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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第79話 敵と味方と捕虜は、カネの具合でころころ変わる

「何の話をしてるんだかわからん。俺の言いたいのは、あんたの敵をわざわざここまで連れてきた以上は、それなりの見返りがあってしかるべきだということだ。」


「カネを払わないだなんて一言も言ってないぞ? 私が言ったのは、マノカイ軍として警備していたくせに、ゼノアから金をもらって守備していた城を明け渡し、その後、マノカイ軍が意外に強くてゼノア軍を壊滅状態に追い込んだのを見て、味方と信じているリンゲルバルトをだまして捕虜に仕立て上げ、恩着せがましくマノカイに連れてきた男の話だ」


「な、なんだと?」


「なにしろ、大失敗だ。ゼノア第一の実績ある軍人を、さあ殺してくださいと言わんばかりに危険な敵地に連れ込み、実際に殺させてしまった」


「何を言う……」


「ゼノアはどう思うかな? マノカイは……マノカイは私が決めるわけだが、八つ裂きになるか、火刑になるか……ほかにもいろいろあると思うが……」


 ガゼル殿は一瞬たじろいだ。彼はまさかそこまでされるとは思っていなかったのだ。彼は唾をのんだ。


「何てことを言うんだ。そんなことができるわけがないだろう」


「私にできないとでも思うのか? ウマだっているし、火刑台だって簡単に作れるぞ」


「ジェルナン殿、あんたは勘違いしている。ゼノアはとにかく、マノカイは私に対して、そんな真似はできない。城をひとつ取られただけだ。それに私には味方が……」


「味方?」


 ガゼル殿は黙った。

 ジェルナン殿は、ガゼル殿の顔をフフンと言った目つきで見た。

 そろそろ、しっぽが出てきたな、このタヌキ親父め。


「じゃあ、カネの話をしようじゃないか、ガゼル殿。

 ゼノアが、ガゼル殿を賞金首にしてみたり、ゼノア兵と遭遇すると殺されるかもしれない件は、私にはどうしようもない。せいぜいガゼル殿の単独犯だから、ガゼル殿だけを狙えとゼノアに教えてやれるくらいだが、そんな私でも身代金なら払えるぞ?」


 ガゼル殿は力なくジェルナン殿を見た。


「さっきまで、あんなに威勢よく欲しがっていた身代金だ。カネより命かも知れないが、私の場合は、命より情報だ」


「情報?」


「そう。リンゲルバルトからの申し出の渡りをつけた人物の名前だ。ゼノアの人間じゃないだろう、マノカイの者だな?」


 ガゼル殿は黙っていた。

 傭兵なんかそんなものだ。ことと次第によっては、有利な方と手を結ぶのだ。それは傭兵稼業をしている者の常識だ。今回だって……しかし、ジェルナン殿のせいですべての目論見は狂ってしまった。


「それはいえない。リンゲルバルト殿は死んだが、他の者は生きている。」


 ガゼル殿は最後の抵抗を試みた。


「俺だって生きてるし、いろんなことができるんだぜ。今、説明したよな。人の心配より、自分のことが一番大事だと思わないのか?」


 ガゼル殿はしばらくもじもじしていた。しかし結局しゃべった。


「バイツと名乗る男だったよ」


「なぜ、その男を信じたのだ」


「いや、だって、バイツはリップヘン殿からの信書を持ってきたのだもの」


 リップヘン! そうか。おとなしくしているはずがなかった。


「もちろん、お前はその信書を持っているな?」


「燃やせと書いてあったから、燃やしましたよ」


「どんな手紙だった? そして、そのあとバイツはどうした」


「手紙は単にバイツを紹介する、話を聞いてやって欲しいとあっただけだ」


「ガゼル殿はリップヘンの筆跡を知っているな?」


「知っている。だって一緒にマノカイへ上洛したじゃないか。リップヘン殿の字ならすぐ見分けがつくさ。ひどい悪筆だからな。それにバイツはリップヘン殿のお付きの格好をしていたし」


「バイツの話はゼノア軍が攻めてきたら、お前の守っていた城を譲ってやれと言うことだったのか?」


「まあ、そんな所かな。ちょっと手加減しろといった話だった。

 どうせリンゲルバルトの軍にはかなわない。ジーグ伯の城を取られてしまうことは目に見えていた。早いか遅いかぐらいの違いしかないさ。たいした金ではなかったが、さっきも言ったように、こちらも命と商売は大事だからな。軍を壊滅させられては元も子もない。これくらいのことはどこの傭兵でもやっている」


