66話「何も持たない男」
翌朝。
王城。
王弟が。
荷物をまとめている。
着替え。
剣。
僅かな金。
それだけ。
「…………」
部屋を。
見渡す。
王弟として。
過ごした部屋。
今日で。
最後だった。
◇
城門。
王弟が。
歩いてくる。
その先に。
二頭の馬。
そして。
ガレス。
「…………」
「何をしている」
「待ってた」
「なぜだ」
「一緒に行く」
「…………」
王弟が。
ガレスを見る。
「これは」
「私の罰だ」
「お前には」
「関係ない」
「あるだろ」
ガレスが。
馬を差し出す。
「俺も」
「お前と一緒に」
「戦った」
「お前と一緒に」
「間違えた」
「…………」
「だったら」
「最後まで」
「付き合う」
王弟が。
少し笑う。
「勝手な奴だ」
「今さらだろ」
二人が。
馬へ乗る。
「行くぞ」
「殿下」
「…………」
ガレスが。
止まる。
「……あ」
王弟が。
振り返る。
「もう」
「殿下じゃねえのか」
「そうだな」
「じゃあ」
「なんて呼べばいい?」
「…………」
少し。
考える。
「レオン」
「…………」
「私の名前だ」
ガレスが。
目を丸くする。
そして。
笑う。
「そういや」
「名前で呼んだこと」
「なかったな」
「ああ」
「行くぞ」
「レオン」
「…………」
王弟ではない。
ただの男が。
少し笑う。
「ああ」
◇
二人が。
王都を出ていく。
向かう先は。
戦争で。
傷ついた土地。
かつて。
歓声を背に。
戦場へ向かった男が。
今度は。
自分が残したものを。
見るために。
進んでいく。
◇
城壁の上。
王が。
二人を見送っている。
隣には。
ジョーカー。
「あいつは」
「何を見つけるだろうな」
「さあ」
ジョーカーも。
遠ざかる二人を見る。
「ですが」
「少し」
「羨ましいのでは?」
「…………」
「余が?」
「ええ」
ジョーカーが。
笑う。
「王冠も」
「地位も」
「何もなくなった」
「だからこそ」
「今度は」
「自分だけの答えを」
「探しに行ける」
「…………」
王が。
弟の背中を見る。
「……そうだな」
ジョーカーが。
小さく笑う。
「何も持たない者だけができる」
「随分と」
「贅沢な旅ですね」
二人の姿が。
やがて。
見えなくなった。




