46-2・紅葉のジョグと麻由のジョグ
美穂は呆れ顔で溜息を付いて、スタッフ達に近付いた。
「せっかくなんですけど、優麗高は生徒の芸能活動を・・・・」
「あれっ?キミ(美穂)も美人だねえ」 「うんうん、イケてるよっ」
「・・・・・・・・・・・」
「そっちのキミ(真奈)も可愛い!」 「グラビアとかで人気が出そうだ!」
「えっ?私もっ!?」
どいつもこいつも、手当たり次第に、作り笑顔と見え透いた言葉で誘惑する。美穂は、こういう軽薄な大人が嫌いだ。
「アンタ等さぁ・・・
あたし達が未成年と言うことを知った上で、口説いてんのか?」
「ん?もちろんだよ!
世間は、君たちみたいに若くて可愛くて意外性のある子を望んでいるからね」
「あたし達を未成年と知ってるなら、
先ずは保護者か学校に話を通すのが筋だよな?」
「・・・ん?そんなの関係無いでしょ。
君たちが親や学校に説明すれば良いんだからさ。
これは、君たちにとってチャンスなんだよ。
今まで出演してくれた子に、
そんなややこしいことを言う子は居なかったけどなぁ~」
「なるほど、一理あるか。まぁ、この際、そこはどうでもいい。
あたしも『超食クイーンGP』には、それなりに興味を持った事ある。
確かに、番組出演がキッカケで知名度の上がったヤツも、
何人かはいるみたいだな。
だけど、大半が番組に出演をしただけで、
その後の生活に変化はないんじゃないか?」
「それは、実力が無かっただけ。ぶっちゃけ、番組的には当て馬も必要でさ。
でも君たちは違うよ!光る物がある!
間違いなく、視野が広がって価値観が変わるよ!」
「今のあたし達に、その視野や価値観とやらは必要ない!」
「今後どうするかは、番組に出演してから考えれば良いんだからさ、
とりあえず、試しに出演してみようよ」
「しつこいっ!必要無いと言ったんだ!
今のあたし達に必要なのは、
何の目的も持たずに人前に出ることじゃね~んだよ!
あたし達には、他にもっと大切な事がある!
『試しに出演』をして損失した時間は、どう対処してくれるんだ!?
出演すれば、アンタ等が一流企業の内定や大学の推薦をくれるのか!?」
最初は愛想良く甘言を弄していたプロデューサー達だったが、美穂の反撃で露骨に「コイツ面倒臭い」って雰囲気になった。
「大切な事って勉強か?勉強なんて、いつでもできるだろ?
友達とだって、いつでも遊べるよ。
だけど、テレビに出るチャンスなんて滅多に無いんだよ」
割井の「勉強や友達は後回し」的な発言に対して、それまでは雰囲気に飲まていた麻由が急に目をつり上げて美穂と歩調を合わせはじめる。
「いいえ、私たちは、かけがえのない日常を充実させることが大切なのです!」
「おぉ!勉強を否定されて、麻由にスイッチが入ったか」
美穂と麻由がタッグを組んだ為に、何となくその気になっていた紅葉は黙り、ジャンヌと真奈は驚いた表情で眺め、バルミィは「やるじゃん」と呟いて笑みを浮かべる。
「一握りは知名度を上げ、大半は当て馬で生活に変化は無かったと言ったよな。
なら、『一握り』と『大半』以外のヤツはどうなったんだよ?」
「・・・え?何のことだ?」
「タレント活動やユーチューバー、変わらずに一般人・・・。
それ以外では、セクシービデオの女優。知名度を上げた結果がコレかよ?」
「それは驚きますね。
ご本人が望んだんですか?それとも、アナタ達が斡旋したんですか?」
「・・・そ、それはっ!」
「一番不可思議なのは、準決勝や決勝に上がって知名度を得たにもかかわらず、
足跡が消えた数名。
ソイツ等は、無意味に上がった知名度が煩わしくて息を潜めたのか?
