100話「王様」
東部評議会。
長い机の上には。
何枚もの報告書。
◇
鉱山。
農地。
物価。
仕事。
学校。
処理場。
自保。
◇
王が。
最後の一枚を置く。
「…………」
「これで」
「ひとまず」
「終わりか」
ダイヤ。
「終わり?」
王。
「違うのか?」
「明日の分なら」
「すでにあります」
「…………」
ジョーカー。
「国というものは」
「終わらないように」
「できているようですね」
◇
評議員が。
王の前に立つ。
「陛下」
「我々からも」
「お話があります」
王。
「なんだ?」
◇
「東部は」
「これからも」
「自分たちで」
「決めていきたいと」
「思っています」
◇
王。
「ああ」
「そうしろ」
「…………」
評議員が。
少し戸惑う。
「よろしいのですか?」
「何がだ?」
「我々は」
「王都の判断ではなく」
「自分たちで」
「決めたいと」
「言っているのですが」
王。
「だから」
「そうしろと」
「言っている」
◇
ジョーカー。
「随分と」
「聞き分けのよい」
「王様ですね」
「不満か?」
「仕事が減るのであれば」
「大歓迎です」
ダイヤ。
「減りませんよ」
「…………」
◇
王が。
評議員たちを見る。
「ただし」
「一つだけ」
「忘れるな」
◇
「東部とは」
「お前たち」
「評議会のことではない」
◇
静かになる。
◇
「町に住む者」
「村に住む者」
「商人」
「農民」
「鉱山で働く者」
「元奴隷」
「外から来た者」
◇
「皆」
「ここで」
「生きている」
◇
「自分たちで」
「決めるというなら」
「その」
「自分たちから」
「誰かを」
「勝手に外すな」
◇
評議員。
「…………」
「難しいですね」
王。
「ああ」
「余も」
「未だに」
「分からんことばかりだ」
ジョーカー。
「ご安心ください」
「陛下は」
「分からないことだけは」
「随分と」
「増えましたので」
王。
「成長しているのか?」
「知識不足が」
「明らかになっているだけかと」
「…………」
◇
翌朝。
王たちは。
東部を発つ。
◇
町を歩く。
◇
鉱山の前。
男が。
給金を受け取る。
「ほら」
「今週の分だ」
男が。
硬貨を数える。
「ちゃんと」
「俺の金だよな?」
「当たり前だろ」
男が。
笑う。
◇
少し先。
酒場の前。
「今日も」
「収穫の仕事」
「あるんだろ?」
「あるぞ」
「終わったら」
「ここな」
「お前」
「酒のために」
「働いてんのか?」
「悪いか!」
◇
ジョーカー。
「大変」
「立派な労働意欲ですね」
王。
「理由は」
「本人の自由だ」
◇
道の向こう。
自保の腕章をつけた男たち。
揉めている二人の間に。
入っている。
◇
「殴るな!」
「先にこいつが!」
「どっちが先でも」
「殴るな!」
◇
王。
「ノアは?」
「別の村!」
「人さらいが」
「出たって!」
「そうか」
◇
さらに歩く。
◇
鉱山へ向かう。
二人の男。
一人は東部の者。
もう一人は。
遠い国から来た者。
◇
「今日」
「休みたい」
「俺も」
「でも」
「金」
「欲しい」
「俺も」
◇
二人で。
笑う。
◇
学校の前。
子供たち。
その隣では。
大人たちも。
文字を習っている。
◇
「これ」
「なんて読む?」
「給料」
「おお」
「大事な字だな」
◇
その向こう。
鍛冶屋。
若者が。
職業体験をしている。
◇
「熱っ!!」
「無理!!」
「俺これ」
「向いてない!!」
親方。
「まだ半日だぞ!」
「半日で」
「十分分かった!!」
◇
王。
「…………」
ジョーカー。
「一つ」
「賢くなりましたね」
◇
町を抜ける。
◇
処理場の予定地。
今も。
看板が立っている。
――建設反対。
◇
王が。
少し見る。
男が。
王に気づく。
「陛下!」
「俺は!」
「まだ反対だからな!」
王。
「ああ」
「知っている」
「臭かったら!」
「すぐ文句言いに行くからな!」
「来い」
「毎日でも!」
「それは」
「少し困る」
◇
男が。
笑う。
◇
ジョーカー。
「随分と」
「平和な反逆者ですね」
王。
「反対するだけで」
「反逆者にするな」
◇
町の外。
馬車が。
待っている。
◇
評議員たちが。
見送りに来ていた。
「陛下」
王が。
振り返る。
「ありがとうございました」
◇
王。
「礼を言うには」
「まだ早い」
「…………?」
「これからは」
「お前たちが」
「やるのであろう?」
◇
評議員。
「…………」
「はい」
◇
王が。
馬車へ乗る。
ジョーカーも。
続く。
ダイヤが。
大量の書類を抱えて。
乗り込む。
王。
「それも」
「持って帰るのか?」
「当然です」
「東部で使った」
「お金の報告です」
「置いていけ」
「王都で」
「続きをしましょう」
ジョーカー。
「陛下」
「馬車から」
「降りますか?」
「余を」
「東部に捨てるな」
◇
馬車が。
走り出す。
◇
少しずつ。
東部の町が。
遠ざかっていく。
◇
ジョーカー。
「結局」
「東部に」
「王は」
「必要だったのでしょうか?」
王。
「さあな」
「おや」
「随分と」
「働いたというのに」
「必要なかったのなら」
「悲しくありませんか?」
◇
王が。
窓の外を見る。
◇
「それでいい」
「…………」
◇
「王が」
「いなくとも」
「民が」
「自分たちで考え」
「自分たちで選び」
「間違えれば」
「自分たちで直す」
◇
「そんな国なら」
「王など」
「いらんだろう」
◇
ジョーカー。
「…………」
「王様が」
「それを」
「言いますか」
王。
「ああ」
◇
「余が」
「王だからな」
◇
ジョーカーが。
少し笑う。
「では」
「陛下が」
「いらなくなる日まで」
「もう少し」
「働いていただきましょう」
王。
「もう少しか?」
「かなり」
「先かもしれません」
「…………」
◇
馬車は。
東部を離れていく。
◇
かつて。
王はいらないと。
言った土地。
◇
そこでは今。
誰かに。
決めてもらうのではなく。
◇
自分たちで。
迷い。
選び。
間違え。
また。
考え始めていた。
◇
王は。
その土地を。
振り返らなかった。
◇
王都へ。
帰るために。




