46-3・馬と蛇~ジャンヌの見得~美穂は蛇嫌い
-インバージョンワールド-
「行けぇ!キグナスター!!」
馬型モンスター=ケルピーに、高速飛行をする白鳥型モンスター=キグナスターの体当たりが炸裂!異獣サマナーネメシス(美穂)が、モンスターの行く手を阻むように立つ!
「あたしの縄張りで失踪事件なんて勘弁してくれっての!」
ケルピーが構える!そして“もう1匹”が物陰に隠れてネメシスを睨み付けていた!ネメシスは伏兵に気付かないままケルピー向かって走る!その真横に伏兵が突進して、体当たりでネメシスを弾き飛ばした!
「なにっ!?」
ネメシスは体勢を立て直そうとするが、迫ってきたケルピーに蹴り飛ばされ、再び弾き飛んで地面を転がった!
「アナザービーストが組織戦?」
少々厄介だ。ヴァルカンのカードを使って力押しで倒すべきか?
「いや、それは早計だ。先ずは状況を・・・」
防御の態勢で周囲を見廻すネメシス!馬型モンスター・ケルピーと“もう1匹”が同時に突進をしてきた!
「はぁぁぁっっっっっ!!テュエ・ディユ・セルパンッッッ!!!」
“光の蛇”が飛んで来てケルピーを弾き飛ばした!上空から降りてきたマスクドジャンヌがネメシスの隣に立つ!
「怪我は無いか、ミポリン!」
「サンキュー!助かった!」
「私は、馬のモンスターの相手をする!ミポリンは、蛇を頼む!」
「・・・へっ!?」
割り振りを決め、オラクルフラッグを構えてケルピーに突進をするジャンヌ!ネメシスは立ち上がって、宛がわれた“もう1匹”を睨み付ける。蛇型モンスター=バジリスクが薄気味の悪い声で威嚇をしながら近付いてきた。
-リアルワールド・山頭野川・東堤防-
堤防上のベンチに少年が座っていた。人目を引かない為に翼を隠して人間と同じ衣装を着た天狗だ。
「神の血族(麻由)、バルドルの兵隊(美穂)、
ガーディアン(ジャンヌ)かぁ・・・面白い連中が出てきたな」
スレイプニルとヨルムンガンドから借りた部下達(ケルピー&バジリスク)が「エサが欲しい」と言い出したので放し飼いにしてやった。どのみち暴れてもらうつもりだったので何の問題も無い。
「でも、釣りたいのは、君達じゃないんだよな~」
天狗は、薙刀で川面を突いている麻由を見つめる。力の根源が異なるインバージョンワールドに干渉をしている才能は見事。育てば、かなりの使い手になりそうだ。しかし、まだ駆け出しらしく、インバージョンワールドへの干渉のみに集中して、あまりにも無防備だ。
「まだ、神様とは事を荒立てたくないんだけど、邪魔なんだよな~。
排除しちゃおうかな」
天狗が麻由に向けて掌をかざす。麻由は背後で狙われている事など全く気付いていない。
-杉田邸-
真奈は、愉怪のグループLINEで、美穂から「アナザービースト発生」のメッセージを受け取ったものの、自分では何も出来ない。生命力のリンクによってジャンヌが変身をしたのは感知しているので、落ち着かない様子で戦勝報告を待っていた。
「!!!!!!!!!!!」
真奈の脳内に、突然、鮮明なビジョンが浮かび上がった。顔立ちの整った少年に攻撃をされ、吹っ飛ばされて川に落ちる麻由。水面が真っ赤に染まり、即死をした麻由が流されていく。
「ま、麻由ちゃんっっ!!」
真奈は反射的に立ち上がり、家から飛び出して堤防側に向かって全速力で駆けていく。今のビジョンは文架大橋の下だった。なんで、突然、こんな映像が見えたのかは解らない。でも、妙にリアルだった。真奈の勘は、麻由に危機が迫っていると告げている。
-リアルワールド・山頭野川・東堤防-
「・・・この気配は?・・・ヘル。やはり、この辺にいたんだね」
天狗は、麻由の不意を撃つ寸前で動きを止めた。東の方から「優先して会いたい気配」を感じたのだ。天狗が「ヘル」と表現した存在に比べれば、未成熟な神の血族への干渉など後回しで良い。「ヘルの気配」は一瞬だけ存在感を発揮したが、今は何も感じられない。だが、間違いなく近くに存在している。天狗は「麻由の事など、もはや眼中に無い」と言わんばかりに、東側を睨み付けて「ヘルの気配」を探す。
-インバージョンワールド・山頭野川・東堤防-
馬型モンスター=ケルピーが突進する!しかし、ジャンヌが事前に飛ばしておいた不規則に動くナイフ(ノイエ・ペティ・ディアブル)が、ケルピーの突進を妨害!隙を突いたジャンヌが、ケルピーの懐に飛び込んでフィエルボワソードの切っ先を突き刺した!
