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47-1・割井の暗躍と天狗~真奈入院

-文架市から離れ、都内の某マンション-


 大食いで知名度のある女性ユーチューバー=湯内優葉ゆうち ゆうばが、エレベーターで地下駐車場に降りてきた。恩のあるTVプロデューサーに呼び出されたのだ。駆けていくと、ワンボックスカーに背を寄りかけたプロデューサーが、優葉を見付けて笑顔で手を振ってきた。


「よぉ、優葉!」

「お久しぶりです、割井わるいプロデューサー!どうしたんですか?」

「ん?チョット、頼みたい事があってね」


 割井プロデューサーは、それ以上は直ぐには語らず、優葉が寄って来るのを待つ。一方の優葉は、大声では言えない内容と判断した。きっと、「久しぶりに男女の関係を迫る」のだろうと想像する。プロデューサーの要求に応える代わりにテレビ出演の機会を得て、全国放送で知名度を上げてトップユーチューバーの仲間入りをしたい。

 優葉が近くに寄って来たところで、割井が作った笑みを浮かべて話を切り出す。


「オマエって、確か、特殊な力、あったよな?」

「・・・え?」

「ほら、目隠しして、トランプの数字を当てられる力。

 ユーチューブでも、時々披露してるよな」

「あぁ、確かに、ありますけど、それが何か?」

「その才能さ、俺の為に役立ててもらえない?」

「『超食クイーン』とは、別の企画への出演って事ですか?」

「ん?・・・企画っていうより、俺個人の為。

 特殊な能力あるヤツの生命を食うと、俺の能力が底上げされるんだよね」

「・・・・はぁ?」

「オマエは、俺の女だったから我慢して食わなかったけど、

 もう“次”がいるし、食っても良いかな~ってさ」

「えっ!?えっ!??」


 割井の丹田から強い光を放射!光が影を作り、狼の姿をした怪物=ワーウルフが出現をした!


 特殊能力を持つ者は大食いが多い。おそらく、特殊能力でカロリーや生命力を消費するゆえに、大量の食事が必要になるのだろう。

 割井が『超食クイーンGP』の企画を立ち上げた理由は、手っ取り早く、能力者候補を集める為。ただし、頻繁に行方不明者が出たら目立ってしまうので、たまにしか食わないようにしている。能力があっても“見た目が合格”で“都合の良い女として傅く者”は、しばらくは飼ってやる。

 今の女(現女王)がいて、次に飼う候補(紅葉&麻由)を見付けたんだから、過去の女(優葉)はもう要らない。


「ひぃぃ!!きゃぁぁっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!」


 逃げようとする優葉!しかし、時既に遅く、ワーウルフに捕まって力尽くで引き寄せられ、やがて抵抗する力を失う!


 数分後、遺体となった優葉が、コンクリート壁に寄りかかっていた。生命力を食われただけなので外傷は無い。誰が調べても急死で決着が付くだろう。

 特別な朝食を終えた割井は運転席で考え事をしていた。数日前に文架市の駅周辺で接触した少女達の中に、少し気になる女が1人いた。何年か前に今よりも幼い彼女を見た。



-数年前-


 割井が、まだアシスタントだった頃、超能力を題材にしたテレビ番組を製作する為に、宗教学を選考して超能力の研究もしている“熊谷教授”のところに、取材に行った事がある。

 当時の割井は超能力には懐疑的で、熊谷教授の事も「インチキ学者」と内心で嘲笑っていた。しかし、教授からは見透かされていた。


「この映像を見たまえ。これでも君は、胡散臭いと言い張れるのかな?」


 教授が見せてくれた映像には、教授の娘が映っていた。透視、念力、念写。映像の少女は、普段から特殊な力を使えるわけではなく、トランス状態に成る事で超常能力を発揮するらしい。テレビ業界に携わっていた割井は「加工された映像ではない」と直ぐに解った。


「熊谷教授!何で、教授の娘さんに、こんな凄い力が!?

 何か原因があるんですか!?俺には使えない能力なんですか!?」

「どうだろうな?今までに、人智を越えた経験をした記憶は?

