96話「よそ者」
東部。
鉱山。
「人が」
「集まりません!」
鉱山主が。
机を叩く。
「賃金は」
「上げた!」
「それでも」
「坑道に入る者が」
「足りない!」
◇
ダイヤが。
募集条件を見る。
「危険手当は?」
「ありません」
「怪我をした場合は?」
「本人の――」
「補償は?」
「…………」
「ありません」
「勤務時間は?」
「日の出から」
「日暮れまで」
「…………」
ダイヤが。
紙を置く。
「私でも」
「働きませんね」
「財務卿が」
「鉱山で働くわけ」
「ないだろ!」
「そういう話では」
「ありません」
◇
安全な坑道への。
補強。
新しい道具。
勤務時間の短縮。
負傷した場合の。
補償。
そして。
危険手当。
募集条件が。
変わる。
少しずつ。
人が集まった。
それでも。
まだ。
足りない。
◇
鉱山主が。
言う。
「国外から」
「呼ぶのは」
「どうでしょう」
「国外?」
「王国より」
「貧しい国なら」
「ここで働きたい者は」
「いるはずです」
王が。
考える。
「本人が」
「望んで来るのであれば」
「構わん」
鉱山主が。
少し笑う。
「それなら」
「賃金も――」
「同じだ」
「…………」
◇
「王国の者と」
「同じ条件で」
「雇え」
「ですが」
「向こうの国なら」
「もっと安い賃金でも――」
ノアが。
口を挟む。
「なんで?」
「…………」
「外国人だと」
「腹減らねえの?」
「いや」
「そういう意味では――」
「じゃあ」
「同じでいいじゃん」
◇
王が。
続ける。
「同じ仕事には」
「同じ賃金」
「同じ安全基準」
「辞める自由も」
「帰る自由も」
「認める」
「借金を理由に」
「縛ることも」
「認めん」
「奴隷の代わりを」
「国外から」
「連れてくるのではない」
◇
しばらくして。
東部に。
国外から。
多くの労働者が。
やって来た。
鉱山。
運搬。
建設。
人手不足は。
少しずつ。
解消していった。
◇
その一方。
町では。
聞き慣れない言葉が。
増えた。
見慣れない料理。
違う服。
違う習慣。
「最近」
「よそ者」
「多くないか?」
「夜も」
「騒いでるし」
「治安だって」
「悪くなるんじゃ」
「ないのか?」
◇
王が。
役人を見る。
「犯罪は」
「増えているのか?」
「いえ」
「今のところ」
「大きな変化は」
「ありません」
住民が。
言う。
「でも」
「怖いんだよ」
「急に」
「知らない奴らが」
「増えたんだぞ」
王が。
少し考える。
「不安に思うなとは」
「言わん」
「町が」
「急に変わったのだ」
「戸惑う者も」
「いるだろう」
「だが」
「まだ起きてもいない罪で」
「人を罪人には」
「できん」
◇
数日後。
酒場。
怒鳴り声。
机が倒れる。
国外から来た。
鉱山労働者が。
王国の男を。
殴り倒す。
◇
翌朝。
町中に。
話が広がった。
「ほら見ろ!」
「やっぱり」
「危険じゃないか!」
「外国人を」
「追い出せ!」
「こんな奴ら」
「入れるからだ!」
◇
王が。
現場へ来る。
「殴った者は?」
「捕らえました」
「被害者は?」
「命に別状は」
「ありません」
「なら」
「法に従って」
「裁け」
◇
住民が。
声を上げる。
「一人だけじゃない!」
「また」
「同じことが」
「起きるかもしれない!」
「全員」
「帰せ!」
王が。
振り返る。
「なぜだ?」
「同じ国の」
「奴らだからだ!」
「…………」
王が。
少し考える。
「では」
「王国民が」
「一人」
「人を殴れば」
「王国民を」
「全員」
「国外へ」
「追い出すのか?」
「それは……」
「違うだろ」
「余には」
「同じに見える」
◇
国外から来た。
別の男が。
前へ出る。
「俺」
「何も」
「してない」
片言の。
王国語。
「毎日」
「鉱山」
「働いてる」
「税金も」
「払ってる」
「でも」
「あいつが」
「人殴ったから」
「俺も」
「悪い?」
誰も。
答えない。
◇
だが。
別の住民が。
言う。
「じゃあ」
「何も問題ないって」
「言うのか?」
「夜中まで」
「騒ぐ奴もいる!」
「ゴミの捨て方も」
「違う!」
「言葉だって」
「通じない!」
「俺たちが」
「我慢しろって?」
王が。
首を振る。
「それも」
「違う」
◇
王が。
国外の労働者たちを見る。
「ここで暮らすなら」
「この町の決まりは」
「守ってもらう」
「言葉が分からぬなら」
「教える」
「決まりを知らぬなら」
「伝える」
「守らぬ者には」
「王国民と」
「同じように」
「注意し」
「必要なら」
「罰する」
◇
「そして」
王が。
住民を見る。
「お前たちにも」
「同じことを」
「求める」
「国外から来たというだけで」
「罪人として」
「扱うことは」
「認めん」
◇
ジョーカーが。
微笑む。
「難しいものですね」
「人手が」
「足りない時には」
「来てほしい」
「…………」
「来ていただいたら」
「増えすぎだ」
「働いてほしい」
「…………」
「ですが」
「できれば」
「自分たちの」
「近くには」
「住んでほしくない」
「ジョーカー」
「はい」
「少し」
「黙れ」
「失礼しました」
◇
鉱山主が。
小さく言う。
「でも」
「やっぱり」
「国外の者を」
「増やしすぎるのは――」
ノアが。
振り返る。
「じゃあ」
「お前」
「坑道入る?」
「…………」
「嫌だ」
「町の奴らは?」
「嫌がってる」
「でも」
「鉱山は」
「動かしたい?」
「…………」
「そりゃ」
「動かしたい」
ノアが。
笑う。
「難しいな」
「お前ら」
◇
王が。
町を見る。
王国の者。
国外から来た者。
同じ道を。
歩いている。
「受け入れるなら」
「都合のいい時だけ」
「人手として」
「見るわけには」
「いかんな」
ダイヤが。
頷く。
「人を」
「輸入するわけでは」
「ありませんので」
「暮らす者が」
「増えるのです」
◇
その日の夕方。
鉱山。
王国の男と。
国外から来た男が。
並んで。
坑道から出てくる。
二人とも。
泥だらけ。
「明日も?」
片言で。
尋ねる。
「明日も」
「…………」
王国の男が。
ため息をつく。
「行きたくねえな」
国外の男も。
笑う。
「俺も」
二人で。
笑う。
少し離れたところ。
ノアが。
それを見る。
「結局」
「同じじゃん」
ジョーカーが。
微笑む。
「ええ」
「働きたくないという点では」
「大変」
「仲良くなれそうですね」




