第36話 マスクの騎士になれですと?ムリ
「それに兵士はどこから集めるのですか?」
「さしあたっては、傭兵を使おうかと思っています。」
「はい?」
リョウはリーア姫が正気かどうか疑った。よく訓練された傭兵の一団が、一朝一夕で手に入るわけがない。彼らは、金さえ出せば言うことを聞く連中ではない。ちゃんと傭兵隊長と言う人物が存在していて、その人物が彼らを育て上げ、プロの戦闘集団として稼いでいるのだ。
「そのほかにもリップヘン殿もお願いしようと思っています。」
「え。」
「今、目の前に来ているはずです。何しろ、リンゲルバルト殿が軍を進めている。リップヘン殿が手をこまねいているはずがない。」
「いやいや、リンゲルバルト殿がここに来ていることは、あなたは知っていても、マノカイのリップヘン殿が知っているはずがないでしょう。」
「ご心配なく。私が知らせました。」
「なんてことを。」
リョウは絶句した。
「なにしろ、このままラセル殿の手の中に落ちこむわけには行かない。助けて欲しいといえば、リップヘン殿は必ずやってくる。でも、リップヘン殿一人に助けられるわけにも行かない。対抗馬が必要なのです。リップヘン殿の単独の軍でさえなければ、リップヘン殿と同等に近い身分の者が一人でもいれば、リップヘン殿の思い通りにならなくて済む。」
「しかし、傭兵たちをあなたが雇うとしても、彼らをどうやって集めるおつもりなのですか?」
「兵の中には子飼いもいる。もとライカ殿の軍だったのだ。この建物の中にもライカ殿のもとの部下たちが私の護衛として仕えている。その者たちが連絡係なのです。」
「彼らは、ジェルナン殿が亡くなったことを知っているのではありませんか?」
「知っている。」
「それじゃあダメじゃないですか。」
「大丈夫。」
リーア姫は言った。
「修道院を抜け出してきたと言うのです。死んだことにして、ここへきたと言いなさい。」
「え? 私? 私が言うんですか?」
「そう。ジェルナン殿がちょうどリョウくらいの年回りで、黒髪の男であることはみんな知っている。父君も黒髪だったから。だが、誰も顔を知らないのだ。」
「………。」
「ジェルナン殿が親のことを知らなくても、誰も何とも思わない。なぜならライカ将軍が亡くなったとき、ジェルナン殿はまだとても小さかったし、母親のリーア様はご病気でほとんど顔を合わせたこともなかったはず。だから大丈夫。」
「………。」
「さあ、これを渡しておきましょう。証拠の品です。ジェルナン・ライカ・ジュニアが亡くなられたときに、形見としてわたくし宛てに送られてきたのです。」
リーア姫は傍らのテーブルから、小さな箱を取り上げ、中のものをリョウに渡した。
「これはなんですか?」
「ライカ将軍の家に代々伝わるメダルです。これをしておけば、あなたがジェルナンと名乗っても誰も疑わない。」
リョウはずっしりした、銀製の重いメダルを見た。模様と文字らしい言葉が刻まれており、見たところスピネルのような宝石がいくつか嵌め込まれていた。よく中世の映画で貴族たちが首からぶら下げている大きいメダルだった。
「さあ、それを今すぐつけて。そして、今後は顔を隠して人前に出るように。マスクがいるわ。いまから、プレショーンを呼ぶから。」
「プレショーンって誰ですか?」
「もとのライカ将軍の部下です。その後、わたくし達一家のお付きをしていました。」
「今から?」
リョウは、私、その役を演るとはまだ一言も言ってないんですが……と言いかけた……が、リーア姫は、もう呼び鈴を鳴らして侍女を呼びだしていた。
「さあ、ここに僧服がある。大急ぎで着替えて。靴もみんな替えるのです。早く。そしてこのマスクもつけて。」
遠くから誰かが急いでやってくる足音がする。