 もし有れば、眠った能力があるかもしれんぞ」

「今までに・・・ですか?ありませんね」

「ならば、君には無いかもしれないな。

 だが、今、私は、後天的に能力を得る実験をしている。試してみるかね?」

「はい、お願いします!」


 熊谷教授の研究は、周りの教授仲間からは「危険」と否定的な態度をとられており、協力をする者はいなかった。だから、教授には割井の申し出を断る理由など1つも無かった。狂的な科学者にとっては、被検者が悪しき野心を持っている事など、どうでも良かったのだ。

 割井は意識して超能力を使えるようになる事を望み、熊谷教授は、人工的、且つ、娘のようにトランス状態にせずとも発揮できる超能力を目指した。


 実験の末、割井は人間を超越した力=ワーウルフを身に付ける。



-今に至る-


 文架市で会った大食い少女達(紅葉&麻由)が能力者なのかは解らないが、今まで割井が見てきた中で最も突出した超能力者は熊谷教授の娘だった。先日会った少女に、熊谷教授が見せてくれた少女の面影が重なる。まだ確証は無いが、アレが熊谷教授の娘ならば、食って能力の底上げが出来る。


「にぃっひっひ・・・調べる価値はありそうだな」


 少女達(美穂&麻由)にコテンパに論破された状況で、今度はどうやって接触するべきか?紳士的接触が無理ならば、力尽くで接触するべきか?割井は糧を食す手段を考えながら車を発進させる。


「君ってさ、人間のクセに、人間を餌にしているんだ?面白いね」

「んっ!!?」


 割井しか乗っていないはずのワンボックスカーの後部座席から声がする。バックミラーを見たら、いつの間にか、後部座席に端正な少年=天狗が乗っていた。


(いつ乗った!?犯行を見られた!?)


 割井は慌てて急ブレーキを掛け、後部座席を振り返ろうとして、今度は少年がいつの間にか助手席に乗っている事に気付いた。動揺する気持ちを落ち着けて車を路肩に駐め、再び少年に視線を向ける。


「犯行を見ていたのか?」

「女の子の生命力を奪い取った事?うん、見ていたよ」

「通報する気か!?

 だが、無駄だ!俺は優葉に触れただけ!殺人は立証できない!」

「通報?あぁ、そっか。君達の価値観だと人間を殺しちゃダメなんだっけ?」

「人間社会に詳しくない口ぶりだな。・・・ア、アンタ、一体?」


 ワーウルフの能力を持つ割井は、少年が人間ではないと直ぐに把握した。自分が人間を越えた力を持っているのだから、他にも人智を越えた者が存在しても不思議ではない。


「あえて言うならば、君のボスの友達・・・かな」

「俺のボス!?」

「正確に言えば、君が飼っているオオカミのボスだね。

 君、どうやって、アナザービーストと融合したの?

 バルキリーにやってもらったの?

 あれ?でも、バルキリー(の本体)は50年も前に死んで、

 ワルキューレ(バルキリーの組織)は壊滅したんだから、

 君の若さだと計算が合わないな。

 君、若く見えるけど、50代後半とか?」

「・・・42歳だ。アナザービーストとかバルキリーっていったい?」

「あれぇ?知らないで融合していたのかい?

 アナザービーストってのは、君が変身をする狼の魔獣を含めた異形の総称、

 アナザービーストを人間と融合させる実験をしていたのがバルキリーだよ」

「な、何の為に?」

「人間界を支配する為さ。50年も前に死んじゃったけどね。

 だからさ、君みたいな融合体が未だに存在してたのは驚いちゃった。

 君とワーウルフを融合させた人に会いたいんだけど、

 何処に居るか教えてくれない?」

「・・・お、俺が殺した」

「ありゃ~・・・それは残念」


 少年は「残念」と言う言葉を発したが、顔は「残念な雰囲気」が微塵も無いほどに笑っている。割井は少年から薄気味の悪さしか感じない。


「用件はそれだけか?」

「もう一つあるよ。

 触れて生命力を奪うだけなら、君は罪に成らないんだろ?

 なら、今の調子で文架市に行って派手に搾取をしてよ」

「何の為に?」

「う~~ん・・・強いて言えば、利害の一致・・・かな。

 僕は、君みたいな強そうな奴に暴れて欲しい。だけど手札が無い。

 君は、もっと派手に搾取をしたいけど派手に暴れすぎると足がつく。

 そして、文架市は不可思議な事件の宝庫。

 君が、多少の不可思議事件を増やしても誰も特別視はしない。

 その気になってくれるなら、僕が友人に借りた部下を貸してあげても良いよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「急に色んな事を言っても、ベースが人間の頭じゃ直ぐには理解出来ないかな?

