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王の愚者  作者: クロワ
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85/104

85話「都合のいい自由」

東部評議会。


王が。


戻るなり。


鉱山主が。


立ち上がる。


「陛下!」


「これ以上は」


「限界です!」


「農園が襲われ」


「鉱山でも」


「反乱が起きている!」


「今すぐ」


「王国軍を」


「派遣してください!」


「…………」


ジョーカーが。


首を傾げる。


「おや?」


「確か」


「東部のことは」


「東部で決める」


「そう」


「仰っていたような」


「…………」


部屋が。


静まる。


「決めるのは」


「自分たちで」


「困った時だけ」


「王国軍ですか」


「…………」


「随分と」


「便利な自治で」


「ございますね」


鉱山主が。


机を叩く。


「これは」


「治安の問題だ!」


「王国が」


「国民を守るのは」


「当然だろう!」


「なるほど」


ジョーカーが。


頷く。


「国民であることも」


「必要な時だけ」


「思い出されるのですね」


「ジョーカー」


王が。


止める。


「失礼しました」


「つい」


「東部の皆様が」


「王国民であることを」


「私も」


「忘れておりましたので」



王が。


評議員たちを見る。


「王国軍は」


「出す」


鉱山主が。


息を吐く。


「ただし」


「解放戦線だけを」


「止めるためではない」


「…………」


「殺人」


「略奪」


「放火」


「それは」


「止める」


「同時に」


「奴隷への」


「暴行」


「殺害」


「私刑も」


「止める」


「逃げた者を」


「無理やり」


「連れ戻すことも」


「認めん」


「お待ちください!」


「それでは」


「奴隷が」


「逃げ放題ではありませんか!」


王が。


鉱山主を見る。


「逃げる?」


「…………」


「違う」


「離れるんだ」



「残りたい者は」


「残ればいい」


「鉱山で」


「働きたい者は」


「働けばいい」


「農園で」


「働きたい者も」


「働けばいい」


「だが」


「離れたい者は」


「離れればいい」


「…………」


「それを」


「本人が決める」


「ただ」


「それだけだ」



鉱山主が。


立ち上がる。


「そんなことをすれば!」


「誰も」


「残らない!」


「賃金まで払えば」


「鉱山の利益も」


「大きく落ちる!」


「落ちればいい」


「…………!」


部屋が。


静まる。


「人を」


「人として扱えば」


「利益が減る」


「だから」


「人として扱わない」


王が。


鉱山主を見る。


「そんな利益を」


「余は」


「守るつもりはない」



農地の代表が。


口を開く。


「陛下」


「しかし」


「農園も同じです」


「働き手が減れば」


「収穫も減ります」


「食料の値段にも」


「影響するでしょう」


「ああ」


「分かっている」


「それでも」


「変える」


「…………」


「鉱山も」


「農園も」


「続ければいい」


「利益を出すことも」


「否定せん」


「だが」


「人の人生を」


「所有することでしか」


「出せない利益なら」


「減らせ」



ジョーカーが。


微笑む。


「不思議ですね」


「東部が」


「王国から自由になるのは」


「自治」


「奴隷が」


「東部から自由になるのは」


「損失」


「…………」


「同じ自由でも」


「随分と」


「お値段が違うようで」


「…………」


誰も。


答えない。



評議員の一人が。


王を見る。


「では」


「陛下は」


「我々より」


「奴隷を」


「選ぶのですか?」


王が。


首を振る。


「違う」


「奴隷か」


「お前たちか」


「その話を」


「しているのではない」


「…………」


「人の権利より」


「利益を」


「優先しない」


「そう言っている」



王が。


命令書を。


机に置く。


「奴隷の売買を」


「本日より」


「停止する」


「家族を」


「引き離すことも」


「禁止する」


「そして」


「奴隷だった者には」


「選ばせる」


「残るか」


「離れるか」


「働くなら」


「賃金を払う」


「…………」


「王国軍は」


「この決定を」


「守るためにも」


「東部へ入れる」



鉱山主が。


王を睨む。


「これが」


「王の決定ですか」


「ああ」


王が。


答える。


「東部の自治は」


「認める」


「だが」


「自治とは」


「他人の人生まで」


「決めていいという」


「意味ではない」



その日のうちに。


王の命令は。


東部各地へ。


届けられた。


奴隷売買の停止。


家族分離の禁止。


自由意思による。


就労と離職。


そして。


解放戦線による。


殺人。


略奪。


放火の禁止。



山中。


ノアが。


その命令書を。


読んでいる。


仲間が。


尋ねる。


「どうする?」


「…………」


ノアが。


紙を畳む。


「悪くねえ」


「…………?」


「これから」


「奴隷になる奴は」


「減るだろうな」


「じゃあ」


「俺たちは――」


「でも」


ノアが。


遮る。


「これは」


「これからの話だ」


「…………」


剣を。


腰に差す。


「今まで」


「奪ってきた奴らは」


「まだ」


「何も」


「払ってねえ」



王の命令によって。


これから。


奪われる者は。


減るかもしれない。


だが。


すでに。


奪われた者たちの怒りは。


まだ。


何一つ。


終わっていなかった。

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