「はぁぁぁっっっっっっっっっ!!!!」
剣を覆っていた黒炎が、ケルピーを体内に流れ込んで内側から焼く!手応えを感じたマスクドジャンヌは、剣を抜いて素早く退避!ケルピーに背を向けて、剣を肩の掛け、もう片方の手を広げて翳し、マスクの下で口をへの字にして“にらみ”を利かせ、首を半回転させて、大きく見得を切った!
「よぉ~~~~~~~~~おっっ!」
直後に、ジャンヌの背後でケルピーが爆発四散をする!掛け声と爆発のタイミングがバッチリ合った!これはとても気分が良い!
これまで、紅葉や美穂(稀にバルミィも)が、時々、倒した敵に背を向けてポーズを決めていたので、「何をやってんだろう?」と思っていた。
先日、麻由に尋ねてみたら、「あれは歌舞伎の見得」と言ってテレビ(教育テレビ)で歌舞伎の番組を見せてくれた。ジャンヌ的には「見得」の使い方が正しいかどうか、麻由に特訓をして欲しかったが、麻由は「やる必要は無い」と言って相手にしてくれなかったので、何度も映像を見たり姿見鏡で自分の姿を確認しながら、自力で「見得」を会得したのだ。「見得」を学習したジャンヌからすると、紅葉や美穂の「見得」は、まだまだ甘い。今、ジャンヌが表現した「見得」こそが、真の「見得」と自負する。
「どうですか、ミポリン?私の見得は見事だろう?・・・ん?」
「うぅぅ・・・わぁぁっっっ!」
ネメシス(美穂)は、逃げ腰でレイピアを構えてバジリスクと相対している。苦手な接近戦を強いられている時のセラフ(麻由)以下の動きだ。敵を倒す為にレイピアを振るうのではなく、怪物を怖がって近寄らせない為にレイピアを振るっている。
最初はレイピアの切っ先を煩わしく感じていたバジリスクだが、やがて、「尻込みした御しやすい攻撃」と把握して、嘶きで威嚇をしながら突進をしてきた!
「ひぃぃっっっ!!」
身を縮こまらせ、硬直しながら後退をするネメシス!横から突進をしてきたジャンヌがバジリスクを蹴り飛ばした!
「行くぞ、ミポリン!・・・はぁぁっっ!!」
フィエルボワソードを振り上げて、バジリスクに向かって突進をするジャンヌ!てっきり、後ろからネメシスも付いて来ていると思ったら、ネメシスは棒立ちでジャンヌの突進を眺めている。
「・・・え?」
バジリスクは、ジャンヌの意識がネメシスに向いた隙を見逃さず、ジャンヌに向けて掌を翳した!
「なにっ!?」
目前に極彩色のトンネルが出現!強い吸引力でジャンヌを飲み込み、やや離れた上空に別のトンネルが口を開けてジャンヌを吐き出す!墜落をしたジャンヌは、バジリスクを警戒しながら立ち上がって構えた!
「・・・くっ!今の攻撃はいったい?魔力起源の攻撃に思えたが・・・。
ミポリンッ!アナザービーストとは、このような特殊攻撃を!?」
大して強い敵には思えないが、今の特殊攻撃は厄介だ。ジャンヌは、専門家のネメシスに対抗策を求めようとするが、ネメシスは相変わらず尻込みをしている。
「ミポリンッ!貴殿らしくない!どうしたというのだ!?
これでは、まるで”蛇に睨まれたミポリン”ではないか!」
本来ならネメシスは、「まんまじゃね~か!」「ソレを言うなら”蛇に睨まれた蛙”だ!」とツッコミを入れるべきなのだが、そんな余裕は無い。
「ミポリン?ヤツの特殊攻撃でも喰らったのか?」
「・・・あ・・・あの・・・・・」
「どうした?」
「・・・じ・・・実は」
「ん?」
「・・・・・・・・・・・ヘビ苦手」
「なるほど・・・。蛇が・・・・・・・・・・・・・」
ジャンヌは、軽く聞き流して構えた後、脳内でネメシスの言葉を噛みしめて首を傾げ、後ろで逃げ腰になっているネメシスをガン見した。
「えぇぇ~~っっ!!?蛇が苦手!?」
「・・・う、うん」
「冗談だろう!?
まるでか弱い乙女のような物言い・・・ミポリンらしくないぞ!」
「あたしだって一応は乙女だっ!悪いけど、任せたっ!」
ネメシスは想定外の「戦力外」宣言をしてしまう。
「し、承知した」
何も考えずに突進するのは危険。バジリスクが発生させた極彩色のトンネルに飛び込んでしまう可能性がある。
「だが、幾らでも戦い様はある!」
ジャンヌは気勢を発してバジリスクの注意を引きながら、首にぶら下げた懐中時計を握りしめて念じる!すると、バジリスクの真後ろの空間が歪んで、鎧を着込んだユニコーンが出現!
