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46-1・聖地のロキ~紅葉をスカウト?

反転世界(インバージョンワールド)


 “生命が存在しない世界”の市街地の上空を、翼を広げた少年=天狗が飛ぶ。郊外から山間地へ。人の入った形跡の無い森で下降をして、翼を折り畳んで着地をする。その場所は傍目には周辺の森と何も変わらない。だが、天狗が目を凝らすと、目の前にある一角だけが他とは“別の場所”に見える。


「やっと見付けたよ」


 踏み込もうとすると、侵入者を拒むようにして“向こう側から”2つの人影が近付いてきた。1人は漆黒の甲冑で全身を包んだ騎士、もう1人はコブラの頭をした怪人。


「やぁ、久しぶりだね。スレイプニル、ヨルムンガンド」


 漆黒の騎士の名はスレイプニル、コブラ頭の名はヨルムンガンドと言う。


「何者かと思えばオマエか」

「大嶽丸の狗が何の用だ?」

「あははっ、狗は酷いなぁ。まぁ、間違いではないんだけどさ。

 この先にいるんだろ?君達のご主人様は・・・さ」


 天狗は、2人の間を抜けて先に踏み込もうとするが、2人は天狗の前に立って進入を拒む。


「あれ?通してくれないの?」

「主からは『何者も通すな』と言われている」

「我々は知っているぞ。オマエは、バルキリーを始末しただろう。(第33話)

 その様な者を、ここから先に通すわけにはいかん」

「へぇ、知ってたんだ?

 でも、あれは、50年前に滅んだバルキリーの残留思念。

 君達は、あんな残りカスを頼りにしていたの?」

「それでも、我が同士を見殺しにする者は信用ならん!」

「困ったなぁ・・・会わせてもらえないのかぁ。

 彼に有益な情報があるから、彼の力を貸して欲しいんだけど」


〈スレイプニル、ヨルムンガンド、天狗をに通してさしあげなさい〉


 天狗が困惑をしていたら、何処からともなく声が聞こえる。スレイプニルとヨルムンガンドが、声に対して一礼をして道を空け、天狗は笑顔で礼を言って踏み込んだ。スレイプニル、ヨルムンガンドが後ろから続く。

 結界の中に入った途端に周囲の気配が変化する。そこは聖地。厳粛で神聖だが、ただ事ではないプレッシャーに支配されていた。「彼」が何かをしているワケではない。だが、「彼」の存在そのものが、ただ事ではないのだ。スレイプニルとヨルムンガンドは「彼」に対して跪く。


