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王の愚者  作者: クロワ
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81/108

81話「見なかったもの」

翌日。


山中。


奴隷解放戦線の砦。


見張りの男が。


目を細める。


「おい」


「あれ……」


「王じゃねえか?」


◇


砦が。


騒がしくなる。


王と。


ジョーカー。


二人だけ。


男たちが。


武器を構える。


「止まれ!」


王が。


腰の剣を外す。


地面へ置く。


「ノアに」


「会いに来た」


奥から。


ノアが現れる。


「…………」


「本当に」


「来たのかよ」


「ああ」


「話したければ」


「来いと言っただろう」


「普通」


「王様が」


「本当に来るか?」


王が。


ジョーカーを見る。


「二人だ」


「そういう意味じゃねえよ」


◇


砦の中。


王は。


周囲を見る。


首輪の跡。


火傷。


失った指。


足を引きずる者。


その誰もが。


王を見ている。


「…………」


一人の老人が。


声をかける。


「王様」


「今さら」


「何しに来た」


「ここで」


「何が起きているのか」


「現状を」


「見に来た」


老人が。


笑う。


「そりゃ」


「羨ましい」


「…………?」


「わしは」


「領主に」


「毎日殴られて」


「両目が」


「見えなくなった」


「…………」


老人の目は。


王を見ていない。


「王様は」


「まだ」


「見えるんだろ?」


「なら」


「よく見ていけ」


◇


その先。


片手のない男が。


薪を割っている。


王が。


その手を見る。


「鉱山で?」


「いや」


男が。


笑う。


「逃げようとした」


「…………」


「二度と」


「逃げられないようにって」


「主人が」


「切り落とした」


王が。


黙る。


「まあ」


「逃げましたけどね」


男は。


残った手で。


斧を振り下ろす。


◇


一人の女が。


子供の服を。


縫っている。


「子供が?」


「いました」


「…………」


「二人」


「上の子は」


「借金の代わりに」


「別の領主へ」


「下の子は」


「奴隷商人に」


「売られました」


「今は?」


「知りません」


「…………」


女は。


縫い物を続ける。


「母親なのに」


「自分の子供が」


「生きてるかどうかも」


「知らないんです」


◇


さらに。


若い男。


背中には。


何本もの。


鞭の跡。


「これは?」


「仕事中に」


「倒れた」


「休ませてもらえなかったのか?」


男が。


首を傾げる。


「奴隷が」


「疲れるなんて」


「考えたこと」


「なかったんじゃないですか?」


「…………」


「倒れるたびに」


「起きろって」


「鞭で」


「叩かれました」


◇


少し離れた場所。


十歳ほどの少年が。


パンを食べている。


王が。


首に残る傷を見る。


「お前も」


「奴隷だったのか?」


少年が。


頷く。


「何歳からだ?」


「分かんない」


「親は?」


「分かんない」


「名前は?」


少年が。


少し考える。


「どっち?」


「…………?」


「今の?」


「それとも」


「前の?」


王が。


言葉を失う。


「売られるたびに」


「主人が」


「名前を変えたから」


「…………」


「最初の名前」


「忘れちゃった」


ジョーカーが。


少年を見る。


いつもの笑みは。


消えていた。


◇


王が。


歩く。


何人も。


何十人も。


そこにいる。


一人一人に。


違う傷がある。


ノアが。


後ろから。


声をかける。


「どうだ?」


「…………」


「見えたか?」


王が。


振り返る。


「俺たちは」


「昨日」


「突然怒り出したんじゃない」


「ずっと」


「こうだった」


「…………」


「お前らが」


「見てなかっただけだ」


◇


「俺も」


片手の男が。


斧を置く。


「昔は」


「仕方ないって」


「思ってた」


「奴隷なんだから」


「こういうもんだって」


別の男も。


口を開く。


「俺は」


「戦争孤児だった」


「親がいないなら」


「腹が減るのも」


「殴られるのも」


「仕方ないって」


「思ってた」


女が。


小さく笑う。


「誰も」


「助けてくれませんでしたから」


「それが普通なんだって」


「思うしか」


「なかったんです」


「…………」


男が。


ノアを見る。


「でも」


「こいつだけは」


「違った」


「何が」


「仕方ないんだって」


「怒った」


「俺たちが」


「諦めてても」


「こいつだけは」


「ずっと」


「怒ってた」


ノアが。


顔をしかめる。


「余計なこと」


「言うな」


男が。


笑う。


「それで」


「こいつが」


「俺たちの首輪を」


「外した」


「だから」


「俺たちは」


「ノアについてきた」


◇


ノアが。


王を見る。


「王様」


「お前らは」


「外ばっかり」


「見てるよな」


「隣の国が」


「攻めてくる」


「どの国が」


「強くなった」


「戦争に」


「勝った」


「負けた」


「…………」


「そんなことばっかりだ」


ノアが。


砦を見渡す。


「国を守るって」


「言いながら」


「その国の中で」


「誰が泣いてるのか」


「見ようともしなかった」


「…………」


「俺たちは」


「ずっと」


「ここにいた」


ノアが。


王を見る。


「外から」


「国を守る前に」


「一度くらい」


「中を」


「見たらどうだ?」


「…………」


王は。


答えない。


ただ。


もう一度。


砦にいる者たちを見る。


老人を。


男を。


母親を。


少年を。


今度は。


一人ずつ。

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