88話「自由のあと」
数日後。
山中。
奴隷解放戦線の。
拠点。
「じゃあな」
「ああ」
一人の男が。
荷物を背負う。
「故郷に」
「帰ってみる」
「家」
「残ってんの?」
「知らねえ」
男が。
笑う。
「だから」
「見てくる」
◇
別の女も。
荷物をまとめていた。
「私は」
「妹を探す」
「生きてるか」
「分かんないけど」
「…………」
「見つかるといいな」
「ああ」
ノアは。
誰も。
止めなかった。
◇
だが。
出ていったのは。
一部だけだった。
まだ。
多くの者が。
拠点に残っている。
ノアが。
見回す。
「お前らは?」
「…………」
一人の男が。
首を傾げる。
「どこ行けばいい?」
「知らねえよ」
「好きなとこ」
「好きなとこって」
「言われてもなあ」
「…………」
「故郷」
「ねえし」
別の者も。
続く。
「俺も」
「家族いねえ」
「…………」
「やりたいことも」
「別に」
「ねえな」
女が。
笑う。
「自由になったら」
「何したいって」
「聞かれたけど」
「…………」
「そんなこと」
「考えたこと」
「なかったんだよね」
◇
ノアが。
残った者たちを見る。
「じゃ」
「いれば?」
「いいのか?」
「だから」
「なんで」
「俺に聞くんだよ」
「…………」
「いたきゃ」
「いればいいし」
「出てきたくなったら」
「出てけばいいだろ」
「…………」
男が。
笑う。
「自由って」
「めんどくせえな」
「な」
◇
ノアが。
地面に寝転がる。
「…………」
「てか」
「俺ら」
「明日から」
「飯」
「どうすっかなー」
「…………」
皆が。
ノアを見る。
「狩りだけじゃ」
「足りねえし」
「畑も」
「まだだろ?」
「ああ」
「…………」
ノアが。
頭を掻く。
「今まで」
「領主とか」
「村から」
「奪ってたからなー」
「…………」
誰も。
否定しない。
「それも」
「もう」
「できねえし」
ノアが。
腹を押さえる。
「自由になったら」
「飯まで」
「自由に出てくると」
「思ってたわ」
「思ってねえだろ」
「うん」
「思ってねえ」
◇
「…………」
「働くか」
ノアが。
呟く。
「何する?」
「それを」
「今」
「考えてんだよ」
◇
その時。
馬の音。
一人の男が。
拠点へ。
駆け込んでくる。
「ノア!」
「ん?」
「北の村で」
「揉めてる」
「…………」
ノアが。
起き上がる。
「何が?」
「元奴隷を」
「連れ戻そうとしてる」
「…………」
ノアの。
顔から。
眠気が消える。
「王様の命令」
「出ただろ」
「隠れて」
「やってる奴が」
「いるらしい」
「…………」
ノアが。
立ち上がる。
「行くぞ」
◇
北の村。
一人の男が。
三人の男に。
囲まれていた。
「戻れ」
「嫌です」
「鉱山には」
「戻りません」
「お前には」
「まだ借金がある」
腕を。
掴まれる。
「離してください!」
「…………」
「おーい」
全員が。
振り返る。
ノアたちが。
立っていた。
◇
ノアが。
元奴隷を見る。
「戻りたい?」
男が。
首を振る。
「戻りたく」
「ありません」
「だって」
ノアが。
男たちを見る。
「帰れよ」
「これは」
「我々とこいつの問題だ!」
「そうだな」
「…………」
ノアが。
元奴隷を指す。
「だから」
「こいつが」
「決めるんだろ?」
◇
男たちが。
武器に。
手を伸ばす。
解放戦線も。
身構える。
ノアが。
剣に。
手をかける。
「…………」
少し。
止まる。
そして。
手を離す。
「めんどくせえなー」
「…………」
「なんだ?」
「こっちの話」
ノアが。
仲間を見る。
「王国兵」
「呼んできて」
「…………」
「いいのか?」
「殺したら」
「王様」
「うるせえじゃん」
◇
しばらくして。
王国兵が。
男たちを。
連れていく。
元奴隷が。
ノアたちに。
頭を下げる。
「ありがとう」
「…………」
「別に」
ノアが。
手を振る。
「自分で」
「決めただけだろ」
◇
帰り道。
仲間が。
ノアに。
尋ねる。
「なあ」
「ん?」
「俺たち」
「これから」
「何して働くか」
「考えてたよな」
「ああ」
「…………」
男が。
後ろを振り返る。
助けた男が。
遠くで。
こちらを見ている。
「こういうの」
「仕事に」
「ならねえかな」
「…………」
ノアが。
止まる。
「人助けで?」
「ああ」
「飯」
「食える?」
「知らねえよ」
「…………」
ノアが。
少し考える。
「じゃあ」
「王様に」
「聞いてみる?」
仲間が。
驚く。
「お前が?」
「飯」
「ねえんだもん」
「…………」
「背に腹は」
「代えられねえだろ」
◇
その日の夜。
王のもとへ。
一つの。
伝言が届く。
「陛下」
「ノアという男から」
「…………」
王が。
顔を上げる。
「何だ」
兵士が。
困った顔で。
紙を見る。
「その……」
「仕事」
「ない?」
「とのことです」
「…………」
王が。
黙る。
ジョーカーが。
横から。
紙を覗く。
そして。
小さく笑った。
「自由というものも」
「なかなか」
「世知辛いですね」
「…………」
「鎖は」
「外してくれますが」
「食事までは」
「用意してくれないようで」




