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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第73話 ゼノアからの揺さぶり

 最初の火の手は、ゼノアと国境を接する地域で起きた。農民の暴動が起きのだった。


 今回もジェルナン殿が出て行った。彼はリグ殿をはじめ数人の若い貴族階級もしくはそれに準ずるものを連れて行った。


 暴動は数日で鎮圧され、リグ殿が残って事情の調査を行った。規模は小さかったといえ、暴動が起きた理由を知りたかった。

 ゼノアの揺さぶりと判明したのは、地元の農家たちの話からだった。反目しあっていた二つの村の争いが高じたものだったが、双方ともに原因になった盗みやら嫌がらせには無縁だった。収穫期が近いのに、大きないさかいなど起こるはずがなかったのだ。何者かが、たきつけたに違いなかった。


 エルブフ殿、ステイン殿を始めとした旧勢力はそれ見たことかと騒ぎ出した。しかし、よく考えてみれば、「ゼノア王と結婚しないとこうなるぞ」という意味しかないので、旧勢力は騒いだはいいがゼノア派と看做され、微妙な立場になってしまった。


「違う。陛下がジェルナン殿と結婚すると、反乱が起きると言う意味だ」


 しかし、リップヘン殿と結婚したら反乱が起きないのかと言うと、反乱必至なのは前回の内戦ではっきりしていた。

 結局サーシャ殿を討ち取って内戦に終止符を打ったのはジェルナン殿だった。


 ゼノア王との結婚話は、マノカイの町人、農民たちにはあまり受けが良くなかった。

 内戦をようやく終わらせたばかりのマノカイ人は、吸収されてマノカイがなくなってしまうような気がした。


「そりゃ当たってるだろうな。まあ、態のいい平和的な吸収と言っていいだろう」


 ユーグ公までがそう言った。公はエルブフ殿のことを思えば、まだ話は分かるのである。


 王位継承権の話も微妙であった。

 ゼノア王の前妻の残した王子が問題をややこしくしていた。

 彼らが健在なら、ゼノアの王位継承権は彼らに行くのである。リーア陛下の子供が生まれても、ゼノア王位を継ぐわけではない。結婚が続いている期間だけ限定的に統合されるだけかもしれなかった。


「よく考えるとむずかしいな」


「逆に考えると、マノカイの王座をゼノアの王子が継承すると言う最悪の事態も考えられる」


「ゼノア王家との結婚は、有利とも言いがたい。だが、あの男と結婚するメリットは、全然ない。それを思えば……」


 リップヘン殿は不気味に黙っていた。


 結婚式は半年後と発表され、国内は華やいだ雰囲気に包まれた。


 ただ、肝心の二人は浮き立つどころではなかった。

 いくらリーア姫様本人の希望だとは言え、いつ何時、反対派から反撃ののろしが上がるかわからない。


 ジェルナン殿は国軍を押さえており、万一の内乱に備えて着々と準備を整えていたが、増強にはお金がかかった。

 僧院を出るまでは金の価値を知らなかったなどと、嘘っぱちをかましていたジェルナン殿は、いまやせっせと節約と金策に励んでいた。


「まめな男よ」


 マノカイの商人連中があきれていた。


「細かい。商売の話に敏感。けち。交渉がうまい。あんな貴族は知らん」


「婚約が決まっていなかったら、うちの娘と結婚して商売を継いでもらいたいくらいだ」


「わたしもだ。交渉相手としては気が抜けないが、身内なら大いに結構だ」


「とにかく読みが早い。根っからの商売人に見える。僧院にいたって本当だろうか」


 妙な所で元営業の正体をばらしそうだった。


 陛下のサロンは毎晩のように開かれていた。

 婚約を発表してからは、女性や年配者も大勢招かれるようになった。エルブフ殿などが参加することさえあった。

 リグ殿も招かれ、身分は低いが、陽気で楽しいもり立て役として人気者になった。お世辞がうまかったので、エルブフ殿にすら嫌われなくて済んでいた。


「たいしたものよ。俺なんかエルブフ殿は虫けらを見るみたいな目つきだ」


 マーリー殿が文句を言った。


「お前はいつ陛下と連絡を取っているのだ。婚約者殿」


「内緒だ」


 ジェルナン殿は答えた。工廠からの帰りだった。実際には会っている暇などなかった。


 ゼノアからの再度の信書がやってきたのは、リーア陛下の返答があってから約一月後だった。


 ラセル陛下はあきらめていなかった。


 信書には『夢見がちな姫君から賢明な施政者になり、再度結婚について検討していただきたい』とあったが、口頭でキャンベル殿から、姫をご身分にふさわしい高貴な結婚へお導き申し上げたい、ご理解を得られない場合はじきじきに申し伝えたいとの伝言があった。


「じきじきにとはどういう意味か?」


 同席していたジェルナン殿がたずねた。ゼノアで一緒にラセル陛下の護衛をしていた頃とは、様子が一変しているとキャンベル殿は感じていた。

 冷静で、まるで表情が読めなかった。あの時はきらきらした若者だったのに。


「お越しいただくか、お伺いするしか方法がないのだが、どちらを想定しておられるのだ」


「どちらと決まったわけではございません。ただ、そのような事態も想定していただきとうございます」


 キャンベル殿ははっきりと答えた。


「事態と申されたが、どのような事態かな?たとえば旧友リンゲルバルト殿とお目にかかれるような事態かな?」


「リンゲルバルト殿は適当でございましょう。マレル殿もありうると存じます」


「いずれも武勇で有名な方々ですな」


「いかにも」


「なかなか度胸があるな、キャンベル殿。そのような事態の場合、マノカイに残っていれば、貴公がどうなるか了解しておられるのだろうな」


「リンゲルバルト殿がご活躍される場合のこともご想定くださいませ。ジェルナン殿がゼノアの兵どもの一番の人気者になられること請け合いでございます」


 ジェルナン殿が突然大声で笑い出した。


「わたしに向かってそのようなことを言うとはな。楽しみにしているぞ」


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