「やぁ、ロキさん」


 中性的な青年の姿をした「彼」は、宙に浮いたまま仰向けになって眠っていた。


〈お久しぶりです、天狗。よく、此処が解りましたね〉


 ロキと呼ばれた青年は口を開いていない。テレパシーで会話をしている。


「随分探したよ。魔界や人間界も含めてね。

 君が気紛れに姿を与えた子(鏡像の美穂)から、

 君の居場所を聞こうと思ってたのに、

 いつの間にかバックれられちゃうし、もう散々だったよ(第31話)」

〈ご用件は?〉

「あら、僕の苦労話を聞く気は無し?ツレないなぁ。

 まぁ、いいや。用件は2つ。

 1つは、大嶽丸から僕への指示で君の所在と調子を確認する事。

 所在は、たった今判明。

 調子については、目覚めるまでは、もう少し時間がかかるみたいだね。

 大嶽丸には、そう伝えておくよ」

〈よろしくお願いします。

 それで・・・もう一つの用件とは?『有益な情報』と言っていましたね〉

「ふふっ・・・人間界で“ヘル”と“フェンリル”の気配を発見したよ。

 だけど、今のところ、たまに気配を感じるだけ。

 まだ完全覚醒はしていなくて、偶発的に目を覚ましているだけみたいだね」

〈ほぉ・・・ヘルとフェンリルは人間界に存在していましたか〉

「君達が刺激をしてあげれば、目覚めてくれるかもしれないけど、どうする?」


〈スレイプニル、ヨルムンガンド〉

「ははぁっ!」×2

〈天狗に協力をしてさし上げなさい〉

「なっ!?」 「妖怪ごときの手助けですか!?」

〈いくら貴方たちでも、私の友人を妖怪“ごとき”は聞き捨てなりませんね。

 それに、大切な仲間ヘルとフェンリルの為です〉


 穏やかだが威厳のある声に、スレイプニルとヨルムンガンドが萎縮をする。


「ははぁっ!かしこまりました!」×2 


 スレイプニルとヨルムンガンドが合図を送ると、天狗の背後に闇のトンネルが出現して、人型の馬と蛇が3匹ずつ現れてスレイプニルとヨルムンガンドに傅いた。


「我らの部下を貸してやる」

「へぇ、そりゃ、頼もしい」


 天狗は満足そうに笑みを浮かべる。




井伊桔いいけつ町・杉田邸-


「出掛けてくるね!お昼は外で食べるから!」


 真奈が階段を駆け下りてきて、リビングのソファーで新聞を読んでいる叔父に声を掛けた。


「何処に行くんだ?」

「友達とボウリングして、そのあと図書館で宿題すんの!」


 叔父の杉田義一は、文架市内の大学で心理学の教授をしており、普段は講義や研究で忙しくてあまり家に居ないのだが、今日は珍しくノンビリとオフを過ごしている。


「気を付けて行くんだぞ」

「もう叔父さんてばっ!子供じゃないんだから大丈夫だよっ!」


 真奈は、自分のヒップラインの美しさを自覚しており、私服ではミニスカートやショートパンツの類いを好んで身に着ける為、杉田は度々目のやり場に困ることがある。


「子供には子供で、大人には大人で危険があるんだ」


 杉田は、ソファーに座ったまま、真奈を見送った。

 真奈は、母の弟と、彼の長男の3人で生活をしている。小学時代に母を、中学時代に父を亡くした真奈は、叔父に引き取られ、実の娘同然に大切に育てられていた。




-十数分後・文架大橋-


 本日の愉怪な仲間達は、10時集合で皆でボウリングをして、昼食を食べてから春休みの宿題をする予定になっている。ボウリングの発案者は紅葉。麻由が気を利かせて「皆で宿題をしよう」と言い出し、紅葉は反対をしたが、美穂と真奈が「面倒臭い事はサッサと終わらせよう」と同意をして企画が決まった。


 真奈は自転車で、美穂は原チャで並走をして、目的地に向かう。橋の対面側歩道を通行していた女子が真奈に手を振ったので、真奈も手を振り返した。


「ん?知ってる奴か?」

「優高の子だよ」

「あんな奴、いたっけ?」

「2年E組の人。美穂さん、友達以外に興味持たなすぎっ!」


 真奈は、名物娘の紅葉や生徒会長の麻由には負けるが、それなりに顔は広い。

 2年前に優麗高に入学した直後に、2個上の先輩に誘われて推理研究会に入部をした。活動内容は学校内で起きた事件を推理すること。しかし、推理研究会が介入するような事件は発生しないので、生徒間では「困ったことを手伝う何でも屋」として扱われていた。

 度々、下らない手伝いを押し付けられたが、分け隔てなく対応したお陰で真奈は校内に顔馴染みが多い。優麗祭でフォローをしてくれた軽音部との信頼関係も、何でも屋に所属していたからこそ育まれたのだ。


「社交性・・・か。あたしは苦手だな」


 美穂、真奈、麻由は、親や兄弟を亡くして孤独という共通点がある。美穂や麻由は心に壁を作る癖があるが、真奈にはそれが無く、誰とでも親しく付き合う。保護者になってくれた叔父がいるから、美穂や麻由と比べて年相応に真っ当なのか、真奈にも皆には見せない心の壁があるのか?それらの差は、個々の性格から生じているのか、肉親を失った時期が関係しているのか?


