93話「働ける者」
東部。
奴隷制が。
なくなってから。
しばらく。
◇
早朝。
元奴隷の男が。
鉱山へ向かう。
「今日も早いな」
「早く」
「仕事覚えたいんで」
「金貯めて」
「いつか」
「自分の家」
「持ちたいんですよ」
◇
同じ頃。
配給所。
別の元奴隷。
「仕事は?」
「まだ」
「できそうに」
「ありません」
「身体が?」
「ええ」
「長く働くと」
「しんどくて……」
食料を。
受け取る。
◇
その日の夜。
酒場。
「もう一杯!」
「今日もいるな」
「まあな!」
先ほどの男が。
酒を飲み。
笑っている。
◇
隣の席。
鉱山帰りの。
元奴隷。
泥だらけの服で。
その姿を見る。
「…………」
「お前」
「働けないんじゃ」
「なかったの?」
「働くのと」
「酒飲むのは」
「違うだろ」
「…………」
「その酒」
「どうした?」
「支援でもらった金」
「…………」
男の顔が。
引きつる。
◇
「俺も」
「元奴隷だぞ」
「朝から」
「働いて」
「税も払ってる」
「…………」
「その金で」
「お前が」
「毎晩」
「酒飲んでんの?」
「俺だって」
「今まで」
「散々働かされたんだ!」
「やっと」
「自由になったんだぞ!」
「少しくらい」
「好きにしたって」
「いいだろ!」
「俺だって」
「自由になったよ!」
◇
「だから」
「今度は」
「自分のために」
「働いてんだよ!」
酒場が。
静かになる。
◇
翌日。
配給所。
また別の。
元奴隷。
見た目には。
怪我もない。
「お前も」
「働けないのか?」
「…………」
「働きたいです」
「でも」
「鉱山に入ると」
「鞭の音を」
「思い出して」
「息が」
「できなくなる」
◇
鉱山帰りの男が。
黙る。
酒場の男も。
この男も。
見た目だけなら。
変わらない。
◇
少し離れた場所。
ノア。
「…………」
「分かんねえな」
「何が?」
「働かない奴と」
「働けない奴」
「見た目じゃ」
「分かんねえ」
「…………」
「首輪なら」
「見れば」
「分かったのにな」
◇
東部評議会。
住民たちから。
不満が出る。
「病気や」
「怪我で」
「働けない者を」
「助けることには」
「反対しません!」
「ですが」
「働けないと言いながら」
「毎晩酒場にいる者まで」
「我々の税で」
「養うのですか?」
◇
王が。
答える。
「働けぬ者は」
「支える」
「働きたい者には」
「仕事を探す」
「必要なら」
「学ぶ場所も」
「用意する」
「…………」
「だが」
「働ける者が」
「働かぬことを選び」
「その生活を」
「働く者に」
「当然のように」
「支えさせることまで」
「公平とは」
「余も思わん」
◇
「では」
「誰が」
「働けるかを」
「決めるのです?」
「酒場に行ければ」
「働ける?」
「歩ければ?」
「笑っていれば?」
「…………」
王が。
黙る。
◇
ジョーカーが。
微笑む。
「困りましたね」
「人の苦しみに」
「首輪でも」
「付いていれば」
「見分けるのも」
「簡単なのですが」
◇
王が。
息を吐く。
「一部の者が」
「制度を利用するからと」
「本当に働けぬ者まで」
「見捨てるわけには」
「いかん」
「だが」
「善意だけで」
「制度が続くとも」
「思わん」
◇
「結局」
「疑う必要も」
「信じる必要も」
「あるということか」
「ええ」
ジョーカーが。
笑う。
「国とは」
「大変ですね」
「困っている者を」
「助ければ」
「税金の無駄だと」
「怒られ」
「助けなければ」
「冷たい国だと」
「怒られる」
「…………」
「そして」
「どちらの方も」
「できれば」
「自分の財布からは」
「出したくないようです」




