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王の愚者  作者: クロワ
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99/106

99話「多数決」

東部評議会。


一人の評議員が。


手を挙げる。


「陛下」


「一つ」


「提案があります」


王。


「なんだ?」


「これから」


「東部の重要なことは」


「住民の投票で」


「決めては」


「いかがでしょう」


「投票?」


「はい」


「一人一票」


「身分も」


「財産も」


「関係ありません」


「最も多くの者が」


「望んだものを」


「選ぶ」


「公平かと」


◇


王が。


少し考える。


「なるほど」


「一人一票か」


「確かに」


「それなら」


「公平だな」


「民が」


「自分たちで」


「決める」


「悪くない」


「やってみよう」


ジョーカー。


「私も」


「一票いただけるので?」


「もちろんです」


「では」


「陛下と私が」


「同じ一票」


「ええ」


ジョーカーが。


王を見る。


「出世しましたね」


王。


「余が」


「下がったのではないか?」


◇


最初の投票。


新しい学校を。


どこに作るか。


候補は。


人口の多い中心街。


人口の少ない農村部。


◇


結果。


中心街。


七百二十一票。


農村部。


二百四十三票。


「よって」


「中心街に」


「決定します!」


歓声。


◇


次。


新しい診療所。


中心街。


◇


次。


新しい乗合馬車の路線。


また。


中心街。


◇


王。


「…………」


「全部」


「中心街ではないか」


評議員。


「人口が」


「最も多いですから」


「最も多くの民が」


「望む場所に」


「作られております」


ジョーカー。


「なるほど」


「人の多い場所には」


「学校も」


「医者も」


「馬車も集まる」


「そうすれば」


「さらに人が」


「集まりそうですね」


王。


「…………」


「人の少ない場所は?」


「より」


「少なくなるかと」


◇


数日後。


評議会の前。


農村の住民たちが。


押しかけていた。


「ふざけるな!!」


「学校も!」


「診療所も!」


「馬車も!」


「全部!」


「町じゃねえか!!」


役人。


「ですが」


「皆様にも」


「同じ一票が」


「与えられております」


農民。


「俺たちの村は」


「百人しか」


「いねえんだぞ!」


「町には」


「千人いる!」


「何回やったって」


「勝てるわけ」


「ねえだろ!!」


◇


評議員。


「では」


「百人の村と」


「千人の町に」


「同じ票数を」


「与えるのですか?」


「それでは」


「一票の重さが」


「変わります」


「それこそ」


「不平等では?」


「…………」


◇


ジョーカー。


「困りましたね」


「同じにすれば」


「不公平」


「変えれば」


「不平等」


王。


「嬉しそうだな」


「大好物ですので」


◇


王。


「同じ一票なら」


「公平だと」


「思っていたが……」


ジョーカー。


「ええ」


「皆様」


「平等に」


「負ける機会を」


「与えられております」


「…………」


◇


そんな中。


別の問題が。


持ち上がる。


◇


人口の増えた。


東部中心街。


大量のゴミ。


悪臭。


虫。


汚れた水。


◇


役人。


「このままでは」


「病が広がる」


「恐れがあります」


「廃棄物を集め」


「処理する場所が」


「必要です」


評議員。


「では」


「これも」


「投票で」


「決めましょう」


◇


候補地は。


中心街から離れた。


人口の少ない地域。


◇


賛成。


八百四十六。


反対。


百五十八。


◇


「圧倒的多数で」


「建設に決定します!」


◇


中心街。


「当然だろ」


「早く」


「作ってくれ」


「町中」


「臭くてかなわん」


◇


候補地。


「ふざけるな!!」


「絶対反対だ!!」


「町で出したゴミを!」


「俺たちのところに」


「持ってくるのか!!」


◇


評議員。


「しかし」


「東部全体では」


「八割以上が」


「賛成しています」


男。


「当たり前だろ!!」


「臭え思いするのは」


「俺たちなんだから!!」


◇


別の農民。


「学校も!」


「診療所も!」


「便利なものは」


「全部町!」


「ゴミだけ」


「こっちかよ!!」


◇


ジョーカー。


「実に」


「効率的ですね」


王。


「何がだ」


「欲しいものは」


「人数の多い方へ」


「いらないものは」


「人数の少ない方へ」


「多数決を使えば」


「どちらも」


「綺麗に決まります」


王。


「…………」


「綺麗ではないな」


「数字だけは」


「大変綺麗ですよ」


◇


中心街の男。


「でも」


「必要なんだろ?」


「一部の反対だけで」


「町全体を」


「困らせるのかよ」


農民。


「だったら」


「お前の家の近くに」


「作れ!!」


「それは……」


「…………」


「他に」


「いい場所が」


