84話「許す資格」
西の農園。
王たちが。
到着する。
門は壊れ。
屋敷から。
煙が上がっている。
倒れた用心棒。
傷ついた奴隷たち。
その中央。
一人の領主が。
跪かされていた。
◇
領主の前。
元奴隷の女が。
剣を握っている。
だが。
その手は。
震えている。
「この人は」
「私の夫を」
「殺しました」
「娘も」
「売りました」
領主が。
後ずさる。
「待て……!」
「金なら払う!」
「娘も」
「探してやる!」
女は。
剣を握ったまま。
動けない。
王が。
一歩。
前へ出る。
「もういい」
「剣を下ろせ」
「…………」
その時。
横から。
ノアが。
女の剣を取る。
「ノア……?」
次の瞬間。
剣が。
領主の胸を。
貫く。
「…………!」
領主が。
崩れ落ちる。
◇
「ノア!」
王が。
睨む。
ノアは。
剣の血を払う。
「何だよ」
「なぜ」
「殺した」
「殺されるようなことを」
「してきたからだ」
「…………」
「夫を殺して」
「娘を売って」
「何年も」
「人を家畜みたいに」
「扱ってきた」
王が。
倒れた領主を見る。
「だから」
「殺していいと?」
「ああ」
ノアは。
迷わない。
「俺は」
「そう思ってる」
◇
「復讐しても」
「失ったものは」
「戻らんぞ」
ノアが。
笑う。
「知ってるよ」
「そんなこと」
「俺たちが」
「一番」
「知ってる」
「…………」
「こいつを殺したって」
「死んだ奴は」
「帰ってこない」
「売られた家族だって」
「戻ってこない」
ノアが。
剣を見る。
「俺の弟も」
「どこにいるのか」
「生きてるのかすら」
「分からねえ」
「…………」
「だから何だ?」
王が。
ノアを見る。
「…………」
「忘れろ」
「許せ」
「前を向け」
「そう言う奴も」
「いるだろうな」
「でも」
「俺は」
「ごめんだ」
「全部奪った奴らを」
「許したふりして」
「何もなかったみたいに」
「生きるなんて」
「俺は絶対に嫌だ」
◇
ジョーカーが。
小さく笑う。
「許しとは」
「随分と」
「気前のいいものですね」
「…………」
「傷ついていない方ほど」
「他人の許しを」
「簡単に」
「差し出されますので」
王が。
ジョーカーを見る。
「ああ」
「だから」
「余は」
「許せとは言わん」
◇
ノアが。
王を見る。
「じゃあ」
「何が言いたい?」
「殺すなと」
「言っている」
「…………」
ノアが。
笑う。
「王様」
「お前」
「家族を」
「売られたことあるか?」
「鎖につながれて」
「殴られ続けたことは?」
「逃げようとして」
「身体を」
「切り落とされたことは?」
「…………」
ノアが。
一歩。
近づく。
「同じ目に」
「遭ってから」
「言ってみろよ」
「それでも」
「殺すなって」
「言えるのか?」
◇
王は。
しばらく。
黙る。
「分からん」
ノアが。
僅かに。
眉を動かす。
「余は」
「お前ではない」
「同じ目に遭えば」
「余も」
「復讐を望むかもしれん」
「…………」
「だから」
「お前の憎しみを」
「間違いだとは」
「言わん」
「だが」
王が。
倒れた領主を見る。
「それでも」
「殺すことを」
「認めることはできん」
ノアが。
笑う。
「そうかよ」
血のついた剣を。
肩に担ぐ。
「なら」
「止めてみろ」
「俺たちは」
「正しいから」
「殺したいんじゃねえ」
「…………」
「憎いんだよ」
「俺たちから」
「全部奪った奴らが」
「殺したいくらい」
「憎いんだ」
「…………」
「俺たちは」
「止まらねえ」
ノアが。
王の横を。
通り過ぎる。
王は。
止めない。
ただ。
その背中を。
見ていた。




