89話「仕事」
翌日。
東部評議会。
「…………」
王の前に。
ノアが。
座っていた。
「仕事」
「ない?」
「…………」
王が。
ノアを見る。
「本当に」
「それだけを」
「言いに来たのか?」
「ああ」
「飯が」
「ねえんだよ」
「…………」
「狩りも」
「畑も」
「やってるけど」
「人数多いし」
「全然」
「足りねえ」
◇
王が。
少し考える。
「鉱山は?」
「嫌だ」
「農園」
「嫌だ」
「…………」
「選り好みできる」
「立場なのか?」
「自由なんだろ?」
「…………」
王が。
黙る。
「確かに」
◇
ジョーカーが。
尋ねる。
「では」
「何が」
「できますか?」
「喧嘩」
「却下だ」
「まだ」
「何も言ってねえだろ」
「どうせ」
「そうだろう」
「…………」
ノアが。
考える。
「狩り」
「野営」
「山道なら」
「だいたい分かる」
「あと」
「人探すのも」
「結構得意」
「人探し?」
「ああ」
「奴隷が」
「隠されてる場所」
「ずっと」
「探してたから」
◇
王が。
ノアを見る。
「昨日も」
「元奴隷を」
「助けたそうだな」
「ああ」
「連れ戻そうとしてた」
「…………」
「殺さなかったそうだな」
ノアが。
嫌そうな顔をする。
「お前が」
「うるせえから」
「そうか」
◇
王が。
少し考える。
「なら」
「それを」
「続けろ」
「…………」
ノアが。
首を傾げる。
「それ?」
「人を探す」
「困っている者を」
「見つける」
「守る」
「…………」
「隠れて」
「奴隷を使う者がいれば」
「見つけろ」
「人買いがいれば」
「捕らえろ」
「元奴隷を」
「連れ戻そうとする者がいれば」
「止めろ」
ノアが。
王を見る。
「それ」
「今までと」
「あんま」
「変わんなくね?」
「一つ」
「大きく違う」
「何?」
「奪うな」
「…………」
ノアが。
黙る。
「殺すな」
「…………」
さらに。
黙る。
「燃やすな」
「…………」
「注文」
「多くない?」
「普通だ」
◇
王が。
続ける。
「その代わり」
「仕事として」
「国が」
「金を払う」
「…………」
ノアが。
目を丸くする。
「金?」
「ああ」
「それで」
「食料を買え」
「…………」
「奪わなくても?」
「買え」
「…………」
ノアが。
少し考える。
「すげえな」
「働くって」
「何がだ」
「人から」
「奪わなくても」
「飯食えるんだな」
「それが普通だ」
◇
「ただし」
王が。
言う。
「王国軍には」
「入れん」
「…………」
「お前たちは」
「東部の者だ」
「東部のことは」
「東部で決めたい」
「そう言っていた者たちも」
「多かった」
ノアが。
見る。
「東部に」
「自警団を作る」
「…………」
「王国軍とは」
「別の組織だ」
「東部を巡回し」
「人身売買」
「違法な拘束」
「略奪」
「暴力」
「そうしたものから」
「民を守る」
◇
「民って」
「元奴隷?」
「違う」
王が。
答える。
「全員だ」
「…………」
ノアが。
黙る。
「奴隷だった者も」
「領主だった者も」
「農民も」
「商人も」
「子供も」
「…………」
「助けを求める者が」
「いるなら」
「同じように」
「守れ」
ノアが。
王を見る。
「元領主でも?」
「ああ」
「嫌だね」
「では」
「仕事はなしだ」
「…………」
ノアが。
黙る。
「飯も?」
「当然だ」
「…………」
「汚えな」
「交渉と言え」
◇
しばらく。
ノアが。
考える。
「…………」
「まあ」
「困ってるなら」
「仕方ねえか」
「…………」
「ただ」
「嫌いな奴には」
「嫌いって」
「言うぞ」
「好きにしろ」
「助けたあと」
「悪口も言う」
「好きにしろ」
「…………」
「殴るのは?」
「駄目だ」
「厳しいな」
◇
ジョーカーが。
二人を。
眺めている。
「何だ」
王が。
尋ねる。
「いえ」
ジョーカーが。
微笑む。
「昨日まで」
「国に追われていた方々が」
「今日から」
「国の治安を」
「守るとは」
「…………」
「世の中」
「何が」
「仕事になるか」
「分からないものですね」
◇
数日後。
山中。
ノアが。
仲間たちを見る。
「ということで」
「仕事」
「もらった」
「…………」
「何すんの?」
「今までと」
「だいたい」
「同じ」
「…………」
「ただ」
「人から」
「飯奪ったら」
「怒られる」
「当たり前だろ」
「あと」
「人殺しても」
「怒られる」
「それも」
「当たり前だろ」
◇
一人の男が。
尋ねる。
「で」
「俺たち」
「何て名前になるんだ?」
「…………」
皆が。
ノアを見る。
ノアも。
考える。
「奴隷」
「もう」
「いねえしな」
「…………」
男が。
笑う。
「じゃあ」
「奴隷解放戦線は」
「終わりか」
ノアが。
少しだけ。
黙る。
「ああ」
「…………」
「終わりで」
「いいんじゃねえの」
◇
鎖を。
壊すために。
集まった者たちは。
その日。
初めて。
鎖のない場所で。
生きるための。
仕事を得た。