それとも、もっと別の理由があるのか?」
「その様な方々もいらっしゃるのですか?
アナタ達は、彼女達に対しても責任を取っていると言えるのですか?
これが、意図せずに知名度が上がってしまった末路なのでは?
足跡が消えた方々にお会いして、一度お話を伺いたいのですが、
連絡先を教えていただけませんか?」
「知り合いの警察や記者に『調べてく』れって頼めば、
いくらでも闇が出てきそうだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・ちぃっ!何だ、コイツ等?」
美穂&麻由の理論武装に対して、割井達は反論が出来ない。出演がキッカケで稀にタレントになる娘も居るが、たいていが2~3年サイクルで業界から消える。数年にわたって存在感を発揮して地位を固める娘など数えるほどしか存在しない。
彼等は、出演後も女の武器で頼ってくる“見た目が合格点”の娘くらいは、1~2年は面倒を見るが、出演者達のその後の人生に責任を持つつもりなんて無い。言うまでもなく、そんなに沢山の責任を背負えるわけが無い。番組さえ盛り上がれば、消耗品(出演者)なんてどうでも良いのだ。
「チャンスを棒に振るんだね。こんな機会、もう無いぞ」
「アンタ等におもねて人生を棒に振る気は無い。おととい来やがれ」
割井達は、名残惜しく負け惜しみを言いながら立ち去っていった。
「凄~い!テレビの人達を閉息させちゃった。
強気の美穂さんと、理詰めの麻由ちゃんがタッグを組んだら最強すぎる!」
「美穂、『超食クイーンGP』の出演者の“その後”にやけに詳しいばるね。
いったい、いつ調べていたばるか?」
「あぁ・・・それ?前にテレビで見た時にさ。
紅葉と麻由を送り込めば、見た目的にもスペック的にもキャラ的にも、
クィーンに勝てそうな気がしたから、
あたしがマネジメントをして荒稼ぎしようかと思って、色々と調べたんだ。
そしたら、大半の出演者の“その後”がパッとしてないし、
セクシー女優になった奴もいたから諦めた。
まぁ、セクシー女優にしても稼げるだろうけど、
友達として『ソレはちょっと無いな』って思ってさ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×5
さすがは美穂だ。先見の明を持って、スカウトの連中と同じ事を考えたけど「友達をセクシー女優にはさせられない」って理由で廃案にしたんだ?美穂を除く愉怪な仲間達はドン引きしたまま、宿題をする為に図書館へと向かう。
―翌朝・山頭野川の堤防道―
ジャージ姿の紅葉がジョギングして、母親の有紀が自転車に乗って後から煽る。
「ほらほら、ペース落ちてるっ!!」
「へぃ、へぃ、ほぉ~・・・へぃ、へぃ、ほぉ~・・・」
春休みになってから、紅葉は「友達と遊びに行く日」以外は10時過ぎまで起きてこない。見かねた有紀が6時に起こして、強制的にジョギングに引っ張り出したのだ。
「健全な魂は、健全な身体に宿るのっ!
春休みだからって、ぐーたらな生活は許さないからねっ!」
紅葉は体を動かすのは好き。勉強で缶詰にされるより数倍マシだ。だけど、ゴールが示されず「いつまで走るか解らない」のは地味に辛い。
「姿勢が悪いわよ。ちゃんと背筋を張って元気よく走りなさい」
基本グータラで有事以外は何もしないクセに、僅か1週間足らずの特訓で刃吾幻を追い詰めた。策や戦略は全く無いが、単純なパワーとスタミナは刃吾幻を超えていた。親として娘の成長は嬉しいが、大した苦労もせずに才能のみで此処まで強くなったのは少し腹立たしい。このまま成長したら才能に胡座をかいて自惚れる可能性がある。有紀が紅葉に課しているトレーニングは、肉体を鍛えるだけではなく、心も鍛えて増長をさせない側面もあるのだ。
「んぁっ?」 「あらっ?」
「おお、ク~チャン」 「おはようございます」
紅葉達が橋を通過して堤防に入ったところで、反対側からジャージ姿の麻由とジャンヌが走ってきた。紅葉&麻由&ジャンヌは「合流して一緒に走りたい」と思ったが、紅葉の母親がいるので気を遣って挨拶を交わして擦れ違う。有紀は振り返って、麻由とジャンヌの後ろ姿を眺めた。
「葛城さんと、ジャンヌちゃんね」
「へぃ、へぃ、ほぉ~・・・へぃ、へぃ、ほぉ~・・・
んっ!マユとジャンヌっ!」
「誰にも何も言われてないのに、頑張っているわね」
「へぃ、へぃ、ほぉ~・・・へぃ、へぃ、ほぉ~・・・
んっ!マユ、頑張り屋さんだからねぇ!」
「へぇ、そうなんだ?葛城さんは、頑張り屋さんなのね?
