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王の愚者  作者: クロワ
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91/105

91話「天職」

東部。


とある鉱山。


「奴隷?」


鉱山主が。


首を振る。


「違います」


「彼らは」


「契約労働者です」



ノアが。


一枚の契約書を見る。


「食費」


「寝床」


「衣服……」


「全部」


「借金?」


「ええ」


「働いて」


「返していただきます」


「…………」


ノアが。


働いている男を見る。


「お前」


「ここで」


「働きたい?」


「…………」


男が。


小さく首を振る。


「辞めたいです」


「でも」


「借金を返すまでは」


「辞められないと……」



「当然です!」


鉱山主が。


声を上げる。


「本人が」


「同意した契約です!」


「…………」


ノアが。


首を傾げる。


「じゃあ」


「今」


「辞めるって」


「本人が決めたら?」


「認められません」


「…………」


ノアが。


契約書を見る。


男を見る。


もう一度。


契約書を見る。


「奴隷って名前」


「契約に」


「変えただけじゃん」



「違う!」


「これは」


「正当な契約だ!」


「俺」


「難しいこと」


「分かんねえけどさ」


ノアが。


男を指す。


「こいつ」


「帰りたいんだろ?」


「はい」


「じゃ」


「帰ろうぜ」



自保の仲間たちが。


鉱山へ入る。


同じように。


拘束されていた者たちを。


外へ出していく。


片腕の男が。


笑う。


「なんか」


「俺たち」


「今までと」


「やってること」


「変わんねえな」


「ああ」


ノアも。


笑う。


「しかも」


「今度は」


「金もらえるんだろ?」


「したいことが」


「仕事になったな」


「な」


「…………」


ノアが。


満足そうに頷く。


「仕事って」


「最高じゃん」



その日の午後。


「自保!」


一人の男が。


馬で駆け込んでくる。


「助けてくれ!」


「今度は何?」


「領主の屋敷が」


「襲われています!」


「元奴隷たちが」


「領主を殺そうと!」


「…………」


ノアが。


立ち上がる。


「どんな領主?」


「以前」


「奴隷を酷使し」


「何人も」


「死なせた者だと……」


「…………」


ノアが。


座り直す。


「じゃ」


「いいんじゃね?」


「団長」


「…………」


「冗談」


少し考える。


「半分」



屋敷。


一人の領主が。


壁際まで。


追い詰められている。


その前には。


武器を持った。


元奴隷たち。


「俺の兄貴は」


「こいつに」


「殺された!」


「俺の妻は」


「こいつに」


「売られた!」


「今さら」


「助けてくれだと!?」


領主が。


ノアを見る。


「た、頼む!」


「助けてくれ!」


「…………」


ノアが。


領主を見る。


「お前」


「ほんと」


「クズだな」


「…………」


「た、頼む!」


ノアが。


ため息をつく。


そして。


領主の前に立つ。


「あー」


「もう」


「…………」


「仕事だから」


「助けるよ」


「ほんっと」


「嫌だけど」



元奴隷が。


ノアを睨む。


「なんでだよ!」


「お前も」


「奴隷だったんだろ!」


「ああ」


「だったら」


「分かるだろ!」


「こいつが」


「何したか!」


「分かるよ!」


ノアが。


領主を指差す。


「俺も」


「こいつ」


「大っ嫌いだよ!」


領主。


「…………」


「でも」


ノアが。


剣を抜く。


「殺すなら」


「止める」


「それが」


「仕事だから」



「どけ!」


元奴隷が。


斬りかかる。


ノアが。


受け止める。


「俺たちの」


「復讐まで」


「邪魔すんのか!」


「するよ!」


剣を。


弾く。


「したくねえけど!」


「仕事なんだよ!」



しばらくして。


元奴隷たちは。


武器を下ろす。


「…………」


一人が。


ノアを見る。


「お前」


「変わったな」


ノアが。


嫌そうな顔をする。


「俺も」


「そう思う」



領主が。


震えながら。


立ち上がる。


「助かった……」


「礼を――」


「勘違いすんなよ」


ノアが。


睨む。


「俺」


「お前を」


「許したわけじゃ」


「ねえから」


「…………」


「仕事だから」


「助けただけ」



ノアが。


領主へ。


一歩近づく。


「あと」


「お前」


「次」


「前と同じこと」


「やってみろ」


剣の柄を。


叩く。


「そん時は」


「俺が」


「真っ先に」


「斬るからな」


「…………」


領主の顔が。


青ざめる。


「覚えとけ」



ノアが。


今度は。


元奴隷たちを見る。


「お前らも」


「こいつが」


「憎いなら」


「憎んでりゃいい」


「俺も」


「嫌いだし」


「…………」


「でも」


「殺しに来たら」


「止める」


領主を。


親指で指す。


「こいつが」


「また」


「誰かの自由を」


「奪ったら」


「今度は」


「こいつを止める」


「…………」


「誰が相手でも」


「自由を守る」


「それが」


「自保の仕事」


「らしいから」



帰り道。


ノアが。


深く。


ため息をつく。


「…………」


「仕事って」


「思ってたのと」


「違うな」


片腕の男が。


笑う。


「朝は」


「最高って」


「言ってたぞ」


「朝はな」


「…………」


「したいことやって」


「金もらえるなんて」


「最高だと」


「思ったのに」


「したくないことも」


「やらされた」


「仕事だからな」


「…………」


ノアが。


不満そうに。


歩く。


「仕事って」


「したいことだけ」


「やるんじゃ」


「ねえんだな」


「今さら?」


「知らねえよ」


「今まで」


「働くかどうかすら」


「自分で」


「決められなかったんだから」


「…………」


片腕の男が。


少し黙る。


そして。


笑う。


「じゃあ」


「初めて知ったな」


「ああ」


ノアも。


笑う。


「初めて知った」



王のもとへ。


自保の。


初任務の報告が届く。


「随分と」


「文句を言いながら」


「働いたようだな」


ジョーカーが。


微笑む。


「したいことを」


「仕事にできるとは」


「素晴らしいことですね」


「…………」


「したくないことまで」


「仕事になるという点を」


「除けば」


王が。


少し笑う。


「それが」


「仕事ではないのか?」


「ええ」


ジョーカーが。


頷く。


「ですから」


「皆様」


「お給料を」


「いただくのでしょう」

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