 まぁ、その気になったら、文架市に来て僕を思い出してよ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?」


 先程まで助手席に居たはずの少年は、居なくなっていた。「いつ消えたのか?」と考えても解らない。間違いなく其処に居て会話をしたはずなのに、初めから居なかったような気もする。「夢でも見ていた?」とすら思えてくる。


「これが人智を越えた存在というヤツなのか?」


 割井は少し落ち着きを取り戻してから、「適う相手ではない」と全身を震わせるの。だけど、少なくても敵ではなさそうだ。割井を評価して「部下を貸す」とまで言ってくれた。ならば、今まで通り、面白可笑しく超能力者を狩って、自分の力を蓄積させていく。その狩り場が文架市なら好都合だ




―文架総合病院・救急外来―


 真奈は、外傷は大した事が無かったが衰弱が酷かった。インバージョンワールドで生命力を消耗させてしまったのだ。今は栄養剤の点滴を受けている。

 美穂&麻由&バルミィ&ジャンヌは、黙ったまま昏睡中の真奈を見つめて回復を待つ。精彩を欠いた美穂、バジリスクに逃げられたジャンヌ、甘い判断をしてしまった麻由、翼の生えた少年(天狗)に興味を奪われて現地への到着が遅れたバルミィ、皆が「自分がシッカリしていれば真奈の危機は避けられたはず」と自分を責めている。特に、目の前で「真奈の異変」と「バジリスクの自決」を見た美穂は、状況が全く飲み込めず、思考が散らかったまま纏められずにいた。


♪~♪~♪~

 バルミィのスマホが着信音を鳴らす。モニターを見たら発信者は雛子だ。


≪お疲れ様。詳しく事情を知りたいんだけど≫

「雛子は何処に居るばるか?」

≪浜丹生町よ。バルミィは、今、何処かしら?桐藤さん達も一緒?≫


 雛子は、蛇の怪物に襲われかけた一般人とは接触したようだ。それならば、真奈が鏡の中に引き摺り込まれた証言は得ているだろう。


「うん・・・・その事で報告したいから、文架総合病院へ来てもらえるばるか?」

≪解った、今から行くわ≫


 美穂&バルミィは、真奈の看病を麻由とジャンヌに任せて、正面玄関に行って雛子を待つ事にした。2人を見送った後、ジャンヌが隣に座っている麻由に質問をする。


「時折、私と真奈のリンクが薄くなるのだが、理屈を説明できますか?」


 最初に「真奈との繋がりが曖昧になった」と感じたのは、片輪車騒動の時だった。サトリ事件の時にも同じような事があった。上手く表現できないのだが、まるで、ジャンヌと真奈の間に、別の何者かが立って、ジャンヌからは真奈が見えにくい感覚。真奈の敵ではないが、ジャンヌの味方とも言い難い雰囲気が挟まって、リンクが薄くなるように思える。


「ジャンヌと真奈さんの間に別の存在・・・?

 ジャンヌと真奈さんを繋いでいる私ではないのですか?」

「マナとの繋がりの中でマユユの存在は感じますが、邪魔と感じたことはない。

 もっと異質な存在です。

 召喚の本を読破したマユユには、何か心当たりはありませんか?」

「申し訳ありません。私には解りかねます」


 麻由とジャンヌのリンクは、あくまでも真奈を間に挟んでいるので、ジャンヌと真奈の間に発生する異物は感知していない。マスターとリベンジャーは直接的に太いパイプで繋がっているはず。外部からの介入など出来るとは思えない。


「そうなると・・・ジャンヌか真奈さんの内側に、何らかの問題が?」

「内側に・・・?」

「確証は全くありません。

 思い付きで発言しただけなのですが、不安ならば確認をするべきでしょうね。

 ジャンヌならば、真奈さんと融合をすれば、

 比較的内面に近い部分までリンクできますよね?」

「・・・確かに」


 麻由の提案は理に適っている。ジャンヌと真奈は生命力で繋がっているだけではなく、精神面でも一定の共有をしている。だから、真奈は、睡眠中の夢でジャンヌの過去を見る。


「何故、弁才天ユカリは、真奈さんを召喚主に選んだのでしょうか?」


 最初は「麻由達への嫌がらせ」と考えたが、それならばヴラドやヘイグの召喚主が麻由達とは無関係の人物なので説明が付かない。真奈は麻由達の友人だったゆえにユカリから離反した。離反のリスクを考えるなら、召喚主全員を麻由達と無関係の者にするべき。つまり、真奈離反のリスクを取ってでも、真奈を召喚主に選んだ理由があるはずだ。ユカリの思惑を考えると「真奈には特殊な何かがある」と一定の推測が成り立つ。