「どうしたんですか、美穂さん?」


 美穂は答えの解らない問答をしていたが、真奈の声で我に返った。


「ん?いや、何でもない」


 愉怪な仲間達のムードメーカーは、紅葉とバルミィ、そして真奈の3人。真奈は唯一の非戦闘員だが、方々に顔が利き、常識的思考で潤滑油をしてくれるのでとても有り難い(・・・と言うか、他の連中が世間知らずすぎる)。美穂は「真奈が愉怪な仲間達の副部長にをしているのは当然の成り行き」と考えていた。




-約2時間後・文架駅前のファーストフード-


 ボウリングを終えた愉怪な仲間達は、それぞれのスコアを眺めながら昼食を食べている。2ゲーム目の開始前に「ビリはシェイクおごり」と美穂が決めた為、紅葉が6人分のシェイクを支払った。


「くそっ!まさか、麻由に負けるとはっ!

 そ~いや、スポーツはそれなりに出来るんだっけ?」

「毎回、私が飲食代を支払わされるわけにはいきませんからね」

「よっぽどビリになりたくなかったばるね。

 ゲーム中、麻由だけ、目付きが違ったばるよ」

「次回は、打倒ミーメさんです!」

「ばるるっ!いつでも受けて立つばるよっ!」

「またそうやって、無謀にバルミィをライバル視する。

 バルミィも煽るな。スペックが違いすぎる。

 バルミィは、ボウリングを知らなかった序盤はダメだったけど、

 2ゲーム目はパーフェクトだぞ」


 ボウリングの平均アベレージは、バルミィが290でトップ。ジャンヌが139、麻由が意地で掴み取った123、美穂が118、真奈が97。紅葉は「ボウリング後に宿題」にメンタルを崩されて序盤からお粗末だったが、スコアが伸びずにカッカしたらもっとダメになり、平均アベレージ49でビリだった。


「ふぇ~~~~ん・・・ビリ悔し~!こんなハズぢゃなかったぁ~~!

 マユとミホとマナの陰謀だぁ~~!!」

「2ゲーム目のスコア26は、さすがに悲惨だよね~」

「マユユとは対照的に、クーチャンは目が死んでいましたからね」

「ジャンヌさん、初ボウリングなのに凄いよ!」

「フッ!適度なリラックスと、投げる瞬間の集中力ですね。

 マスターは、もう少し肩の力を抜けば、まだまだスコアは上がると思いますよ」

「く~や~しぃ~~~・・・ヤケ食いだぁ~~~!!」


 紅葉はソレっぽい理由を付けながら、いつもと変わらないバカ食いをする。やがて昼食を終えて、宿題をする為に図書館に向かう事にした。


「んぉ?なんだ、アイツ等?」


 店を出たら、数人の男達が「あ、あの子だ」と寄ってきたので、愉怪な仲間達は「何事か?」と立ち止まって眺めた。若作りでチャラいファッションだが、皆どう見ても30~40代くらいの風貌に見える。


「すいません、源川紅葉さんだよね?」

「うへぇ?そうだけど・・・」

「おおおお~っ」 「イケてますねっ」

「えっと・・・ダレ?」

「TVトキオの『超食クイーンGP』観た事ある?」


 年に数回放送される人気特番の名前を出された。大食い自慢の女性達が集結をして、大食を競う番組だ。最近は単に大食いなだけでなく、見た目もイケてる女性が多数出場して、知名度を得てタレント活動をしたりユーチューバーになった者もいる。