「あるだろ」


◇


ジョーカー。


「おや」


「たった今」


「少数派に」


「なられましたね」


「うるせえ!」


◇


ジョーカー。


「皆様」


「処理場には」


「賛成」


「建設場所には」


「反対」


「これなら」


「全会一致ですね」


王。


「何も」


「決まっておらん」


◇


評議員。


「陛下」


「すでに」


「民が決めたことです」


王。


「いや」


「待て」


◇


「一度」


「調べる」


「水源」


「風向き」


「人家との距離」


「運搬距離」


「土地」


「他に」


「適した場所がないか」


「全てだ」


◇


数日後。


ダイヤが。


地図を広げる。


「結果ですが」


「最初の候補地が」


「最も適しています」


王。


「そうか」


ジョーカー。


「投票と」


「同じ結果に」


「なりましたね」


王。


「ああ」


「では」


「投票だけで」


「よかったのでは?」


王が。


ジョーカーを見る。


「冗談です」


◇


再び。


評議会。


王。


「処理場は」


「この地域に」


「建てる」


「ふざけんな!!」


「結局!」


「多数派の」


「言う通りじゃねえか!!」


王。


「違う」


「多数が」


「望んだからではない」


「調べた上で」


「ここが」


「最も適していると」


「余が判断した」


◇


男。


「だったら!」


「俺たちだけが」


「損することには」


「変わらねえだろ!!」


王。


「ああ」


「だから」


「それも」


「変える」


◇


ダイヤ。


「他地域から」


「運ばれる廃棄物には」


「処理費を」


「設けます」


「その一部を」


「この地域へ」


「還元します」


「道路」


「水路」


「診療所」


「何に使うかは」


「地域の者と」


「相談して決めます」


◇


王。


「町中が」


「ここを使う」


「ならば」


「町中で」


「負担する」


◇


男。


「金を払えば」


「臭くても」


「我慢しろってのか?」


王。


「違う」


「臭いも」


「汚水も」


「可能な限り」


「出さぬようにする」


「金で」


「黙らせるのではない」


「お前たちが」


「引き受ける負担を」


「他の地域も」


「引き受ける」


◇


ジョーカー。


「ゴミは」


「こちらへ」


「お金は」


「あちらから」


「ようやく」


「一方通行では」


「なくなりましたね」


◇


一人の農民。


「俺は」


「それでも」


「反対だからな」


王。


「ああ」


「反対していてよい」


「…………?」


「余が」


「決めたからといって」


「お前まで」


「賛成する必要はない」


◇


ジョーカー。


「ご安心を」


「国の決定に」


「納得できなくても」


「国民では」


「いられるそうです」


王。


「当たり前だ」


「昔は」


「そうでもない国も」


「多かったもので」


◇


帰り。


中心街。


役人。


「なお」


「廃棄物の量に応じ」


「各地域から」


「処理費を徴収します」


中心街の男。


「は?」


「なんで」


「俺たちが」


「一番多く」


「払うんだよ!」


◇


農村の男。


「人数が」


「多いんだから」


「当然だろ?」


「…………」


◇


ジョーカー。


「人口が多いことが」


「急に」


「不利になりましたね」


王。


「人の意見とは」


「ここまで」


「変わるものか?」


「意見が」


「変わったのでは」


「ございません」


「立場が」


「変わったのでしょう」


◇


王と。


ジョーカー。


◇


王。


「多数派だから」


「正しいとは」


「限らん」


「はい」


「少数派だから」


「正しいとも」


「限らん」


「はい」


「同じ者でも」


「立場が変われば」


「意見も変わる」


◇


ジョーカー。


「誰しも」


「民のためを」


「思っております」


王。


「そうなのか?」


「ええ」


「自分も」


「民の一人ですので」


「…………」


◇


王。


「なら」


「正解など」


「ないのかもしれんな」


ジョーカー。


「困りましたね」


「多数決なら」


「正解の数まで」


「数えられると」


「思ったのですが」


◇


「では」


「どうやって」


「決めるのです?」


王。


「分からん」


「だから」


「聞く」


「調べる」


「考える」


「それでも」


「最後は」


「決める」


◇


ジョーカー。


「間違っていたら?」


王。


「直す」


◇


「また」


「反対されたら?」


「また聞く」


「また」


「意見が変わったら?」


「また考える」


◇


ジョーカーが。


笑う。


「王様」


「多数決に」


「戻しませんか?」


王。


「嫌だ」


「楽ですよ?」


「余が」


「楽をするために」


「国があるのではない」


◇


ジョーカー。


「それは」


「残念です」


「一番」


「王様らしくない方法が」


「一番」


「王様を楽にしてくれそうでしたのに」

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