99話「多数決」
東部評議会。
一人の評議員が。
手を挙げる。
「陛下」
「一つ」
「提案があります」
王。
「なんだ?」
「これから」
「東部の重要なことは」
「住民の投票で」
「決めては」
「いかがでしょう」
「投票?」
「はい」
「一人一票」
「身分も」
「財産も」
「関係ありません」
「最も多くの者が」
「望んだものを」
「選ぶ」
「公平かと」
◇
王が。
少し考える。
「なるほど」
「一人一票か」
「確かに」
「それなら」
「公平だな」
「民が」
「自分たちで」
「決める」
「悪くない」
「やってみよう」
ジョーカー。
「私も」
「一票いただけるので?」
「もちろんです」
「では」
「陛下と私が」
「同じ一票」
「ええ」
ジョーカーが。
王を見る。
「出世しましたね」
王。
「余が」
「下がったのではないか?」
◇
最初の投票。
新しい学校を。
どこに作るか。
候補は。
人口の多い中心街。
人口の少ない農村部。
◇
結果。
中心街。
七百二十一票。
農村部。
二百四十三票。
「よって」
「中心街に」
「決定します!」
歓声。
◇
次。
新しい診療所。
中心街。
◇
次。
新しい乗合馬車の路線。
また。
中心街。
◇
王。
「…………」
「全部」
「中心街ではないか」
評議員。
「人口が」
「最も多いですから」
「最も多くの民が」
「望む場所に」
「作られております」
ジョーカー。
「なるほど」
「人の多い場所には」
「学校も」
「医者も」
「馬車も集まる」
「そうすれば」
「さらに人が」
「集まりそうですね」
王。
「…………」
「人の少ない場所は?」
「より」
「少なくなるかと」
◇
数日後。
評議会の前。
農村の住民たちが。
押しかけていた。
「ふざけるな!!」
「学校も!」
「診療所も!」
「馬車も!」
「全部!」
「町じゃねえか!!」
役人。
「ですが」
「皆様にも」
「同じ一票が」
「与えられております」
農民。
「俺たちの村は」
「百人しか」
「いねえんだぞ!」
「町には」
「千人いる!」
「何回やったって」
「勝てるわけ」
「ねえだろ!!」
◇
評議員。
「では」
「百人の村と」
「千人の町に」
「同じ票数を」
「与えるのですか?」
「それでは」
「一票の重さが」
「変わります」
「それこそ」
「不平等では?」
「…………」
◇
ジョーカー。
「困りましたね」
「同じにすれば」
「不公平」
「変えれば」
「不平等」
王。
「嬉しそうだな」
「大好物ですので」
◇
王。
「同じ一票なら」
「公平だと」
「思っていたが……」
ジョーカー。
「ええ」
「皆様」
「平等に」
「負ける機会を」
「与えられております」
「…………」
◇
そんな中。
別の問題が。
持ち上がる。
◇
人口の増えた。
東部中心街。
大量のゴミ。
悪臭。
虫。
汚れた水。
◇
役人。
「このままでは」
「病が広がる」
「恐れがあります」
「廃棄物を集め」
「処理する場所が」
「必要です」
評議員。
「では」
「これも」
「投票で」
「決めましょう」
◇
候補地は。
中心街から離れた。
人口の少ない地域。
◇
賛成。
八百四十六。
反対。
百五十八。
◇
「圧倒的多数で」
「建設に決定します!」
◇
中心街。
「当然だろ」
「早く」
「作ってくれ」
「町中」
「臭くてかなわん」
◇
候補地。
「ふざけるな!!」
「絶対反対だ!!」
「町で出したゴミを!」
「俺たちのところに」
「持ってくるのか!!」
◇
評議員。
「しかし」
「東部全体では」
「八割以上が」
「賛成しています」
男。
「当たり前だろ!!」
「臭え思いするのは」
「俺たちなんだから!!」
◇
別の農民。
「学校も!」
「診療所も!」
「便利なものは」
「全部町!」
「ゴミだけ」
「こっちかよ!!」
◇
ジョーカー。
「実に」
「効率的ですね」
王。
「何がだ」
「欲しいものは」
「人数の多い方へ」
「いらないものは」
「人数の少ない方へ」
「多数決を使えば」
「どちらも」
「綺麗に決まります」
王。
「…………」
「綺麗ではないな」
「数字だけは」
「大変綺麗ですよ」
◇
中心街の男。
「でも」
「必要なんだろ?」
「一部の反対だけで」
「町全体を」
「困らせるのかよ」
農民。
「だったら」
「お前の家の近くに」
「作れ!!」
「それは……」
「…………」
「他に」
「いい場所が」
「あるだろ」
◇
ジョーカー。
「おや」
