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東渡りのジグ人 ~ある意味女難の相がある男の物語~ お前は予知の力を持つ悪魔の使い  作者: buchi
第3章  ジェルナン・ライカ殿

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第38話 尼僧院は兵士であふれかえる

 次の日はからりと晴れた快晴だった。そして、尼僧院は昨日までの半分死んだような退屈な場所ではなくなっていた。


 ガゼル殿は朝早く到着した。


 しかし、尼僧院内はガゼル殿の到着よりもジェルナン殿の到着の話題で持ちきりだった。ガゼル殿も到着早々、侍女たちからその話を聞かされた。


「え?ライカ将軍のご子息が?」


「ええ、そうなんでございます。夕べ、姫君の下に到着なさいました。北部チューリンの僧院から駆けつけてくださったのです」


「ご子息は、ずっと僧院におられたのですか?」


「はい。そう伺っております。姫君様の危難を聞いて、おいでくださったのです」


 アメリーや、その他の侍女達はひどくうれしそうで、嬉々としていた。


「そのうえ、このたびはガゼル様まで姫様の下にお越しくださり、こんなに心強いことはありません」


「危難といわれるが、別に命に不安があるわけでもあるまい」


「まあ、とんでもないことをおおせられます。姫様に危害を加えられるなんて。それよりも奥様がおられるのに結婚のお申し込みのあるラセル陛下や、凶暴なリップヘン殿などからのご結婚のお申し込みを姫様はお嫌がりになっていらっしゃるのです。」


 ガゼルはニヤリと笑った。


「なるほどね」


 ガゼル殿は、あまり背の高くない、どちらかといえば太りじしの男だった。年頃はラセルくらいで、父親がライカ将軍の下に仕えてきた関係で、いまだプレショーンと交流があった。


「では、姫君にお目にかかるとしますかな」


「こちらへどうぞ。あとでジェルナン殿もお見えになります」


「では、その貴公子にもお目にかかるとしますかな?まだお若いのでしょう?」


「はい、姫様よりも5つ6つ年上と言うところでしょうか」


「そう。ずいぶんな美男子とお聞きしたことがあるが」


 ガゼル殿はカマをかけてみた。


「さあ、それは。わかりません。よい声をしていらっしゃいますけれど」


 ガゼルはうなずいた。器量のほどについて侍女が言葉を濁したところを見ると、おそらく、ジェルナン殿は男前ではないのだろう。


 案内された部屋には、姫君とプレショーンが待ち受けていた。


「これは、これは、ガゼル殿。ようこそおいで下された」


 声をかけたのはプレショーンで、愛想のよいプレショーンの傍らに立っていたのは、うら若い、とても美しい姫君で、さすがのガゼル殿もこの姿にはちょっと驚いた様子だった。


「不躾ながら、噂で承知はしておりましたが、これほどまでにお美しい姫君様とは……」


「姫君はお美しいので我々にとっての驚きですが、外見という問題につきましては、これからもっと驚くことがありましてな。今からジェルナン殿をご紹介申し上げるが、あいにくジェルナン殿はマスクをされていてな」


 プレショーンがガゼルに向かって言った。


「はて。なぜ、そのようなことに」


 ガゼル殿は驚いて思わず聞いた。


「理由はお聞きしないほうがよいようじゃ。これからご一緒させていただく以上、あまり外見についての話はしないほうがよろしいようなので、先に申し上げておきまする」


 ガゼル殿は黙って了解したと言った様子を示したが、実際の所は好奇心でいっぱいのようだった。


 侍女に案内されて、リョウはガゼル殿の前に姿を現した。


 ゆったりした僧服を身に着けたジェルナン殿があらわれた。非常に目立つことに、彼はマスクをつけていた。


「ご紹介いたしましょう。こちらガゼル殿。傭兵隊長で、武勇で有名な方です。そしてこちらが、ジェルナン・ライカ殿。同名の父君のことはご存知と思います」


「お初にお目にかかります」


 ガゼル殿はそう挨拶して、ジェルナン殿の顔を見た。目鼻の形は普通のようで、マスクに隠されていない部分には傷も異常も見つけられなかった。


「ジェルナン・ライカです。父君のハル・ガゼル殿のことは聞いたことがあります」


 はっとするような低い声だった。


「すばらしいお声の持ち主ですな」


「声が良くても、どうにもなりませぬ」


 ジェルナン殿は笑った。


「今、必要なのは軍事力ですから。ガゼル殿には期待しておりまする。できれば、わたくしにもガゼル殿のご武勇をお教えいただきたいものです。なにせ僧院で少々手習いした程度でございます。姫君をお守りいたさねばの一心で僧院から出てまいりました」


 すらすらとしゃべるところを見ると、そうバカではないようだ。とても育ちがいい事は一目でわかった。おそらく本人は無意識なのだろうが、きわめて礼儀正しく優雅な挙措だった。僧服は流行おくれで、おかしいくらいである。たいしてものの役には立つまい。ガゼルは内心計算した。


「まずは、リンゲルバルト殿の軍勢がこのそばまで来ているようで……」


「え?」


 ガゼル殿は驚いた。


「はい。今しがた、姫君のお付きの兵からそのように聞きました」


「リンゲルバルト殿の軍は、規模はいかほど?」


「わかりませぬ」


 のんきそうにジェルナン殿は笑った。


「ところでガゼル殿の軍はいかほどの人数がおられますか?」


「約100名ほど」


「では、尼僧院内に住居を準備いたしましょう」


 プレショーンが答えた。


「ガゼル殿、わたくしめもご案内くださりませ。兵士の皆様にお目にかかりとうござる」


 ジェルナン殿がのんきそうに言い出した。


 ガゼル殿は、横目で、このばかばかしい提案をにらみつけた。兵士にお目にかかるなどとなんと言う言い草だ。兵士は殴るか、金や酒を与えて戦場に送り込むかしか使い道はないのだ。甘やかしてどうする。これだから温室育ちの貴族のぼんぼんは困る。身分ばかりを鼻に掛け、トンチンカンなことを言い出してこちらの仕事を邪魔するのだ。ガゼル殿は内心そう考えて不愉快だった。


 だが、姫君の手前、ジェルナン殿を引き連れて、ガゼル殿はにこやかに退出した。


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