91話「天職」
東部。
とある鉱山。
「奴隷?」
鉱山主が。
首を振る。
「違います」
「彼らは」
「契約労働者です」
◇
ノアが。
一枚の契約書を見る。
「食費」
「寝床」
「衣服……」
「全部」
「借金?」
「ええ」
「働いて」
「返していただきます」
「…………」
ノアが。
働いている男を見る。
「お前」
「ここで」
「働きたい?」
「…………」
男が。
小さく首を振る。
「辞めたいです」
「でも」
「借金を返すまでは」
「辞められないと……」
◇
「当然です!」
鉱山主が。
声を上げる。
「本人が」
「同意した契約です!」
「…………」
ノアが。
首を傾げる。
「じゃあ」
「今」
「辞めるって」
「本人が決めたら?」
「認められません」
「…………」
ノアが。
契約書を見る。
男を見る。
もう一度。
契約書を見る。
「奴隷って名前」
「契約に」
「変えただけじゃん」
◇
「違う!」
「これは」
「正当な契約だ!」
「俺」
「難しいこと」
「分かんねえけどさ」
ノアが。
男を指す。
「こいつ」
「帰りたいんだろ?」
「はい」
「じゃ」
「帰ろうぜ」
◇
自保の仲間たちが。
鉱山へ入る。
同じように。
拘束されていた者たちを。
外へ出していく。
片腕の男が。
笑う。
「なんか」
「俺たち」
「今までと」
「やってること」
「変わんねえな」
「ああ」
ノアも。
笑う。
「しかも」
「今度は」
「金もらえるんだろ?」
「したいことが」
「仕事になったな」
「な」
「…………」
ノアが。
満足そうに頷く。
「仕事って」
「最高じゃん」
◇
その日の午後。
「自保!」
一人の男が。
馬で駆け込んでくる。
「助けてくれ!」
「今度は何?」
「領主の屋敷が」
「襲われています!」
「元奴隷たちが」
「領主を殺そうと!」
「…………」
ノアが。
立ち上がる。
「どんな領主?」
「以前」
「奴隷を酷使し」
「何人も」
「死なせた者だと……」
「…………」
ノアが。
座り直す。
「じゃ」
「いいんじゃね?」
「団長」
「…………」
「冗談」
少し考える。
「半分」
◇
屋敷。
一人の領主が。
壁際まで。
追い詰められている。
その前には。
武器を持った。
元奴隷たち。
「俺の兄貴は」
「こいつに」
「殺された!」
「俺の妻は」
「こいつに」
「売られた!」
「今さら」
「助けてくれだと!?」
領主が。
ノアを見る。
「た、頼む!」
「助けてくれ!」
「…………」
ノアが。
領主を見る。
「お前」
「ほんと」
「クズだな」
「…………」
「た、頼む!」
ノアが。
ため息をつく。
そして。
領主の前に立つ。
「あー」
「もう」
「…………」
「仕事だから」
「助けるよ」
「ほんっと」
「嫌だけど」
◇
元奴隷が。
ノアを睨む。
「なんでだよ!」
「お前も」
「奴隷だったんだろ!」
「ああ」
「だったら」
「分かるだろ!」
「こいつが」
「何したか!」
「分かるよ!」
ノアが。
領主を指差す。
「俺も」
「こいつ」
「大っ嫌いだよ!」
領主。
「…………」
「でも」
ノアが。
剣を抜く。
「殺すなら」
「止める」
「それが」
「仕事だから」
◇
「どけ!」
元奴隷が。
斬りかかる。
ノアが。
受け止める。
「俺たちの」
「復讐まで」
「邪魔すんのか!」
「するよ!」
剣を。
弾く。
「したくねえけど!」
「仕事なんだよ!」
◇
しばらくして。
元奴隷たちは。
武器を下ろす。
「…………」
一人が。
ノアを見る。
「お前」
「変わったな」
ノアが。
嫌そうな顔をする。
「俺も」
「そう思う」
◇
領主が。
震えながら。
立ち上がる。
「助かった……」
「礼を――」
「勘違いすんなよ」
ノアが。
睨む。
「俺」
「お前を」
「許したわけじゃ」
「ねえから」
「…………」
「仕事だから」
「助けただけ」
◇
ノアが。
領主へ。
一歩近づく。
「あと」
「お前」
「次」
「前と同じこと」
「やってみろ」
剣の柄を。
叩く。
「そん時は」
「俺が」
「真っ先に」
「斬るからな」
「…………」
領主の顔が。
青ざめる。
「覚えとけ」
◇
ノアが。
今度は。
元奴隷たちを見る。
「お前らも」
「こいつが」
「憎いなら」
「憎んでりゃいい」
「俺も」
「嫌いだし」
「…………」
「でも」
「殺しに来たら」
「止める」
領主を。
親指で指す。
「こいつが」
「また」
「誰かの自由を」
「奪ったら」
「今度は」
「こいつを止める」
「…………」
「誰が相手でも」
「自由を守る」
「それが」
「自保の仕事」
「らしいから」
◇
帰り道。
ノアが。
深く。
ため息をつく。
「…………」
「仕事って」
「思ってたのと」
「違うな」
片腕の男が。
笑う。
「朝は」
「最高って」
「言ってたぞ」
「朝はな」
「…………」
「したいことやって」
「金もらえるなんて」
「最高だと」
「思ったのに」
「したくないことも」
「やらされた」
「仕事だからな」
「…………」
ノアが。
不満そうに。
歩く。
「仕事って」
「したいことだけ」
「やるんじゃ」
「ねえんだな」
「今さら?」
「知らねえよ」
「今まで」
「働くかどうかすら」
「自分で」
「決められなかったんだから」
「…………」
片腕の男が。
少し黙る。
そして。
笑う。
「じゃあ」
「初めて知ったな」
「ああ」
ノアも。
笑う。
「初めて知った」
◇
王のもとへ。
自保の。
初任務の報告が届く。
「随分と」
「文句を言いながら」
「働いたようだな」
ジョーカーが。
微笑む。
「したいことを」
「仕事にできるとは」
「素晴らしいことですね」
「…………」
「したくないことまで」
「仕事になるという点を」
「除けば」
王が。
少し笑う。
「それが」
「仕事ではないのか?」
「ええ」
ジョーカーが。
頷く。
「ですから」
「皆様」
「お給料を」
「いただくのでしょう」