「たった今」
「少数派に」
「なられましたね」
「うるせえ!」
◇
ジョーカー。
「皆様」
「処理場には」
「賛成」
「建設場所には」
「反対」
「これなら」
「全会一致ですね」
王。
「何も」
「決まっておらん」
◇
評議員。
「陛下」
「すでに」
「民が決めたことです」
王。
「いや」
「待て」
◇
「一度」
「調べる」
「水源」
「風向き」
「人家との距離」
「運搬距離」
「土地」
「他に」
「適した場所がないか」
「全てだ」
◇
数日後。
ダイヤが。
地図を広げる。
「結果ですが」
「最初の候補地が」
「最も適しています」
王。
「そうか」
ジョーカー。
「投票と」
「同じ結果に」
「なりましたね」
王。
「ああ」
「では」
「投票だけで」
「よかったのでは?」
王が。
ジョーカーを見る。
「冗談です」
◇
再び。
評議会。
王。
「処理場は」
「この地域に」
「建てる」
「ふざけんな!!」
「結局!」
「多数派の」
「言う通りじゃねえか!!」
王。
「違う」
「多数が」
「望んだからではない」
「調べた上で」
「ここが」
「最も適していると」
「余が判断した」
◇
男。
「だったら!」
「俺たちだけが」
「損することには」
「変わらねえだろ!!」
王。
「ああ」
「だから」
「それも」
「変える」
◇
ダイヤ。
「他地域から」
「運ばれる廃棄物には」
「処理費を」
「設けます」
「その一部を」
「この地域へ」
「還元します」
「道路」
「水路」
「診療所」
「何に使うかは」
「地域の者と」
「相談して決めます」
◇
王。
「町中が」
「ここを使う」
「ならば」
「町中で」
「負担する」
◇
男。
「金を払えば」
「臭くても」
「我慢しろってのか?」
王。
「違う」
「臭いも」
「汚水も」
「可能な限り」
「出さぬようにする」
「金で」
「黙らせるのではない」
「お前たちが」
「引き受ける負担を」
「他の地域も」
「引き受ける」
◇
ジョーカー。
「ゴミは」
「こちらへ」
「お金は」
「あちらから」
「ようやく」
「一方通行では」
「なくなりましたね」
◇
一人の農民。
「俺は」
「それでも」
「反対だからな」
王。
「ああ」
「反対していてよい」
「…………?」
「余が」
「決めたからといって」
「お前まで」
「賛成する必要はない」
◇
ジョーカー。
「ご安心を」
「国の決定に」
「納得できなくても」
「国民では」
「いられるそうです」
王。
「当たり前だ」
「昔は」
「そうでもない国も」
「多かったもので」
◇
帰り。
中心街。
役人。
「なお」
「廃棄物の量に応じ」
「各地域から」
「処理費を徴収します」
中心街の男。
「は?」
「なんで」
「俺たちが」
「一番多く」
「払うんだよ!」
◇
農村の男。
「人数が」
「多いんだから」
「当然だろ?」
「…………」
◇
ジョーカー。
「人口が多いことが」
「急に」
「不利になりましたね」
王。
「人の意見とは」
「ここまで」
「変わるものか?」
「意見が」
「変わったのでは」
「ございません」
「立場が」
「変わったのでしょう」
◇
王と。
ジョーカー。
◇
王。
「多数派だから」
「正しいとは」
「限らん」
「はい」
「少数派だから」
「正しいとも」
「限らん」
「はい」
「同じ者でも」
「立場が変われば」
「意見も変わる」
◇
ジョーカー。
「誰しも」
「民のためを」
「思っております」
王。
「そうなのか?」
「ええ」
「自分も」
「民の一人ですので」
「…………」
◇
王。
「なら」
「正解など」
「ないのかもしれんな」
ジョーカー。
「困りましたね」
「多数決なら」
「正解の数まで」
「数えられると」
「思ったのですが」
◇
「では」
「どうやって」
「決めるのです?」
王。
「分からん」
「だから」
「聞く」
「調べる」
「考える」
「それでも」
「最後は」
「決める」
◇
ジョーカー。
「間違っていたら?」
王。
「直す」
◇
「また」
「反対されたら?」
「また聞く」
「また」
「意見が変わったら?」
「また考える」
◇
ジョーカーが。
笑う。
「王様」
「多数決に」
「戻しませんか?」
王。
「嫌だ」
「楽ですよ?」
「余が」
「楽をするために」
「国があるのではない」
◇
ジョーカー。
「それは」
「残念です」
「一番」
「王様らしくない方法が」
「一番」
「王様を楽にしてくれそうでしたのに」