 麻由と真奈は、真奈とジャンヌほど強い繋がりではないが、ジャンヌをサポートする為にリンクされている。もしかしたら、リンクを強くしたら、麻由でも真奈の内面に踏み込めるのではないか?まだ魔力は不慣れだが試してみるべきか?思い立った麻由は、確証も自信も無いまま真奈に手を伸ばす。


「ん?・・・あれ?ここは?」


 真奈が意識を取り戻した。ベッドに仰向けになったまま周囲を見廻して、付き添っていた麻由とジャンヌを見つめる。麻由は真奈に試そうとしていた事を中断して、ジャンヌと共に真奈に寄っていく。


「おぉ、目覚めましたか、マスター」

「何処か、体に変調はありませんか?」

「うん・・・ちょっとダルいけど大丈夫だよ」

「それは良かった」

「そう言えば私・・・蛇みたいな怪物に鏡の中に引き摺り込まれたんだっけ?

 ジャンヌさんと麻由ちゃんが助けてくれたの?」

「・・・え?」×2


 真奈の質問に麻由とジャンヌが動揺をする。美穂からは「蛇のアナザービーストは、真奈の目の前で自決をした」と聞いている。真奈はインバージョンワールドに引き込まれた後の事を覚えていないようだ。


「・・・ミ、ミポリンが駆け付けて、マナを救出しました」


 ジャンヌは咄嗟に当たり障りの無い説明をする。


「そっか・・・美穂さんに助けてもらったんだ。

 私・・・情けないなぁ。いつも、みんなに迷惑掛けてばっかり。

 怪物に襲われた人を助けようとして、

 自分が捕まって、結局は助けられたんだね」


 少し前までは、仲間達の足を引っ張るのは、麻由の役回りだった。紅葉もたびたび足並みを乱した。だけど、最近の麻由は着実に実力を付けているし、紅葉は新しい必殺技を身に付けた。真奈は自分だけが取り残された気分になる。

 仲間達の中で、唯一、変身を出来ないのは百も承知で参加をしている。頭では解っているが、心が苦しい。

 真奈は、寂しそうな眼で天井を見つめた。




-文架総合病院・駐車場-


 雛子が車を駐めた直後にスマホがコール音を鳴らす。発信者はジャーナリストの葵怜香だった。運転席に座ったまま通話に応じる。


「急用かしら?」

《急用といえば急用ね。

 都内で発生した女性ユーチューバーの事件はご存知よね?》

「湯内とかって子の不審死の事?聞いてはいるけど、それがどうしたの?

 『情報が欲しい』と言われても、他の部署の情報なんて持っていないわよ」

《都内の事件を、文架市の夏沢さんが捜査できない事くらいは知っているわ。

 だけど、重要参考人が文架市に向かっているとしたらどうかしら?》

「なんですって?」

《私も文架市に向かっています。

 私が持っている情報について、夏沢さんの意見を聞きたいの。

 そちらに到着したら合流させてもらえないかしら?》

「解ったわ。文架署で会いましょう。近くまで来たら、また連絡をちょうだい」


 管轄外の事件とは言え、一定の知名度を持つ女性の事件なので地方にも伝わっている。雛子は「人気ユーチューバーの死因は衰弱死」と聞いていたのだが、「重要参考人」とはどういう事だろうか?葵怜香がデタラメを言っているとは思えない。「持っている情報の意見を聞きたい」と言うからには、それなりの説得力を持つ情報なのだろう。

 通話を終えたら、怜香から画像が添付されたメールが送られてきた。40代くらいの男性の画像だ。この男が重要参考人ってことか?

 怜香が文架市に来るまでには、もう少し時間がかかるだろう。先ずは、美穂やバルミィから、彼女達の遭遇した事件の詳細を聞くのが優先だ。


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