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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第74話 ゼノアとの戦争開始

 だが、それは明白な脅しだった。


「宣戦布告ですわね」


 キャンベル殿が退出した後、リーア陛下が言った。話の意味がさっぱりわからなかったエルブフ殿や半分くらいしか通じなかったユーグ公は別として、他の面々はおおむね理解していた。


「ただの脅しでしょう」


「可能性があるのはゼノアの軍が近い国境線の町だ。エルブフ殿のご領地あたりが危ない」


「わしの所の領地を狙い打ちにするというのか?」


 エルブフ殿がむっとして質問した。


「そういう意味ではありません。言うことを聞かなければ、マノカイに軍事行動を起こすぞといっているわけです。そのためのわざわざの伝言です」


 誰かがエルブフ殿に説明した。


「どういう意味じゃ」


「リーア陛下に結婚を迫っているわけです。ラセル王と結婚しないなら戦争だぞと。かなり強硬ですな」


「ラセル陛下とご結婚なさればよいではないか。戦争なんぞ真っ平じゃ」


 全員がエルブフ殿の顔を見た。


「さすがにここまで強硬ということは、結婚されても、マノカイへの配慮がどの程度あるか疑問ですな。あなたの領地が召し上げになる可能性すらありますよ?」


「ゼノアは相当強気ですな」


「それだけラセル陛下は自信があると言うことでしょう。これは近々、何か起こるやも知れませぬ」


「その時には私が出向きます」


 ジェルナン殿が言った。


「貴公は狙い撃ちにされるぞ。そう言っていたではないか」


「貴公さえいなくなれば、ゼノア王はしたい放題。結婚相手は居なくなる、軍事責任者も居なくなる」


 ジェルナン殿は仕方がないと言ったように苦笑いした。


「まさか元帥のリップヘン殿が行かれるとでも? 私以外に行く者はいないでしょう」


 そのとおりだった。

 彼が治めなければならなかった。

 それができなければ、国内は従わない。花婿になれない。




「まーた、そんな売り言葉に買い言葉みたいな。外交官の言葉じゃないだろう」


 マーリー殿が、ジェルナン殿の執務室でのうのうと椅子にのさばりながら感想を述べた。小姓がキャンベル殿とのやり取りを早くも彼に伝えたのである。会議から戻ってきたジェルナン殿は忙しそうだった。


「本気でリンゲルバルトが来たらしい。ガゼル殿の北部戦線が突破された。行ってくるんでよろしく頼む」


「えッ? 本当か?」


 マーリー殿が椅子の上から飛び起きた。


「たった今、飛脚が着いた。キャンベルは牢に閉じ込めた。通信できないよう厳重に監視させてる。度胸があって有能な惜しい男だが、ことと次第によっては首を切るしかあるまい」


「おい、嘘だろ? 早すぎるだろう」


 ジェルナン殿は服を着替え始めた。豪華な服を脱いで、灰色の軍服に手を通した。


「じゃあゼノア王の求婚は何だったんだ? あれはワナか? 断られる前提で、あんな申し出をしたのか? 侵攻の理由にしたかったのか?」


 ジェルナン殿は、首を振った。

 それはわからない。

 ただ、結婚申し込みがいかなる意図だったにせよ、この分では、たとえリーア姫を差し出したところで、ゼノアの野心は止まらないだろう。軍事力の侵攻になるか、もっとソフトな侵略になるかの違いだけかもしれなかった。


「マーリー殿、補給線を頼む。途絶したら、俺らが死ぬと思ってくれ。リグを置いていく。やつの指示に従ってくれ。食糧等の補給についてはマノカイの商人達と話がついている」