・・・誰かさんと違って」
「んへぇぁぁっっっっっっ!!!しまったぁぁっっっっ!!!!」
紅葉はワンテンポ遅れて「麻由達の間の悪さ」に気付いた。あっち(麻由)は成績優秀で、規則正しい生活をして、自主トレもシッカリやっている。あんなバケモン(麻由)と遭遇したら、「ジョグで力尽きたから勉強無理」なんて言い訳に出来ない。
有紀からすれば、麻由の優秀ぶり羨ましくて仕方がない。争いから遠ざけられて普通の人間として育った為に精神的甘さが目立つが、裏を返せば「戦いの世界に踏み込んでからの成長の早さ」には恐るべき物がある。
「これじゃ、今に、葛城さんに追い抜かれそうね。
もう少し厳しいトレーニングをするべきかしら・・・・・・・・・・あら?」
有紀が正面に向き直ったら、紅葉は力強い足取りでだいぶ先行をしていた。麻由を見て意識したのか、紅葉の負けん気が煽られて無意識にスイッチが入ったのかは不明だが、紅葉が走るペースが上がっている。
「へぇ~・・・紅葉も、あの子(麻由)の急成長に気付いているんだ?
ただの馴れ合いのお友達ではなくて、切磋琢磨する関係になったのね」
有紀はペダルを踏む足に力を込めてスピードを上げ、先を走る紅葉を追い掛ける。
一方、橋の上を走る麻由も、紅葉と擦れ違う前よりもペースが上がっていた。麻由がジョグをする目的は「部活動が休みの日でも軽く運動をする」であり、「肉体を追い込んで体力を向上させる」つもりは無かった。しかし、紅葉を見て「毎日、倒れる寸前まで体を鍛えるつもり?」と考えた直後から、無意識に走る速度が上がっていた。
紅葉が模擬戦で見せた回転する神鳥。土壇場でのあんな発想を、麻由は真似できない。刃吾幻戦では、特訓の成果を昇華させたインフィニティスマッシュを発動させた。どんな力なのか見当が付かないので、麻由には似た技を使う事は出来ない。
麻由のイメージでは「紅葉は、いつも麻由の先を走っている」のに、また、ずっと先行されてしまった。「これでは、いつまで経っても、紅葉に追い付けない」と焦ってしまう。
「マユユ、このペースで走るのか?」
ジャンヌは、さっきまでは「優雅に風景を楽しみながらジョギングするスタンス」だった麻由が、露骨に力んだフォームで黙々と走るので、違和感を感じて声を掛けた。
「先程までと比べて、かなり早いようだが」
「ご、ごめんなさい・・・ちょっと夢中になってしまって」
我に返った麻由が走りながらスマホのストップウォッチ画面を見て、走った距離とタイムからオーバーペースを確認してスピードをダウンさせた。すると、すぐ後を走っていたジャンヌが「お先にっ!」と麻由を追い越して駆けていく。
「・・・なっ?」
「クーチャンは、今の私くらいのペースで走っていたようだ。
負けてられませんね」
ジャンヌは、麻由が紅葉を意識している事に気付いていた。麻由はジャンヌの挑発に対して微笑む。おかげで、無駄に入った力が抜けた。麻由はジャンヌのペースに合わせて付いていく。
-美穂のアパート-
「!!!」
臥床中の美穂が、サマナーホルダの振動=アナザービーストの出現に気付いて飛び起きた。サマナーホルダの振動と点滅から察するに、かなり近い場所だ。スマホを取り出して、愉快のグループLINEで注意喚起のメッセージを送ってから、映る物の前で構えて、サマナーホルダを向けた。
