97話「住みたい町」
東部。
中心街。
人。
人。
人。
新しい店。
新しい宿。
新しい家。
通りには。
荷馬車が。
ひっきりなしに。
行き交っている。
◇
「最高ですよ!」
若い男が。
王に笑う。
「仕事は」
「選べるし」
「店も増えた」
「昔は」
「遊ぶところなんて」
「何もなかったから」
隣の女も。
頷く。
「王都まで」
「行かなくても」
「欲しい物が」
「買えるようになりました」
◇
王が。
町を見る。
「随分と」
「暮らしやすく」
「なったようだな」
「陛下!」
後ろから。
声。
「家賃を」
「どうにかしてください!」
「…………」
◇
「去年の」
「倍ですよ!」
「人が増えて」
「家が」
「足りないんです!」
別の老人も。
「夜まで」
「うるさい!」
「昔は」
「日が暮れたら」
「静かな町だった!」
若者が。
振り返る。
「それが」
「よかったんじゃん」
「夜でも」
「店が開いてるし」
老人が。
睨む。
「それが」
「うるさいと」
「言っとるんだ!」
「…………」
◇
ジョーカーが。
微笑む。
「同じ町でも」
「随分と」
「評価が」
「違うようですね」
◇
老人が。
町を眺める。
「便利には」
「なったんだろうな」
「若い奴らには」
「…………」
「でもな」
「便利になることと」
「住みやすくなることは」
「同じじゃないんだよ」
◇
若者が。
少し黙る。
そして。
「でも」
「昔が良かったって」
「じいさんたちは」
「言うけどさ」
「俺たちは」
「その昔の東部から」
「出ていくしか」
「なかったんだよ」
「仕事も」
「店も」
「何もなかったから」
◇
王が。
二人を見る。
どちらにも。
答えない。
◇
翌日。
東部。
中心街から。
離れた村。
「…………」
静かだった。
人通りも。
ほとんどない。
◇
老人が。
畑の前で。
王たちに笑う。
「いいところだろ」
「静かで」
「昔と」
「何も変わらん」
王が。
辺りを見る。
「落ち着いているな」
「そうだろ」
老人が。
嬉しそうに。
頷く。
◇
その時。
近くの店から。
男が。
看板を外している。
「何を」
「している?」
「店を」
「閉めるんです」
「なぜだ?」
「客が」
「いませんので」
「…………」
◇
少し先。
農家の男が。
一人で。
畑を耕している。
「息子は?」
「町へ」
「行きました」
「娘も?」
「町です」
男が。
笑う。
「二人とも」
「仕事が」
「見つかったそうです」
「それは」
「よかったな」
「ええ」
少し。
間が空く。
「よかったです」
◇
男が。
広い畑を見る。
「ただ」
「この畑」
「俺が」
「動けなくなったら」
「どうなるんでしょうね」
「…………」
◇
村の広場。
使われていない。
祭りの道具。
王が。
見る。
「祭りは?」
老人が。
笑う。
「今年は」
「やらんよ」
「若い奴が」
「足りん」
◇
ジョーカーが。
静かな村を見る。
「人が増えれば」
「増えすぎだと」
「怒られ」
「人が減れば」
「減りすぎだと」
「困られる」
「…………」
「陛下」
「国民の皆様を」
「均等に」
「並べてみては?」
「物ではない」
「やはり」
「駄目ですか」
◇
王都へ戻る。
馬車の中。
王が。
地図を見る。
中心街には。
人が集まる。
周辺の村からは。
人が減っている。
「若者に」
「村へ戻れと」
「命じることは」
「できん」
「当然です」
「どこで暮らすかも」
「本人の自由ですので」
◇
「だが」
「村に残りたい者まで」
「暮らせなくなるのは」
「違う」
ダイヤが。
地図を見る。
「では」
「人を戻すのではなく」
「距離を」
「縮めましょう」
「距離?」
◇
地図に。
線が引かれる。
村から。
中心街へ。
「道路を」
「さらに整備します」
「乗合馬車も」
「増やす」
「村の作物を」
「町へ」
「運びやすくする」
「町で働く者が」
「周辺に住むことも」
「できるようにする」
◇
「家が」
「足りない町には?」
「住宅を」
「増やします」
「ただし」
「どこにでも」
「建てるわけでは」
「ありません」
「農地まで」
「潰してしまえば」
「今度は」
「食料が足りなくなります」
王が。
ため息をつく。
「一つ」
「直すたびに」
「次が出るな」
「国とは」
「そういうものでしょう」
◇
中心街。
新しい住宅が。
建ち始める。
郊外へ伸びる。
新しい道。
村と町を結ぶ。
乗合馬車。
◇
若い男が。
村の家から。
馬車に乗る。
「町まで?」
「ああ」
「仕事」
「町なんだ」
「引っ越さないのか?」
男が。
笑う。
「家賃」
「高いからな」
◇
別の若者は。
荷物を持って。
町へ向かう。
「戻らないの?」
母親が。
聞く。
「休みには」
「帰るよ」
「町で」
「やりたい仕事」
「見つけたから」
「そう」
「頑張って」
◇
村では。
老人が。
縁側に座っている。
新しく通った。
乗合馬車を見て。
「騒がしく」
「なったな」
隣の老人が。
笑う。
「嫌か?」
「…………」
少し考える。
「まあ」
「町に行くのは」
「楽になった」
◇
中心街では。
別の老人が。
新しい住宅地を。
眺める。
「昔とは」
「変わったな」
隣で。
孫が。
新しい店を。
指差している。
「じいちゃん!」
「あそこ」
「行こう!」
「…………」
老人が。
笑う。
「はいはい」
◇
王が。
町と村を結ぶ。
道を見る。
「町へ行きたい者を」
「村に縛ることは」
「できん」
「村に残りたい者を」
「町へ移すことも」
「違う」
「なら」
「どちらに住んでも」
「暮らせるようにする」
◇
ジョーカーが。
微笑む。
「住む場所まで」
「国に決められては」
「奴隷の頃と」
「あまり」
「変わりませんからね」
「…………」
王が。
道の先を見る。
「余が」
「決めるのは」
「民の住む場所ではない」
「民が」
「住みたい場所を」
「選べる国を」
「どう作るかだ」
◇
町へ向かう者。
村へ帰る者。
同じ道を。
反対方向へ。
歩いていく。




