63話「敗者の意地」
大国軍。
陣営。
二騎の馬が。
近づいてくる。
「止まれ!」
兵士たちが。
槍を構える。
「…………」
「王弟……?」
「なぜここに……」
王弟が。
馬を降りる。
その隣に。
ガレス。
「将軍に」
「伝えてくれ」
「戦争を」
「終わらせに来た」
◇
天幕。
大国の将軍が。
王弟を見る。
「まさか」
「自分から戻ってくるとはな」
「…………」
「何の用だ」
「停戦を」
「申し入れたい」
「降伏か?」
「ああ」
王弟が。
まっすぐ。
将軍を見る。
「王国の敗北を」
「認める」
「占領した土地は」
「すべて返還する」
「賠償にも」
「応じる」
「…………」
将軍が。
口を開く。
「王国軍の」
「武装解除もだ」
「それは」
「受け入れられない」
「…………」
空気が。
変わる。
「敗者が」
「条件を選べると?」
「思っていない」
「だが」
「国を守る力まで」
「手放すつもりはない」
「…………」
王弟が。
続ける。
「私は」
「力を求めすぎた」
「強ければ」
「国を守れると」
「そう思っていた」
「…………」
「その結果」
「多くの者を」
「死なせた」
王弟が。
拳を握る。
「だが」
「国を守る力まで」
「必要ないとは」
「今でも思わない」
「…………」
将軍は。
黙っている。
「この戦争を」
「始めたのは」
「私だ」
「責任が必要なら」
「私が取る」
「捕らえるなら」
「構わない」
「殺すというなら」
「それも受け入れる」
「…………」
ガレスが。
黙って。
王弟を見る。
「ただし」
王弟が。
顔を上げる。
「兵と」
「民の安全は」
「保証してくれ」
「そして」
「王国の武装解除は」
「受け入れられない」
「…………」
長い。
沈黙。
将軍が。
王弟を見る。
国を奪い。
戦争を始め。
自分たちに敗れ。
捕虜となり。
それでも。
自ら戻ってきた男。
「…………」
「自分の命より」
「国の武器か」
「ああ」
「私が死ぬだけなら」
「一人で済む」
「だが」
「国が弱くなれば」
「次に死ぬのは」
「私ではない」
「…………」
将軍が。
小さく笑う。
「敗者のくせに」
「随分と」
「注文が多いな」
「すまない」
「だが」
「譲れない」
「…………」
将軍が。
目を閉じる。
この戦争で。
大国もまた。
多くの兵を失った。
そして。
目の前の敗者は。
逃げずに。
戻ってきた。
「…………」
「いいだろう」
王弟が。
顔を上げる。
「停戦を」
「受け入れる」
「武装解除も」
「求めない」
「…………」
「二度と」
「我が国へ」
「攻め込むな」
王弟が。
深く。
頭を下げる。
「ああ」
「約束する」
◇
天幕を出る。
王弟と。
ガレス。
しばらく。
二人は。
黙って歩く。
「…………」
ガレスが。
口を開く。
「終わったな」
王弟が。
足を止める。
振り返る。
かつて。
勝つために。
進み続けた道。
「…………」
「ああ」
王弟が。
前を向く。
「帰ろう」
「おう」
二人は。
歩き出した。
勝って。
終わらせることは。
できなかった。
だから。
負けることで。
終わらせた。