「そして、マシューをお前からだといって、俺の所によこしたのだな? 刺客だったが」


「そいつのことは俺は知らん。だが、バイツやリンゲルバルトが俺の名前を使うぐらいのことはしたかもしれない」


 ジェルナン殿は、傍らの兵を呼び寄せ、ひそひそと命令をくだした。


 ガゼル殿はそれが気になったようだった。


「なんだ。何の話しをしている」


「気にするな。ところでバイツはその後どうした?」


「どうって、もちろん帰ったさ。リンゲルバルトのところに。返事を出さなきゃならないだろう」


「それで金を持ってきたのは、やっぱりそのバイツだったか?」


「当たり前だろう。俺はそいつの顔しか知らないんだから」


「それでなんだって、その仲良しのリンゲルバルトをわたしのところに連れてきたのだ」


 ガゼル殿はちょっともじもじした。


「さっき自分で言ってたじゃないか。カネになるからだ。どうせいつかは捕まるさ。この有様じゃな。砦と城が両方ともボロボロだ。他の者に取られるより、先に自分の手柄にしたかっただけだ」


 ジェルナン殿の顔つきが少し変わったが、声の調子は変わらなかった。


「聞くだけ聞いたから、また明日会おう。明日はもう少し正直になったほうがいいぞ」


「なに? 俺は全部しゃべったぞ。ほかに何があると言うんだ……」


 ジェルナン殿が合図すると、後ろから二人の衛兵がガゼル殿をがっちりとつかんだ。


「この扱い、どうにかならないのか? 曲がりなりにも、 マノカイ軍の一員だぞ、俺は」


 ジェルナン殿は応えなかった。衛兵はお構いなしに彼を連れて出て行ってしまった。





 晩方、ジェルナン殿がローソクの光の下で何か読んでいるところへ、彼の腹心のガレがひっそりと戻ってきた。


「どうだった?」


 彼は黙って手紙を渡した。


 ジェルナン殿はそれをざっと読んだ。このごろではかなり読めるようになってきていた。


「一通目の筆跡は間違いなくリップヘンだ。バイツの話を聞いてやって欲しいとあるな。ガゼルの話どおりだ。もう一通は……これはリンゲルバルトからガゼルへの手紙だ。

 ガゼルはそんなものはないといっていたが、こういうものは、普通、必ず取っておくものだ。万一、支払いがなかったときの証拠になるのだからな。

 リンゲルバルトからは城を明け渡してくれたら、金を出そうと書いてある。間違いないな?」


「はい。そのとおりでございます」


「金はあったか?」


「はい。そのほかにこれが」


 ジェルナン殿は不審そうにもう一通を受け取った。読んだジェルナン殿の顔にさっと不快感がさした。それは、エルブフ殿からガゼル宛の手紙だった。


 そこには、女王の婚約を阻止するべく、ガゼルに対し、マノカイを裏切りゼノアに味方するよう自筆で書かれていた。


「ジェルナン殿はあの性格だから、必ず戦場に出向く。北部戦線で彼を討ち取れ。さすれば、マノカイは安泰、ゼノア王からお褒めの言葉も頂けよう。貴公の出世も保証しよう。まずは、ジェルナン殿の軍の中に暗殺者を紛れ込ませろ」


 簡単に書けばこのとおりだったが、具体的な計画はなかった。


「おそらく、このままリンゲルバルトに見せたのだろうな。

 具体的な段取りをつけたのはリンゲルバルトだろう。ガゼルじゃない。エルブフでもない。

 リンゲルバルトが自分の部下の中からマシューを選んで、ガゼルからの紹介という形で私の身辺に忍び込ませ、暗殺するよう指示したのだろう」


 ジェルナン殿は、その3通の手紙をもう一度読み返した。それからガレに言った。


「大切に保管しておけ。日付も書いてある。婚約発表の翌日だ。これは証拠だ」


 ガレは黙って承知したと言う様子を示した。


「ガゼルは牢から出すな。しばらくほっておけ。そのうち忘れたことも思い出すだろう」


 だが、そのとき、急に周りが騒がしくなった。夜のこんな時間だと言うのに、早馬が到着したのだった。


「ジェルナン様! ジェルナン様はご無事でしょうか!」


 人々がざわめき、パシー殿やアンスが走っていった。


「何事だ」


 燈火が灯され、深夜に建物の玄関に人が集まり始めた。


 ジェルナン殿が、燈火を背に現れた。


「どうした?」


 「バッソンピエール様の手の者でハイデルと申します。ジェルナン様宛に手紙をあずかって参りました」


 「手紙?」


 悪い予感がした。

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