49話「民の望む道」
敵国から。
停戦の申し入れが届いた。
要求の撤回。
不可侵。
賠償。
王弟が望んでいたものは。
すでに。
ほとんど手に入っていた。
「で」
ガレスが尋ねる。
「どうする?」
「…………」
王弟は。
停戦文書を見る。
ここで。
終わることもできる。
その時。
窓の外から。
声が響いた。
「進軍を!」
「王弟殿下万歳!」
「我らの英雄!」
「…………」
王弟は。
目を閉じた。
◇
幼い頃。
何度も読んだ。
英雄の物語。
敵を破り。
国を救い。
民衆の歓声を浴びる英雄。
「父上」
「僕もいつか」
「こんな英雄になれますか?」
あの頃。
物語の中にしかなかった歓声が。
今は。
自分の名を呼んでいる。
◇
「進軍する」
ハートが。
僅かに目を伏せた。
ダイヤは。
黙って王弟を見る。
「次の要塞まで進む」
「そこで勝てば」
「さらに有利な条件を」
「引き出せる」
「我が国の力も」
「より確実に示せる」
「…………」
「何より」
王弟が。
窓の外を見る。
「民が」
「それを望んでいる」
誰も。
答えなかった。
「私は」
「民のために」
「この戦争を始めた」
「なら」
「民が望む道を」
「進むことは」
「…………」
「間違っていない」
その言葉は。
三人にではなく。
自分自身に。
言い聞かせているようにも聞こえた。
「次で」
「終わらせる」
「…………」
ガレスが。
王弟を見る。
「そうか」
それ以上。
何も言わなかった。
◇
進軍続行が。
発表された。
「王弟殿下万歳!」
「英雄!」
「英雄!」
王弟は。
その歓声を聞いていた。
国のため。
民のため。
より強い国にするため。
理由なら。
いくつもあった。
それでも。
その歓声を。
心地よいと思う自分も。
確かにいた。
◇
数日後。
北部。
『王国軍――進軍続行』
『王弟殿下、停戦を見送り』
「…………」
王は。
新聞を見る。
「進むことを」
「選んだか」
「そのようですね」
「民の望む道を」
「ええ」
ジョーカーが。
新聞を覗き込む。
「良い王なのかもしれませんね」
「皮肉か?」
「まさか」
「民の声を聞き」
「民の望む道を進む」
「…………」
「陛下が」
「ずっとなりたかった王ではありませんか」
「…………」
王は。
新聞へ目を落とす。
「余は」
「あんな王に」
「なりたかったのか?」
「さあ」
ジョーカーは。
新聞を折り畳んだ。
「ただ」
「なりたい王と」
「ならなければならない王は」
「どうやら」
「同じではないようですね」
王は。
何も答えなかった。
弟は。
民の望む道を選んだ。
なら。
自分は。
どの道を。
選ぶべきなのだろうか。




