60話「迎え」
森の中。
王弟を乗せた馬車が。
街道を進む。
「…………」
護送兵が。
周囲を警戒する。
その時。
ヒュッ。
一本の矢が。
兵の足元へ刺さる。
「……!」
次の瞬間。
無数の矢が。
森から降り注いだ。
「敵襲!!」
「盾を構えろ!」
「馬車を守れ!」
馬が暴れる。
隊列が。
崩れる。
「どこからだ!」
「森だ!」
「左右を警戒しろ!」
その混乱の中。
地面が。
揺れ始める。
ドドドドド――
「…………?」
一人の兵が。
前を見る。
森の奥から。
兵が。
次々と現れる。
その先頭。
大剣を担いだ男。
「…………!」
「ガレスだ!」
「ガレス軍だ!!」
ガレスが。
剣を抜く。
「行くぞ!!」
「殿下を」
「取り返す!!」
「おおおおお!!」
ガレス軍が。
一斉に突撃する。
◇
「前方へ兵を回せ!」
「ガレスを馬車へ近づけるな!」
護送兵たちが。
次々と。
前方へ集まる。
ガレスが。
その中心へ。
飛び込む。
「止めろ!!」
「囲め!」
一人。
二人。
ガレスの剣が。
兵を薙ぎ払う。
さらに。
兵が集まる。
「もっと回せ!」
「ここを抜かれたら馬車まで来るぞ!」
「…………」
ガレスが。
笑う。
「そうだ」
剣を。
構える。
「もっと来い」
◇
街道の反対側。
森の中。
ジョーカーが。
戦場を見る。
「随分と」
「人気者ですね」
スペードが。
剣を抜く。
「頃合いだ」
「ええ」
ジョーカーが。
馬車を見る。
護衛の多くは。
ガレス軍へ向いている。
残っている兵は。
わずか。
「では」
「参りましょう」
スペードが。
手を上げる。
「行くぞ」
森から。
スペード軍が。
飛び出す。
「なっ――」
「反対側にも敵!」
「スペード軍です!!」
「馬車を守れ!」
スペードが。
先頭を走る。
剣が。
護衛の一人を弾く。
「王!」
「ああ!」
王が。
その横を抜ける。
「ジョーカー!」
「はいはい」
「私も」
「走るのですか」
「早く来い!」
「王使いの荒い」
「国王陛下ですね」
◇
馬車の中。
王弟が。
顔を上げる。
外から。
聞こえてくる。
怒号。
剣戟。
そして。
「ガレスを止めろ!!」
「…………!」
王弟が。
立ち上がる。
「ガレス……?」
続いて。
「スペード軍だ!」
「反対側から来るぞ!」
「…………」
王弟の表情が。
変わる。
「なぜ……」
◇
「馬車を動かせ!」
御者が。
手綱を握る。
だが。
目の前へ。
スペードが。
降り立つ。
「悪いが」
「ここまでだ」
「スペード……!」
周囲の兵が。
スペードへ向かう。
「王!」
「行け!」
「ああ!」
王が。
馬車へ走る。
一人の兵が。
立ちはだかる。
その足元へ。
何かが転がる。
「……?」
ボンッ!
煙が。
広がる。
「なっ――!」
煙の向こうから。
ジョーカー。
「申し訳ありません」
「少々」
「道をお借りします」
「行け!」
王が。
煙を抜ける。
馬車へ。
手をかける。
扉を。
開いた。
「…………」
王弟が。
顔を上げる。
「…………」
二人の目が。
合う。
「……兄上?」
「ああ」
王弟が。
兄を見る。
「なぜ……」
「私は」
「あなたから」
「国を奪った」
「知っている」
「殺そうともした」
「知っている」
「なら」
「なぜ……」
「…………」
王が。
手を伸ばす。
「話は」
「まずここを抜けてからだ」
「…………」
王弟が。
差し出された手を見る。
外では。
ガレスが。
大国兵を引きつけている。
スペードが。
退路を守っている。
ジョーカーが。
こちらを見ている。
「…………」
王弟が。
ゆっくりと。
手を伸ばす。
その手を。
兄が。
掴んだ。
「行くぞ」
「…………」
「ああ」
王弟が。
馬車を降りる。
◇
遠く。
ガレスが。
それを見る。
「…………」
ニッと。
笑う。
「よし」
剣を。
振り抜く。
「殿下は」
「返してもらった!」
「全軍!」
「退くぞ!!」
スペードも。
剣を構えたまま。
後退する。
「退路を開けろ!」
「はっ!」
王と。
王弟が。
並んで走る。
その後ろを。
ジョーカーが追う。
王弟が。
兄の背中を見る。
「…………」
聞きたいことは。
いくらでもある。
だが。
今は。
王弟も。
剣の代わりに。
兄の手を。
強く握った。




