85話「都合のいい自由」
東部評議会。
王が。
戻るなり。
鉱山主が。
立ち上がる。
「陛下!」
「これ以上は」
「限界です!」
「農園が襲われ」
「鉱山でも」
「反乱が起きている!」
「今すぐ」
「王国軍を」
「派遣してください!」
「…………」
ジョーカーが。
首を傾げる。
「おや?」
「確か」
「東部のことは」
「東部で決める」
「そう」
「仰っていたような」
「…………」
部屋が。
静まる。
「決めるのは」
「自分たちで」
「困った時だけ」
「王国軍ですか」
「…………」
「随分と」
「便利な自治で」
「ございますね」
鉱山主が。
机を叩く。
「これは」
「治安の問題だ!」
「王国が」
「国民を守るのは」
「当然だろう!」
「なるほど」
ジョーカーが。
頷く。
「国民であることも」
「必要な時だけ」
「思い出されるのですね」
「ジョーカー」
王が。
止める。
「失礼しました」
「つい」
「東部の皆様が」
「王国民であることを」
「私も」
「忘れておりましたので」
◇
王が。
評議員たちを見る。
「王国軍は」
「出す」
鉱山主が。
息を吐く。
「ただし」
「解放戦線だけを」
「止めるためではない」
「…………」
「殺人」
「略奪」
「放火」
「それは」
「止める」
「同時に」
「奴隷への」
「暴行」
「殺害」
「私刑も」
「止める」
「逃げた者を」
「無理やり」
「連れ戻すことも」
「認めん」
「お待ちください!」
「それでは」
「奴隷が」
「逃げ放題ではありませんか!」
王が。
鉱山主を見る。
「逃げる?」
「…………」
「違う」
「離れるんだ」
◇
「残りたい者は」
「残ればいい」
「鉱山で」
「働きたい者は」
「働けばいい」
「農園で」
「働きたい者も」
「働けばいい」
「だが」
「離れたい者は」
「離れればいい」
「…………」
「それを」
「本人が決める」
「ただ」
「それだけだ」
◇
鉱山主が。
立ち上がる。
「そんなことをすれば!」
「誰も」
「残らない!」
「賃金まで払えば」
「鉱山の利益も」
「大きく落ちる!」
「落ちればいい」
「…………!」
部屋が。
静まる。
「人を」
「人として扱えば」
「利益が減る」
「だから」
「人として扱わない」
王が。
鉱山主を見る。
「そんな利益を」
「余は」
「守るつもりはない」
◇
農地の代表が。
口を開く。
「陛下」
「しかし」
「農園も同じです」
「働き手が減れば」
「収穫も減ります」
「食料の値段にも」
「影響するでしょう」
「ああ」
「分かっている」
「それでも」
「変える」
「…………」
「鉱山も」
「農園も」
「続ければいい」
「利益を出すことも」
「否定せん」
「だが」
「人の人生を」
「所有することでしか」
「出せない利益なら」
「減らせ」
◇
ジョーカーが。
微笑む。
「不思議ですね」
「東部が」
「王国から自由になるのは」
「自治」
「奴隷が」
「東部から自由になるのは」
「損失」
「…………」
「同じ自由でも」
「随分と」
「お値段が違うようで」
「…………」
誰も。
答えない。
◇
評議員の一人が。
王を見る。
「では」
「陛下は」
「我々より」
「奴隷を」
「選ぶのですか?」
王が。
首を振る。
「違う」
「奴隷か」
「お前たちか」
「その話を」
「しているのではない」
「…………」
「人の権利より」
「利益を」
「優先しない」
「そう言っている」
◇
王が。
命令書を。
机に置く。
「奴隷の売買を」
「本日より」
「停止する」
「家族を」
「引き離すことも」
「禁止する」
「そして」
「奴隷だった者には」
「選ばせる」
「残るか」
「離れるか」
「働くなら」
「賃金を払う」
「…………」
「王国軍は」
「この決定を」
「守るためにも」
「東部へ入れる」
◇
鉱山主が。
王を睨む。
「これが」
「王の決定ですか」
「ああ」
王が。
答える。
「東部の自治は」
「認める」
「だが」
「自治とは」
「他人の人生まで」
「決めていいという」
「意味ではない」
◇
その日のうちに。
王の命令は。
東部各地へ。
届けられた。
奴隷売買の停止。
家族分離の禁止。
自由意思による。
就労と離職。
そして。
解放戦線による。
殺人。
略奪。
放火の禁止。
◇
山中。
ノアが。
その命令書を。
読んでいる。
仲間が。
尋ねる。
「どうする?」
「…………」
ノアが。
紙を畳む。
「悪くねえ」
「…………?」
「これから」
「奴隷になる奴は」
「減るだろうな」
「じゃあ」
「俺たちは――」
「でも」
ノアが。
遮る。
「これは」
「これからの話だ」
「…………」
剣を。
腰に差す。
「今まで」
「奪ってきた奴らは」
「まだ」
「何も」
「払ってねえ」
◇
王の命令によって。
これから。
奪われる者は。
減るかもしれない。
だが。
すでに。
奪われた者たちの怒りは。
まだ。
何一つ。
終わっていなかった。




