98話「将来の夢」
東部。
職を求める者たちが。
役所に。
集まっていた。
◇
「何が」
「したいですか?」
「…………」
「分かりません」
「得意なことは?」
「…………」
「それも」
「分かりません」
◇
次の男。
「希望する仕事は?」
「何でも」
「何でも?」
「働いたことが」
「鉱山しか」
「ないので」
「他の仕事が」
「分かりません」
◇
次。
若い女。
「やりたい仕事は?」
「…………」
「それを」
「探しに来ました」
◇
少し離れたところで。
王が。
その様子を見ていた。
「随分と」
「分からない者が」
「多いのだな」
役人が。
頷く。
「元奴隷だけでは」
「ありません」
「若い者も」
「似たようなものです」
「仕事が増えた分」
「何を選べばいいのか」
「分からないと」
◇
壁には。
いくつもの求人。
農業。
鉱山。
建築。
鍛冶。
商店。
宿。
運送。
役所。
一人の男が。
紙を見つめている。
「これは?」
「商店ですね」
「…………」
「なんて」
「書いてある?」
「読めないのですか?」
「習ったこと」
「ないから」
◇
王が。
黙る。
◇
数日後。
ダイヤが。
書類を広げる。
「まず」
「学校ですね」
「子供だけでは」
「ありません」
「大人にも」
「読み書き」
「計算」
「必要なら」
「仕事の技術も」
「学べる場所を」
王が。
頷く。
「知らなければ」
「選ぶことも」
「できんからな」
◇
やがて。
東部に。
学びの場が。
作られた。
子供も。
大人も。
同じように。
文字を書く。
数字を覚える。
道具の使い方を。
教わる。
◇
だが。
「で」
「何になりたい?」
「…………」
「分かりません」
「…………」
王。
「まだか」
◇
別の若者。
「鍛冶に」
「興味はあります」
「では」
「鍛冶師を目指すか?」
「いや……」
「向いてるか」
「分からないので」
◇
別の女。
「商売も」
「面白そうです」
「では商人に?」
「やったこと」
「ないですし……」
◇
王が。
腕を組む。
「学んでも」
「分からんのか」
ダイヤ。
「当然では?」
「?」
「陛下は」
「剣術書を読めば」
「自分が剣士に向いているか」
「分かりますか?」
「…………」
「分からんな」
◇
ジョーカーが。
求人を見る。
「したいのか」
「向いているのか」
「できるのか」
「働く前に」
「全て分かれば」
「苦労はしませんね」
王。
「…………」
「なら」
「働く前に」
「やらせてみれば」
「よいのではないか?」
◇
町の仕事場に。
新しい札が。
並び始める。
――職業体験。
子供にも大人にも。
農場。
鍛冶場。
商店。
宿。
建築現場。
運送。
鉱山。
役所。
王国軍。
◇
鍛冶場。
「俺」
「昔から」
「鍛冶師って」
「格好いいと」
「思ってたんです」
◇
しばらくして。
「どうだった?」
「…………」
「暑い」
「はい」
「うるさい」
「はい」
「腕痛い」
「はい」
「…………」
「違いました」
◇
商店。
元奴隷の男が。
客へ。
商品を渡す。
「ありがとう」
客が。
去っていく。
男が。
少し笑う。
「俺」
「人と話すの」
「嫌いじゃ」
「なかったんだな」
◇
農場。
若い女が。
土まみれで。
立っている。
「どうでした?」
「…………」
「明日は」
「建築に」
「行ってみます」
「農業は?」
「違いました」
「そうですか」
「はい」
それだけだった。
◇
王が。
その様子を見る。
「一度」
「選んだものを」
「やめても」
「よいのだな」
ジョーカー。
「奴隷では」
「ございませんので」
「…………」
王が。
少し笑う。
「そうだったな」
◇
夕暮れ。
町外れ。
少年たちが。
歩いている。
「お前」
「何になる?」
「知らねえ」
「俺も」
「とりあえず」
「色々やってみる」
「俺もかな」
◇
一人の少年が。
胸を張る。
「俺は」
「決まってる!」
「何?」
「大将軍!」
「…………」
「スペード大将軍を」
「超えて!」
「王国最強の」
「大将軍になる!!」
◇
沈黙。
そして。
「ぶはっ!」
「お前が!?」
「無理無理!」
「剣だって」
「下手じゃん!」
「スペード大将軍だぞ!?」
少年。
「なる!!」
「無理だって!」
「なる!!」
「なんで」
「そんな自信」
「あるんだよ!」
「知らん!!」
「でも!」
「絶対なる!!」
◇
「はいはい」
「大将軍様」
「頑張ってくださーい」
「じゃあな!」
笑いながら。
少年たちは。
帰っていく。
◇
一人。
残された少年。
「…………」
小石を。
蹴る。
「絶対」
「なるもん」
◇
その横を。
二人の旅人が。
通りかかる。
一人は。
大剣を背負った。
大男。
もう一人は。
簡素な服の男。
◇
大男が。
立ち止まる。
「おい」
少年。
「?」
「お前」
「スペードを」
「超えるんだって?」
「…………」
少年が。
むっとする。
「なんだよ」
「おっちゃんも」
「笑うのかよ」
◇
「ガハハハハ!」
大男が。
豪快に笑う。
少年が。
俯く。
「ほら」
「やっぱり――」
「いいじゃねえか!」
「?」
大男が。
笑ったまま。
言う。
「どうせ目指すなら」
「一番上にしとけ!」
「…………」
少年が。
顔を上げる。
初めて。
少しだけ。
不安そうに。
「俺でも」
「なれるかな?」
大男は。
即答した。
「なれるぜ!」
「…………!」
「この世に」
「不可能ってことは」
「何一つ」
「ねえからな!!」
◇
少年の。
顔が。
一気に明るくなる。
「俺!」
「なる!!」
「絶対!」
「スペード大将軍を」
「超える!!」
「おう!」
「超えてこい!」
◇
大男が。
歩き出す。
少年。
「おっちゃん!」
「あ?」
「ありがとな!!」
大男は。
振り返らず。
手を上げる。
◇
二人が。
遠ざかる。
しばらくして。
簡素な服の男が。
口を開く。
「随分と」
「無責任なことを」
「言うんだな」
「いいんだよ」
大男が。
笑う。
「スペードのバカも」
「俺も」
「若ぇ頃は」
「同じようなこと言って」
「笑われてたなぁ」
「…………」
「スペードも?」
「ああ」
「王国最強の」
「将軍になるってよ」
「誰も」
「信じちゃ」
「いなかったけどな」
◇
男が。
少し笑う。
「そして」
「本当になった」
「だろ?」
大男が。
肩を揺らす。
「だから」
「ガキの大口なんざ」
「笑って終わりにするには」
「ちっと」
「早えんだよ」
◇
遠く。
少年が。
落ちていた枝を。
拾う。
剣のように。
構える。
「待ってろよー!!」
「スペード大将軍!!」
「絶対!」
「超えてやるからなー!!」
◇
二人の旅人は。
振り返らない。
ただ。
大男の笑い声だけが。
遠くまで。
響いていた。




