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王の愚者  作者: クロワ
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53/107

53話「開戦」

「止まれ!」


 夜の国境。


 王国兵が。


 弓を構える。


 その先には。


 一人の大国兵。


「それ以上」


「近づくな!」


 大国兵も。


 武器へ手を伸ばした。


 そして。


 一本の矢が。


 国境を越えた。


「敵襲!」


「撃たれたぞ!」


「反撃しろ!」


「待て!」


「撃つな!」


 一本だった矢は。


 すぐに。


 数十本へ増えた。


 誰が。


 最初だったのか。


 その答えは。


 怒号の中へ。


 消えていった。


 ◇


 夜明け。


「死者十二」


「負傷者三十一」


 王弟は。


 報告書を見る。


「誰が」


「先に撃った?」


「…………」


「分かりません」


 ほどなく。


 大国から。


 最後の通告が届いた。


『直ちに軍を退け』


『応じなければ』


『敵対行為とみなす』


「…………」


 ここで退けば。


 まだ。


 終われる。


 王弟にも。


 分かっていた。


 だが。


 すでに。


 兵は死んでいる。


 そして。


 力ある国に。


 言われたから退くのなら。


 何のために。


 ここまで強くなったのか。


「ガレス」


「何だ」


「軍を」


「前へ」


 ガレスが。


 王弟を見る。


「決めたんだな?」


「ああ」


「分かった」


 ◇


 朝日が。


 国境を照らす。


「大国が何だ!」


「俺たちは」


「ここまで勝ってきた!」


「今回も勝つぞ!」


「おおおおお!」


 二つの軍が。


 激突した。


 その先頭に。


 ガレスはいた。


「押せえええ!」


 剣を弾く。


 一人。


 薙ぎ倒す。


 さらに。


 前へ。


「将軍!」


「前に出すぎです!」


「だったら!」


 ガレスが。


 笑う。


「ついてこい!」


「おおおおお!」


 ガレスが進む。


 兵が続く。


「敵将だ!」


「囲め!」


 大国兵が。


 次々と集まる。


「いいねえ」


「大国ってのは」


「これくらいじゃねえとな!」


 ガレスが。


 その中心へ飛び込んだ。


 ◇


「前衛!」


「突破されました!」


 大国本陣。


「敵将ガレスが」


「自ら先頭に立っています!」


「…………」


 将軍が。


 遠くを見る。


 敵陣を。


 次々と押し崩す男。


「思ったより」


「やるな」


「増援を?」


「いや」


 将軍が。


 僅かに笑う。


「下がれ」


「……は?」


「あの男が」


「進みたいと言っている」


「なら」


「進ませてやれ」


 ◇


「敵が退いたぞ!」


「押せ!」


 ガレスは。


 止まらない。


 敵が下がる。


 ガレスが進む。


 その背中を。


 王国軍が追う。


「ガレス将軍!」


「敵本陣です!」


 丘の向こう。


 無数の旗が。


 見えた。


「ようやくか」


 ガレスが。


 武器を担ぐ。


「行くぞ!」


「敵将の首!」


「取って帰るぞ!」


「おおおおお!」


 王国軍が。


 敵本陣へ。


 雪崩れ込む。


 だが。


「…………」


 静かだった。


「将軍」


「誰も」


「いません」


「何?」


 天幕を開く。


 空。


 隣も。


 空。


 風に。


 無数の旗だけが。


 揺れていた。


「…………」


 ガレスの笑みが。


 消える。


「そういうことかよ」


 その時。


 一騎の伝令が。


 駆け込んできた。


「ガレス将軍!」


「敵の本隊が!」


「どうした!」


「我が本陣へ!」


「何だと?」


 ガレスが。


 振り返る。


 遥か後方。


 王弟のいる本陣から。


 黒煙が。


 上がっていた。


 敵は。


 ガレスに。


 負けていたのではない。


 ガレスを。


 前へ。


 進ませていた。



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