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王の愚者  作者: クロワ
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50話「怖いもの知らず」

進軍を続けた王国軍は。


 また勝った。


『王国軍――敵要塞を攻略』


『敵国、さらなる譲歩へ』


 王弟の選択は。


 結果だけを見れば。


 正しかった。


「また勝ったぞ!」


「俺たちは強い!」


「王弟殿下万歳!」


 勝利に沸く王国へ。


 一人の使者が訪れた。


 東方の大国。


 これまで。


 王国など。


 相手にもしていなかった国だった。


 ◇


「貴国の勝利を」


「心よりお祝い申し上げます」


「ですが」


「これ以上の進軍は」


「周辺地域の安定を」


「損なう恐れがございます」


「…………」


 王弟が。


 使者を見る。


「つまり?」


「進軍を」


「停止していただきたい」


「これは」


「我が国と敵国の戦争だ」


「承知しております」


 使者は。


 微笑んだ。


「我が国も」


「平和を」


「大切にしておりますので」


「…………」


 その言葉に。


 王弟の表情が。


 僅かに曇った。


 ◇


 使者が去った後。


 王弟は。


 地図を見る。


「ガレス」


「あの国と戦えば?」


「戦力は」


「向こうが上だ」


「勝てないか?」


「さあな」


 ガレスが笑う。


「戦争なんざ」


「やってみねえと分からねえよ」


「…………」


「勝てる可能性と」


「戦う価値があるかは」


「別問題です」


 ダイヤが言う。


「そもそも」


 ハートが続ける。


「なぜ」


「戦う前提で」


「話しているのです?」


 王弟は。


 答えなかった。


 ◇


 大国からの要求は。


 すぐに国中へ広まった。


「大国が何だ!」


「俺たちは」


「負けてないんだぞ!」


「向こうが怖がってるから」


「止めろと言ってるんだ!」


 兵士たちも。


 同じだった。


「俺たちならやれる!」


「今までだって」


「そうだっただろ!」


 勝利するたび。


 恐怖は。


 小さくなっていった。


 いや。


 恐怖そのものが。


 見えなくなっていた。


 ◇


 北部。


 王は。


 新聞を眺めていた。


『大国からの要求に屈するな』


『我らはもはや弱国ではない』


「皆」


「随分と勇敢になったな」


「ええ」


「勝ち続けましたから」


「自信がついたのでしょう」


「良いことではないのか?」


「もちろんです」


 ジョーカーが。


 笑う。


「自信とは」


「素晴らしいものです」


「…………」


「時には」


「恐怖まで」


「見えなくしてくれますから」


「それを」


「勇気と言うのではないか?」


「さて」


 ジョーカーが。


 新聞を折り畳む。


「怖いものを知っていて」


「それでも進む者と」


「…………」


「怖いものが見えずに」


「進む者を」


「同じ勇者と」


「呼んでよいのでしょうか」


「…………」


 王は。


 何も答えなかった。


 王国は。


 弱かった。


 だから。


 恐れていた。


 王国は。


 強くなった。


 だから。


 恐れなくなった。


 だが。


 勇気とは。


 恐怖を知らないことではない。


 その違いを。


 王国はまだ。


 知らなかった。

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