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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第37話 ジェルナン・ライカ殿、登場

「姫君様、どうかなさいましたか。」


 ずいぶん年寄りの女だった。多分、リーア姫のお付きの女なのだろう。


「アメリー、大変なことが起きました。」


 リーア姫が落ち着いた声で侍女に話しかけた。


「これから言うことは誰にも黙っておいてください。ライカ将軍のことを覚えていますか?」


「え、ええ。」


 アメリーと呼ばれた老女は不安そうだった。


「お父上様のヴェヴェイ公の養育係だったライカ様ですね…。」


「その方の息子が、今日、ここへ来られました。」


「えッ?」


「今日、歌い手がきたでしょう?あの者に手紙を託してきたのです。ほら、北部チューリンの僧院のしるしの付いた用紙です。」


 リーア姫は手際よく手紙の紙を老女に見せた。


「でも、でも、ご子息のジェルナン殿は1年ほど前に亡くなられたと……。」


「いいえ。生きておられたのです。そういう噂を流したのだそうです。そして、ここへ来てくださったのです。」


「え?こんな所へ?」


「ええ。目立たないように、この部屋に来てくださるように私がお頼みしました。」


「ああ、それで、今晩人払いをされて、このような部屋を用意されたのですか。」


「そうです。」


 そういうと、リーア姫はリョウを指した。


 リョウはローソクのぼんやりした明りに照らされて、どうかぼろが出ませんようにと祈る思いだった。僧服の着方がこれであっているのかどうか、さっぱりわからない。


「おお、本当に。」


 とは言いながら老女はマスク姿の僧形に不信感と不安を募らせたらしかった。


「久方ぶりにお邪魔する。」


 リョウはリーア姫に促されてしゃべった。


「証拠のライカ将軍のお形見のメダルを見せていただきました。いそいでプレショーンを呼んできてください。」


「は、はい。」


 リーア姫はアメリーのそばによると、小声でささやいた。


「プレショーンなら、本当にジェルナン殿かどうか確認できます。」


 老女は、はっとした様子で強くうなずくと、チラとリョウに視線を向けてから大急ぎで部屋から出て行った。


 リョウは不安な気持ちになった。



 プレショーンは、頭の禿げていない部分は白髪になっている背の低い男だった。


 リーア姫の説明を聞くと、彼はリョウをじっと見つめた。


「アメリー殿、部屋を出て行ってもらえまいか?」


 リョウはプレショーンの言葉にどきどきした。この男は、どこまで知っているのだろう。


「さあ、それでは、マスクを外してもらえますか。」


 リョウはリーア姫の顔を見た。姫はうなずいた。リョウは黙って、マスクを取った。


 プレショーンは、ローソクを手に持って、リョウににじり寄った。


 面映くても、リョウは我慢して、絡みつくような視線を平静に受け流した。


 暗い部屋を、プレショーンはローソク片手にリョウを右から左からくるくると回って顔を確認した。



「よろしい。上等。」


 プレショーンは遂に言った。


 ニヤリと笑っていた。


 リョウはどきりとした。


「まあ、何とかなるでしょう。」


「北部チューリンの僧院の手紙の用紙と、ライカ殿のお形見のメダルがあります。」


「それは結構。」


「僧服で戦わせましょう。」


「良い考えです。」


「マスクは必須です。ラセル殿とリップヘン殿に顔が割れているので。」


「しかたない。高位の貴族同士は顔を知っているものだ。貴公はヴェヴェイ殿とまた従兄弟に当たられる血筋ゆえ、致し方なかろう。」


 この男がどこまで知っているのか、リョウは不安になってきた。


「さて、ジェルナン殿、それではリーア姫様を一緒にお守りいたしましょうぞ。」


「はい。」


 これだけは、同意できた。


 プレショーンは、ローソクを机に置くと、リョウにマスクをつけるよう身振りで促すと、ドアを開けてアメリーを中に入れた。アメリーは、プレショーンの顔を疑り深そうに見た。



「なんと言う奇跡。あのジェルナン殿がリーア様の危機にきてくださった。よきおもてなしをするように。」


 プレショーンの声は、興奮を抑えきれぬといった調子だった。


「父上より母上にお似ましになってらっしゃるようじゃ。それにしてもなんと喜ばしいことじゃ。」


 プレショーンは、感謝に耐えないと言ったように、ジェルナン殿に向かって深く礼をした。


「それでは失礼いたします、ライカ様。」


 プレショーンは、アメリーと一緒に部屋を出て行った。ドアが閉まってから、何を言っているのかわからないながら、非常に興奮しているアメリーの声が聞こえてきた。



「うまくいったこと。」


 ひっそりとリーア姫が言った。


「リーア姫様、私、ずっとこんな事を続けるのでしょうか?」


「そう。とりあえず、明日はプレショーンの使いが戻ってくる。傭兵の長、ガゼルが返事をよこす。」


「なにを言ってやったのですか?」


「私に仕えないかと。」


「乗ってくるのでしょうか?」


「十中八九。」


「大丈夫でしょうか?」


「大丈夫よ。高額の礼金の約束と、仕えて名誉になっても恥にはならないと誓ってあるから。」


「そりゃあ、リーア姫様にお仕えして恥にはならないでしょうが……」


「違います。彼のように身分の低い傭兵の長が、わたくしのような女性に直接仕えるなんてことはありえないわ。あなたに仕えるのです。」


「わ、わたし?」


「そうですとも。そのためにジェルナン・ライカの名前を用意したのです。ライカ相手では、ガゼルでは歯が立たない。貴族の格が違う。だが、どうせ僧院上がりのだめな男と見くびって、実力で勝とうとしてきます。そこで、あなたが勝てるかどうか。」


「リ、リーア様……。」


「ガゼルは、まだあなたがいることを知らない。うまくいけば、女一人、なんとでもちょろまかせると考えて喜んでやってくるわ。なんとかして私と結婚すれば、マノカイが手に入る。どんな妨害があっても、忠誠を誓うと叫んで必ずやってくる。わたくしは兵力がほしい。でも、ガゼルのような手合いを呼んで身近に置くのは危険すぎる。誰か、信用できる高い身分のものがほしかった。でも、リップヘンがいて、マノカイの国内ではこわくて誰も名乗りを上げてこない。」


 リョウは呆然とした。


「この役をする者がいなかった。リンゲルバルトを買収したいくらいだった。リョウの評判を聞いて、あなたなら出来そうだと考えたが、あいにくあなたは死んでしまっていた。それにあなたは貴族ではない。でも、生き返ってきたのを見て、ジェルナンを使うことを思いついたのよ。あなたが生き返ってきたなら、ジェルナンだって生き返ってきていいはずだわ。」


 思いついたんですね? 間違いなく、今日の思い付きですね? この変装劇。これ、本当にうまくいくのだろうか。


「し、しかし、ガゼル殿に勝てるかどうかは……」


「わたくしにも、それはわかりません。あなた次第。だめな場合は、別の人物を使うことを考えます。」


 なんて厳しいんだ。なんてあつかましいんだ。


 思わずリョウは口元から微笑がもれた。

 それに気づいた姫がつられてほんのりと微笑み返した。


「ほら、なぜ笑う?」


「いえ、たくましい姫君だと思って。」


「わたくしよりもたくましい武官でないと意味がありません。リョウ、あなたはどこまで自信家なの?こんな話聞いて笑うなんて。」


 リョウは、頭を下げた。彼は、僧服とマスクをつけたまま、リーア姫が呼んだアメリーの丁重な案内に従い引き取った。

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