74話「自由の先」
翌日。
東部。
王と。
ジョーカーは。
再び。
奴隷たちの元を訪れる。
一人の女が。
洗濯物を運んでいる。
王が。
声をかける。
「少し」
「話を聞いてもいいか?」
「…………」
女が。
王を見る。
「何でしょう」
「お前は」
「自由になりたいか?」
「…………」
女が。
眉をひそめる。
「当たり前でしょう」
◇
「昨日」
「同じ質問をした男は」
「自由になりたくないと」
「言っていた」
「自由になれば」
「食べていけないと」
「そういう人も」
「いるでしょうね」
女が。
洗濯物を置く。
「でも」
「私は」
「自由になりたい」
「なぜだ?」
「…………」
女が。
少し黙る。
「娘が」
「いるんです」
「三年前」
「別の領主に」
「売られました」
「…………」
「夫も」
「鉱山が見つかった時」
「人手が必要だからと」
「別の町へ」
「それから」
「一度も」
「会っていません」
王が。
黙る。
「私たちは」
「どこで働くかも」
「どこで暮らすかも」
「誰と暮らすかも」
「決められない」
「…………」
女が。
王を見る。
「自由になりたいかなんて」
「聞かないでください」
「なりたいに」
「決まってるでしょう」
「…………」
「貧しくてもいい」
「せめて」
「誰と生きるかくらい」
「自分で」
「決めたい」
◇
帰り道。
王が。
口を開く。
「昨日の男は」
「奴隷のままでいいと言った」
「今日の者は」
「自由になりたいと言った」
「ええ」
「同じ奴隷でも」
「答えは違うのだな」
ジョーカーが。
笑う。
「当然でしょう」
「奴隷である前に」
「一人の人間ですので」
「…………」
少し歩いて。
ジョーカーが。
続ける。
「ちなみに」
「私も」
「親の名前も」
「顔も」
「知りません」
「…………」
王が。
ジョーカーを見る。
「兄弟が」
「いるのかどうかさえ」
「知りませんね」
「…………」
それでも。
ジョーカーは。
笑っている。
「奴隷というものは」
「自分の人生を」
「決められないだけでは」
「ございません」
「自分の人生に」
「誰がいたのかさえ」
「知らないことも」
「ありますので」
「…………」
王は。
しばらく。
何も言わない。
やがて。
前を向く。
「王都へ戻るぞ」
「よろしいので?」
「ああ」
「聞くべき声は」
「聞いた」
「…………」
「今度は」
「余が」
「決める番だ」
ジョーカーが。
王を見る。
そして。
笑う。
「承知しました」
二人は。
王都へと。
歩き出した。