「ま、待て。なぜ、未来の王配殿下がそんな危険なところへわざわざ出向くのだ。反対派の思うツボではないか」


「行かなければダメだ。反対派につぶされる」


 ばたばたと足音がして、バッソンピエール殿が走りこんできた。


「ジェルナン、今、早馬が着て、北部戦線が突破されたと言ってるぞ。ガゼルは逃亡して、城にはゼノア軍が立てこもっているそうだ。知っているのか?」


「今晩発つ」


 バッソンピエール殿はびっくりして、大慌てで彼の顔を見た。


「えッ? おい、花婿が? 陛下はどうなる?」


「帰ってくる」


 バッソンピエール殿は、ドアの前に立ちふさがった。


「だめだ。行くな。狙い撃ちされるぞ。お前さえ消せば、マノカイはゼノアの思うがままになってしまう。どうせただの揺さぶりだ」


「おい、ジェルナン、本当だ。この紛争はキナ臭すぎる。お前さえ殺せば、すべてがうまくいく。止めろ、危険すぎる。戦線に出るな」


 ジェルナン殿は二人を見た。


「ゼノアの総大将はリンゲルバルトだ。たとえ揺さぶりだったとしても、もう城を一つ取られてしまっているんだ。そして、もっと進軍してくるだろう。止める者は、ほかに誰もいないじゃないか。リップヘンが行くわけがない。バッソンピエール殿が行くか?」


 バッソンピエール殿はたじろいだ。


「いや、無理。俺は軍人じゃない」


 バッソンピエール殿とマーリー殿は、リンゲルバルトが敵の総大将だという意味をかみしめた。確かに、城一つではすむまい。


 ジェルナン殿はバッソンピエール殿に向かい合った。


「バッソンピエール殿にお願いがある」


「なんだ。俺にできることなら何でも聞くぞ」


「陛下を見ていてくれ」


「え?」


「なにか、危険があったり、いやな思いをされたり……」


 ジェルナン殿は言いよどみ、バッソンピエール殿とマーリー殿は、あっけにとられた。


 陛下の心配……は、要らないだろう。それより、お前のほうがよっぽど危険な立場にあるわけだから、自分の心配をしたらどうだと言いかけて、二人は言うのをやめた。

 心配なんだ……


「わ、わかった」




 別の足音がして、プレショーンが現れた。


「ジェルナン様、陛下がお呼びです」


「用件はなんだ」


「今日の出兵ですが、再考をと」


 ジェルナン殿は首を振った。


「出兵する。指揮を取るのは私だ。陛下によろしく」




 補給線は3日の長さになる。ここを寸断されると命にかかわる。

 問題はマノカイが一枚岩でないことだった。

 誰かが、裏切り者になることだって考えられた。ゼノアと内通してジェルナン殿を亡き者にすれば、マノカイの権力が今度はその裏切り者の手に渡る可能性だってあるのだ。

 大貴族どもは、国を超えて結婚している。彼らの頭には自分の領地はあっても、国境線は無関係だ。国という概念がないのだ。その延長線で言うと、ラセル王とリーア女王の結婚は、領地を増やす良縁にしか見えないのかもしれなかった。

 ジェルナン殿は彼らにとって、理解できないただの邪魔者だった。死んでもらって一向構わない。むしろ、彼が消されてしまうことを切望していた。


 幸いなことに、補給路の一部はかつての尼僧院からマノカイの首都に通じる道すがらであった。


「マーリー殿やユベール殿の領民なら安心できる。今回の戦いには、マノカイ全土からの物資の調達が必要になる」



 リンゲルバルトが待っている。

 たぶん、今回はガチで本気の戦いのはずだった。


 北部戦線は従来から、地元領民同士の小競り合いと言う名目で、近くにある金鉱山をめぐって散発的にマノカイとゼノアの間で争いが起こっていた。とはいえ、実際には形だけのような戦いに過ぎず、両国とも体面を保つためだけに戦っているだけのようなものだった。

 それが、今回、ゼノアを代表するような軍人リンゲルバルトが軍を率いて襲撃しに来たというのだった。


 間違いなく、ゼノアの本気の挑戦、揺さぶりだった。


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