82話「奪う者の都合」
砦。
一台の荷車が。
戻ってくる。
積まれているのは。
パン。
野菜。
穀物。
王が。
それを見る。
「どこから?」
「近くの村だ」
ノアが答える。
「奪ったのか?」
「ああ」
「…………」
◇
王が。
ノアを見る。
「奴隷には」
「自分の人生を」
「自分で決めさせる」
「そう言ったな」
「ああ」
「なら」
「なぜ」
「村人の物は」
「お前たちが決めて」
「奪う?」
「…………」
ノアが。
王を見る。
「村の連中は」
「知ってた」
「俺たちが」
「殴られてることも」
「子供が」
「売られてることも」
「全部な」
一人の男が。
口を開く。
「俺は昔」
「あの村に」
「逃げ込んだ」
「助けてくれって」
「頼んだ」
「…………」
「次の日」
「領主に」
「引き渡されたよ」
◇
その時。
砦の入口。
一人の少女が。
立っている。
「食べ物を」
「返してください」
「…………」
「弟が」
「三日」
「何も」
「食べてません」
ノアが。
少女を見る。
「俺たちも」
「食わなきゃ」
「死ぬ」
少女が。
答える。
「私たちも」
「食べなきゃ」
「死にます」
「…………」
静かになる。
◇
王が。
口を開く。
「領主にも」
「都合はあった」
ノアが。
睨む。
「鉱山を動かすため」
「金を稼ぐため」
「だから」
「奴隷が必要だった」
「お前は」
「それを許さない」
「…………」
王が。
荷車を見る。
「なら」
「これは」
「何だ?」
ノアは。
しばらく黙る。
「俺たちの」
「都合だよ」
「…………」
「分かってる」
「俺たちが」
「奪ってることくらい」
「でも」
「食わなきゃ」
「死ぬんだよ」
ノアが。
王を見る。
「じゃあ」
「俺たちが」
「また」
「我慢すればいいのか?」
王は。
答えない。
◇
ノアが。
少女を見る。
そして。
荷車から。
袋を一つ取る。
少女へ渡す。
「持ってけ」
「…………」
少女は。
袋を抱え。
砦を出ていく。
王が。
その背中を見る。
ノアが。
呟く。
「綺麗に」
「生きられるなら」
「とっくに」
「そうしてる」
王は。
荷車を見る。
奴隷から。
奪った者。
奪われた者から。
奪われた者。
その間に。
食料だけが。
積まれていた。




