52話「剣を置くもの」
国境。
丘の向こうから。
大国軍が姿を現した。
歩兵。
騎兵。
攻城兵器。
その列は。
どこまでも続いている。
「…………多いな」
王国兵の一人が呟く。
「だから何だ」
「俺たちは」
「ここまで負けてない」
「…………」
「今回も勝つ」
そう言いながら。
誰も。
目の前の軍勢から。
目を離せなかった。
◇
国境を挟み。
王弟と。
大国の将軍が向かい合う。
「見事な軍だ」
「以前の王国とは」
「別物らしい」
「なら」
「我々の戦争に」
「口を出さないでもらいたい」
「だからこそだ」
将軍が。
王弟を見る。
「弱い国が勝っても」
「地図は変わらない」
「だが」
「勝ち続ける国は」
「周囲の地図を変える」
「我々に」
「貴国を脅かす意思はない」
「…………」
「それを」
「信じろと?」
「…………」
王弟は。
答えなかった。
相手が。
いつ剣を向けてくるか。
分からない。
だから。
力が必要だ。
それは。
王弟自身が。
ずっと語ってきたことだった。
◇
その頃。
王たちも。
国境近くへ到着していた。
丘の上から。
二つの軍を眺める。
「どちらも」
「戦争をしたくないのだろう?」
「ええ」
「なのに」
「なぜ」
「こんなことになった?」
「簡単ですよ」
ジョーカーが。
両軍を見る。
「誰も」
「先に剣を置きたくないからです」
「なぜだ?」
「平和を」
「望んでおりますので」
「…………」
「丸腰では」
「危険でしょう?」
「…………」
王は。
何も言えなかった。
「陛下」
スペードが。
両軍を見ながら呟く。
「ここは」
「危険です」
「まだ」
「戦争は始まっていないぞ」
「だからです」
「…………」
「これだけの兵が」
「武器を持って」
「向かい合っている」
「誰か一人が」
「間違えれば」
「始まります」
◇
夜。
国境を挟んで。
二つの軍が野営していた。
両軍には。
命令が出ている。
攻撃するな。
挑発するな。
決して。
先に手を出すな。
それでも。
暗闇の中。
一人の王国兵が。
人影を見つけた。
「止まれ!」
大国の兵士だった。
「それ以上」
「近づくな!」
だが。
相手は止まらない。
王国兵が。
弓を構える。
大国兵も。
武器へ手を伸ばした。
「止まれ!」
弦が。
ゆっくりと。
引かれる。
誰も。
戦争を。
始めたいわけではなかった。
ただ。
誰も。
先に剣を。
置けなかった。




