53話「開戦」
「止まれ!」
夜の国境。
王国兵が。
弓を構える。
その先には。
一人の大国兵。
「それ以上」
「近づくな!」
大国兵も。
武器へ手を伸ばした。
そして。
一本の矢が。
国境を越えた。
「敵襲!」
「撃たれたぞ!」
「反撃しろ!」
「待て!」
「撃つな!」
一本だった矢は。
すぐに。
数十本へ増えた。
誰が。
最初だったのか。
その答えは。
怒号の中へ。
消えていった。
◇
夜明け。
「死者十二」
「負傷者三十一」
王弟は。
報告書を見る。
「誰が」
「先に撃った?」
「…………」
「分かりません」
ほどなく。
大国から。
最後の通告が届いた。
『直ちに軍を退け』
『応じなければ』
『敵対行為とみなす』
「…………」
ここで退けば。
まだ。
終われる。
王弟にも。
分かっていた。
だが。
すでに。
兵は死んでいる。
そして。
力ある国に。
言われたから退くのなら。
何のために。
ここまで強くなったのか。
「ガレス」
「何だ」
「軍を」
「前へ」
ガレスが。
王弟を見る。
「決めたんだな?」
「ああ」
「分かった」
◇
朝日が。
国境を照らす。
「大国が何だ!」
「俺たちは」
「ここまで勝ってきた!」
「今回も勝つぞ!」
「おおおおお!」
二つの軍が。
激突した。
その先頭に。
ガレスはいた。
「押せえええ!」
剣を弾く。
一人。
薙ぎ倒す。
さらに。
前へ。
「将軍!」
「前に出すぎです!」
「だったら!」
ガレスが。
笑う。
「ついてこい!」
「おおおおお!」
ガレスが進む。
兵が続く。
「敵将だ!」
「囲め!」
大国兵が。
次々と集まる。
「いいねえ」
「大国ってのは」
「これくらいじゃねえとな!」
ガレスが。
その中心へ飛び込んだ。
◇
「前衛!」
「突破されました!」
大国本陣。
「敵将ガレスが」
「自ら先頭に立っています!」
「…………」
将軍が。
遠くを見る。
敵陣を。
次々と押し崩す男。
「思ったより」
「やるな」
「増援を?」
「いや」
将軍が。
僅かに笑う。
「下がれ」
「……は?」
「あの男が」
「進みたいと言っている」
「なら」
「進ませてやれ」
◇
「敵が退いたぞ!」
「押せ!」
ガレスは。
止まらない。
敵が下がる。
ガレスが進む。
その背中を。
王国軍が追う。
「ガレス将軍!」
「敵本陣です!」
丘の向こう。
無数の旗が。
見えた。
「ようやくか」
ガレスが。
武器を担ぐ。
「行くぞ!」
「敵将の首!」
「取って帰るぞ!」
「おおおおお!」
王国軍が。
敵本陣へ。
雪崩れ込む。
だが。
「…………」
静かだった。
「将軍」
「誰も」
「いません」
「何?」
天幕を開く。
空。
隣も。
空。
風に。
無数の旗だけが。
揺れていた。
「…………」
ガレスの笑みが。
消える。
「そういうことかよ」
その時。
一騎の伝令が。
駆け込んできた。
「ガレス将軍!」
「敵の本隊が!」
「どうした!」
「我が本陣へ!」
「何だと?」
ガレスが。
振り返る。
遥か後方。
王弟のいる本陣から。
黒煙が。
上がっていた。
敵は。
ガレスに。
負けていたのではない。
ガレスを。
前へ。
進ませていた。




