54話「最後まで」
王国軍本陣。
「敵襲!」
「後方からです!」
大国軍が。
一気に。
本陣へ雪崩れ込んだ。
「迎え撃て!」
王国兵が。
剣を抜く。
激突。
怒号と。
金属音が。
本陣を埋め尽くした。
王弟も。
剣を抜く。
迫る敵兵の一撃を。
受け止める。
弾き。
斬り伏せた。
「押し返せ!」
だが。
敵は。
次々と押し寄せる。
一人。
また一人。
王国兵が倒れる。
王弟たちは。
少しずつ。
本陣中央へ。
追い詰められていった。
◇
「どけえええ!」
ガレスが。
敵兵を薙ぎ倒す。
「本陣へ戻るぞ!」
だが。
行く先には。
大国軍。
右も。
左も。
塞がれている。
一人倒せば。
次が来る。
二人倒しても。
また塞がれる。
「チッ……!」
ガレスが。
武器を振り抜く。
そして。
気づいた。
敵は。
自分を倒そうとしているのではない。
ここから。
動かさないために。
戦っている。
「最初から……」
「そこまで込みかよ」
◇
王国本陣。
王弟たちは。
完全に包囲されていた。
「止まれ」
声が響く。
大国兵が。
剣を止めた。
その間を。
将軍が。
歩いてくる。
「王弟殿下」
「武器を置け」
「降伏するなら」
「残った兵の命は」
「保証する」
「…………」
王弟は。
周囲を見る。
傷ついた兵。
血に濡れた近衛兵。
そして。
地面に倒れた。
多くの仲間たち。
「聞いたな」
王弟が。
兵たちを見る。
「武器を置け」
「殿下も」
「降伏されるのですか?」
「いや」
王弟が。
剣を握り直した。
「この戦争を」
「始めたのは私だ」
「ここまで」
「多くの者が」
「戦場で散った」
「その者たちのためにも」
「私は」
「一人でも」
「最後まで戦う」
「お前たちは」
「もう十分だ」
「行け」
「…………」
誰も。
動かなかった。
一人。
また一人。
近衛兵たちが。
王弟の隣へ並ぶ。
「…………」
王弟は。
何も言わない。
ただ。
剣を構えた。
近衛兵たちも。
それに続く。
大国の将軍が。
静かに。
剣を上げた。
「進め」
◇
「おおおおお!」
王弟が。
敵軍へ飛び込む。
一人。
斬り倒す。
返す剣で。
もう一人。
近衛兵たちも。
その後に続く。
だが。
数が違う。
一人。
また一人。
王弟の隣から。
兵が消えていく。
「殿下!」
声に。
振り返る。
見慣れた近衛兵が。
王弟の目の前で。
倒れた。
「…………」
名前を。
知っている。
顔も。
知っている。
これまで。
報告書で見てきた。
死者という数字。
その一人一人にも。
名前があった。
「…………!」
王弟が。
再び。
剣を振る。
一人。
また一人。
それでも。
敵は減らない。
やがて。
王弟の周囲から。
味方の声が。
消えた。
「…………」
立っているのは。
王弟。
一人。
鎧は裂け。
全身から。
血が流れている。
呼吸も。
荒い。
それでも。
剣を構えた。
「来い」
大国兵が。
一斉に。
襲いかかる。
王弟が。
一人を斬る。
もう一人の剣を。
受け止める。
だが。
背後から。
腕を掴まれた。
「離せ!」
振りほどく。
別の兵が。
身体へ飛びつく。
一人。
二人。
三人。
それでも。
王弟は。
剣を離さない。
やがて。
何人もの兵に。
地面へ。
押さえつけられた。
剣が。
手を離れる。
「…………」
王弟が。
手を伸ばす。
あと少し。
指先が。
剣へ届く。
だが。
その腕を。
踏みつけられた。
「……まだ」
王弟が。
顔を上げる。
「終わって……」
声が。
途切れた。
視界が。
ゆっくりと。
暗くなる。
最後に見えたのは。
地面に転がる。
自分の剣だった。