-文架大橋東詰-
ジャンヌと麻由は「堤防道と橋が交差するところがゴール!」と決めて、ペースの速いジョグからラストスパートのダッシュに切り替える。先にゴールをしたのはジャンヌ。麻由は、持久力なら負けない自信はあるが、瞬発力ではジャンヌには適わなかった。2人は肩で息をしながら、堤防斜面の芝生に腰を降ろす。
「あら?」 「ん?」
2人のポケットで、LINE通知音が鳴った。同時にメッセージが入るのは、愉怪のグループしかない。スマホ画面で美穂からの「アナザービースト発生」のメッセージを確認。麻由が意識を集中させて、妖怪とは違う気配を発見する(正確な位置は解らない)。
「北の方・・・アナザービーストの気配かもしれません!」
インバージョンワールドに進入できるのは、異獣サマナーネメシス(美穂)と、雲外鏡効果を発動させた妖幻ファイターゲンジ(紅葉)と、真奈によって命令権を行使されたマスクドジャンヌ。そして、雲外鏡でインバージョンワールドの入口を作れる聖幻ファイターセラフ(麻由)以外の全員。
つまり、ジャンヌがインバージョンワールドに入る手段は、真奈との合流を待つか、麻由が入口を作るか、どちらかになる
-山頭野川西側堤防-
「んげげっ!」
ジョギング中の紅葉が、Yスマホを確認してから、後から自転車で付いてくるママををチラ見する。アナザービーストに対処したいが、ママがいるので変身できない。「トイレに行く」と言って隠れて変身しても、そのあと、何十分も行方不明になったら、ママに「トレーニングがイヤでバックれた」と思われる。
紅葉が困惑していたら、麻由からグループLINEで「近くにいるので対処します」とのメッセージが入った。続けて、麻由のHスマホからの、相互リンクと雲外鏡の使用許可を求める通知が入ってきた。「紅葉が変身できない事」を察してくれたのだ。
「んぁぁ?ウンガィキョーのよーきゅー?
あぁ、そっか!マユにお願ぃすればィィんだっ!」
紅葉は、Yスマホ画面の“YES”をタップ。リンクをして、更にタヌキをドラッグして、リンク先にドロップする。
-文架大橋東側の橋下-
「紅葉からの許可が来ましたっ!」
麻由のHスマホに、紅葉から雲外鏡のスタンプが送られてきた。麻由はすかさずタップをして雲外鏡のキーホルダーを召喚。川に向かって駆けながら静薙刀を召喚して雲外鏡のキーホルダーを引っ掛け、穂先で川面を突いた。麻由が戦闘をするなら運動能力や防御力を上げる為に変身は必須だが、インバージョンワールドへの干渉くらいならば生身のままでもできる(自主トレで試した)。いくら通行が少ない河川敷とは言え、人外が川辺に立ってるってのは目立ちすぎるので、変身をしないまま対応をする(女子高生が薙刀の先っぽを川に突っ込んでるだけでも目立つけど)。
切先を中心にして川面に歪みが生じ、インバージョンワールドの入口が出現!途端に麻由は、何も生命力が無いはずの世界で蠢く物の気配を察知する!
「ジャンヌ!北の方、美穂さんのアパート周辺に、何かがいます!
行ってもらえますか!?」
「承知した!・・・マスクド・チェンジ!」
ジャンヌが気合いを発すると懐中時計が反応をして光を放ち、ジャンヌの全身が青銀の鎧に覆われた!マスクド・ジャンヌ、変身完了!麻由が発生させている歪みの中に、勢い良く飛び込む!