「相棒を召喚できるのは、ミポリンだけではない!」
ユニコーンが体当たりでバジリスクを弾き飛ばした!地面を転がるバジリスクに、剣を構えたジャンヌが突進する!
「シャァァッッ!」
バジリスクが地に伏しながら掌を翳した!ジャンヌは「極彩色トンネルの発動」を察知して、左右へのフットワークを使って回避運動をしながらバジリスクに接近する!だが、バジリスクの攻撃は、ジャンヌの予想に反していた!
「うっ!うわぁぁっっっ!!!」
極彩色のトンネルは、棒立ちをしていたネメシスの目の前に出現をした!ネメシスは慌てて退避しようとしたが、時既に遅く、強い吸引力で吸い込まれてしまう!そして、やや離れた上空に先程と同じようにトンネル出口が現れて、悲鳴を上げながら落ちてきた!
「ミポリン!受け身を!!・・・くっ!ダメか!!ユニコーン、頼むっ!!」
ジャンヌの指示を受けたユニコーンは、空に駆け上がって背でネメシスをキャッチして、ゆっくりと着地をした。
「私ではなく、非戦闘中のミポリンを狙うとは卑怯なっ!」
バジリスクを睨み付けるジャンヌ。しかし、バジリスクの姿は無い。ジャンヌの注意力をネメシス側に引いた隙に逃げたようだ。
不満は残るが、モンスターの撃退は成功した。ジャンヌはユニコーンに跨がったままのネメシスに寄って行く。
「無事か、ミポリン?」
「あぁ・・・ゴメン。足を引っ張っちゃったな。
あたしの所為でモンスターにも逃げられちゃって・・・」
「気にしないで下さい。蛇が苦手なら仕方が無い。誰でも苦手はあります」
「サンキュー、そう言ってもらえると気が楽になる」
「私も豚足は苦手だ。
スーパーで見付けて興味を引いたので、マユユに買ってもらったが、
口に合わず、最後まで食べる事が出来なかった」
「・・・いやいや、フォローしてくれるのは嬉しいんだけど、何か違う。
私の蛇嫌いを、豚足と一緒にするな!
ジャンヌは、豚のアナザービーストに遭遇しても腰は抜かさんだろう?」
ネメシスは、ジャンヌが差し出した手を掴んでユニコーンから降りる。2人は並んでもう一度周囲を見廻すが、バジリスクの姿は何処にも無い。やはり逃走をしたようだ。
-文架大橋東側の橋下-
麻由が開けていたインバージョンワールドの出入口から、マスクドジャンヌが飛び出してきた。続けてネメシスも川面から飛び出す。直ぐさま変身が解除されて、美穂は脱力して片膝を付き、ジャンヌは麻由に向かってサムズアップをする。戦いが終わったと判断した麻由が、薙刀を川面から抜いてインバージョンワールドへの干渉を解除。Hスマホを操作して雲外鏡を紅葉に返却してから、グループLINEで「討伐完了」と報告をした。
「お疲れ様です、ジャンヌ!美穂さんも参戦していたのですね」
「マユユも、お疲れ様でした!」
「厄介なモンスターだったのですか?」
「あぁ・・・うん、まぁ・・・」
「はい、強敵でした。1匹は倒したが、1匹は逃げられてしまった」
ジャンヌは、美穂が足枷になった事を、あえて報告はしない。美穂とアイコンタクトをするだけで終わらせる。
疲れた表情の美穂とジャンヌを麻由が労う。同時に、此処にはいない真奈の生命力が、ジャンヌに流れ込んできて体力の回復が始まる。リアルワールドで戦う場合、ジャンヌが消耗をすれば自動的に真奈からの体力供給が始まる(真奈が限界になると麻由から供給される)のだが、インバージョンワールド内だと、真奈も麻由もいないので体力を回復させる事が出来ない。供給が遮断された状況で魔力が尽きれば、ジャンヌは消滅をする事になる。そういう意味では、ジャンヌが単独でインバージョンワールドに入るのは、大きなリスクを伴うのだ。
―山頭野川西側堤防―
ジョグ中の紅葉のポケットで通知音が鳴る。自転車で後ろを走る母親をチラ見してからYスマホを引っ張り出し、時間を確認するフリをしながら確認をした。≪タヌキが返ってきた≫とメッセージが表示されてており、間を置かずLINEの通知音が鳴って麻由発信の「討伐完了」というメッセージが入る。
(良かった~)
安堵をした紅葉がジョグのペースを上げる。