「ぅん、見てるです」


 回答をした紅葉に、リーダーっぽい男が名刺を渡す。番組名とチーフプロデューサーって肩書と、割井和留雄わるい わるおって名前が書かれていた。


「俺、プロデューサーの割井、

 こっちは製作スタッフなんだけどね~・・・

 最近マンネリで刺激に欠けてるから、

 『女王に無名の強豪ぶつけて、世代交代を匂わせよう』って話になってね。

 それで、目玉になる新人を探してたんだ。

 キミたくさん食べるしカワイイからさ~、ちょっと出てみない?」

「んぁっ!?」


 紅葉が困惑をする。何処から素性がバレたのか?仲間達が戸惑ってる横で、美穂は「思い当たる節は幾らでも有る」と溜息をついた。


「紅葉、ちょっとスマホ貸せ」


 紅葉はYスマホを取り出し、ロック解除して美穂に渡した。受け取ってモニター眺めたら、アイコンが全く整理されておらず何が何だか解らない。


「X(Twitter)を開いてくれ」

「なんでぇ?」

「オマエのバカッぷりを確認する為だ」

「バカぢゃないもんっ!」


 紅葉は、言われた通りの画面を開いて美穂に渡した。


「やっぱりバカだ」


 確認すると、数日前に博多ラーメン屋で、替え玉の歴代記録を更新して表彰された記念写真を載せていた。全くの無修正で素顔を晒してる。それどころか、つい先程アップした『ぼうりんぐなう』なんて記事まであった。現在地、丸バレだ。


「・・・・ったく、こいつは」


 自宅や出かけた先での美味そうな料理をこまめにアップしてるし、自撮り画像も載せている。本人には自覚が無いのだが、並の芸能人以上の美少女なので一定数のファンいるようだ。

 それが巡り巡って、製作スタッフ達の目に留まり、過去の投稿を遡られて『優麗祭ライブ』にでも行きついて優麗高とバレて、あとは聞き込みで身元を突き止めたに違いない。あまりにも無防備すぎる。


「好きな料理は?」

「美味しぃモノゎ、何でも大好きでぇ~すっ!」

「この子は華があるから、

 裏工作してでも地区予選ぶっちぎり突破で本選に出場してもらう」

「はいっ!!」×スタッフ全員

「番組に出演して、美味しい物を沢山食べるだけ!断る理由なんて無いよね!?」

「んぁぁっっ!美味しい物、たくさんっ!!?・・・で、でも」

「もちろん、代金は番組持ちなんだから、いくら食べても無料!

 しかも、お小遣い(出演料)もらえるし、優勝すれば賞金だってもらえる!」

「マヂかぁ~~~!!?」


 愉怪な仲間達が呆然としている間に、出場が前提で話が進んでいる。しかも紅葉は乗り気だ。これは拙い。ただでさえ「変身して戦う」という秘密を抱えているのだから、必要以上に目立つ活動は避けるべき。美穂は少し考えてから麻由を呼んで小声で話す。


「どうにかしろよ。テレビ出演はマズいだろ」

「それは解ってますが・・・『どうにかしろ』と言われたって、どうすれば?」

「『我が校は生徒の芸能活動を全面的に禁じてます』とでも言って追い返せ」

「特に禁じてはいませんが・・・」

「嘘も方便ってやつだ。臨機応変に考えろ」


 指令を受けた麻由がスタッフ達の元へ。しかし、状況を理解していない紅葉が、いきなり妨害をする。


「マュも、ァタシと同ぢくらぃ食べるょっ!!」

「ええええ~~っ!?この子も大食いなのっ!?」

「めっちゃイケてるじゃないすかっ!!」

「え?え?え?・・・・ちょっと待って、話を聞・・・・」

「すいません、お名前は!?」

「あの、そのっ」

「かつらぎマユだよっ!」

「ちょっ!紅葉っ!」

「どれくらい食べるの!?」

「10人前くらぃゎ余裕だょねっ!!」

「セーブしてる時でも3人前は食べているな」

「ジャンヌっ!」


 しかも、ジャンヌまで話しに加わって、自慢気に麻由を推し始めた。


「そりゃ凄いっ!!

 どんな手段を使ってでも、この2人を本戦に出して

 クイーンを苦戦させようっ!!」

「はいっ!!」×スタッフ全員


 止めるどころか、一瞬で場の雰囲気に飲まれてしまった。

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