで今までとは違う何かが起こり始めていることを感じずにはいられなかった。




-文架市・菱里びしり町-


 井伊桔町町の東にある住宅街の一角に「熊谷」という表札を掲げた一軒家が在る。数年前までは父娘が住んでいたが、今は無人の家だ。家主が亡くなり、相続をした一人娘が、叔父の家に引き取られて久しい。時々、叔父が来て、やがて独り立ちをする姪に渡す為に異常の有無を確認をする以外は、この家に人の温もりは無い。

 そんな、誰も立ち寄るはずのない家の前にワンボックスカーが停車をする。運転席から出てきたのは割井プロデューサー。彼は、過去に数回ほど、この家の亡き主を尋ねたことがある。


「ちぃっ!何処かに遊びに出やがったか?」


 インターホンを押すが応答は無い。割井は熊谷邸が無人になったことを知らない。春休み中だから、この時間帯でも熊谷教授の娘に会えると思ったが、予想を外してしまった。

 だが出直すつもりも無い。割井は、ドアノブに手を当てて念を込める。内側でカチャリと音がして施錠が外れた。この便利な能力は、熊谷教授との実験で獲得した。



-数年前-


 実験によって、人間を超越した力=ワーウルフを備えて数週間が経過した割井を、熊谷教授が大学の実験室に呼び出した。そして、一枚の写真と新聞記事を割井に見せる。割井は、写真に写った女性にも、新聞の記事にも覚えがある。写真の人物は割井がADを務めるテレビ番組の出演者。新聞で報じられているのは、写真の人物が不可思議な遺体となって見付かった記事である。割井は、熊谷教授が言いたいことを理解した。


「上手いもんでしょ?

 その子、視聴者に飽きられたんで降板をしてもらおうと思ったんですが、

 反発をしてきましてね。

 降板をさせるなら俺との関係をバラすとかって生意気を言ったんで、

 俺の能力を試してみたんですよ。

 証拠は無し。他殺では不可能な死体。

 教授にいただいた能力は大したもんですよ」

「ふざけるなっ!

 私は、君の犯罪を手助けする為に、君に超能力を備えさせたワケではない!

 私の実験は、人の新たな可能性を見出す為の実験なんだぞ!

 君には幻滅したな!!」

「あれれ?・・・ガッカリさせちゃいましたか?そりゃ、失礼しました。

 でも、まぁ、幻滅されても、どうって事は無いんですがね」

「フンッ!警察に出頭したまえ!それを拒むなら、私が君を警察に突き出す!」

「できますかねぇ?

 教授のオカルトな実験なんて、誰にも相手をされていないんでしょ?

 だから、大学に関係の無い俺で実験をするしかなかったんですよね?」

「私が実験データと記録映像の全てを提出すれば、

 警察だって不可能犯罪が可能なことを信じざるおえまい!」

「あら?そりゃ~困りましたね」


 割井を睨み付ける熊谷教授。割井は熊谷が本気と知って舌打ちをする。どんなデータが有るのかなんて解らない。提出しても相手にされないデータかもしれない。だがそれでも、出世が見えてきた今、足元を崩す可能性の有る証拠は摘み取らねばならない。だから、降板を拒否して割井を脅した女も始末したのだ。


「教授・・・アンタは何か勘違いをしていませんか?」

「・・・なに?」


 熊谷教授を睨み付ける割井の目が、不気味に輝く。


「アンタには感謝しています。

 だから、ついさっきまではアンタを摘み取るつもりは無かった。

 俺とアンタ・・・この場においては、パワーバランスは俺の方が上ってこと、

 教授は頭が良いはずなのに、全く把握していないみたいですね」


 死に際の熊谷教授は、勝ち誇ったようにして言った。「割井の能力は、強制的に覚醒をさせているので安定をしていない」「私が処置をしなければ、やがて失われる」と。そして息絶えた。

 割井は「こんな便利な能力が失われるなんて冗談ではない」と動揺をした。だが、教授を頼らずに能力を維持する方法は、比較的簡単に見付かった。定期的に能力者の生命力を奪えば、割井の能力は覚醒状態で安定して失われずに済んだ。



-今に至る-


 熊谷邸に潜入した割井は、居間に飾られた写真を見て笑みを浮かべる。写っているのは、熊谷教授と娘。割井が映像で見た女児から数年が経過して、中学生くらいの少女に育っている。そして、その娘は、先日、文架駅前で接触した娘と同じ顔をしている。


「クックック・・・俺の予想、的中。

 運命の出会いってヤツだな。教授のお嬢さん」


 割井は「熊谷邸が無人」と知らない。「そのうち娘は帰ってくるだろう」と考えて、居間のソファーに寝転がって獲物の到着を待つことにした。

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