↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の愚者  作者: クロワ
PR
44/106

44話「花の無い場所」

王都を離れた軍は。


 北へ。


 国境へと進んでいた。


 王都では。


 花が舞っていた。


 歓声があった。


 誰もが。


 兵士たちを英雄と呼んだ。


 だが。


 国境へ近づくほど。


 道を行く人々の向きは。


 逆になっていった。


「…………」


 王たちの横を。


 荷車が通り過ぎる。


 家財道具。


 食糧。


 毛布。


 その隙間に。


 幼い子供たちが座っていた。


「避難民か」


 スペードが呟く。


「ああ」


 王が。


 街道の先を見る。


 南へ向かう人々。


 北へ向かう兵士。


 二つの列が。


 すれ違っていた。


「花がありませんね」


 ジョーカーが言った。


「何?」


「王都では」


「あれほど兵士に」


「投げておられたのに」


「…………」


「ここまで来ると」


「皆さん」


「花より荷物を持つのに」


「忙しいようです」


 王は。


 何も言わなかった。


 ◇


「待ってくれ!」


 一台の荷車が。


 ぬかるみに嵌まっていた。


 王とスペードが。


 車輪を押す。


「せーの!」


 車輪が。


 泥から抜ける。


「助かった」


 男が。


 頭を下げた。


「どこへ行く?」


「南だ」


「戦争になるんだろ?」


 男の後ろには。


 妻と。


 二人の子供がいた。


「王弟殿下の戦争に」


「反対なのか?」


「いや」


 男は。


 首を振った。


「あんな要求されたら」


「俺だって腹が立つ」


「…………」


「じゃあ」


「なぜ逃げる?」


 男は。


 少し考えた。


「そりゃ」


「正しい戦争でも」


「矢は避けてくれねえからな」


「…………」


「俺には」


「国のことなんて分からねえ」


「でも」


 男が。


 荷車の子供を見る。


「こいつらを守ることくらいは」


「分かる」


 男は。


 荷車を引いていった。


 王は。


 その背中を見ていた。


「正しい戦争でも」


「矢は避けてくれない……か」


「賢い方ですね」


 ジョーカーが言った。


「そうだな」


「戦争について」


「一番よくご存じなのは」


「…………」


「戦争から逃げている方なのかもしれません」


 ◇


 同じ頃。


 王都。


 王弟は。


 出征の準備を終えていた。


「殿下」


 ダイヤが。


 一冊の帳簿を差し出す。


「何だ?」


「戦費です」


「…………」


「兵糧」


「武器」


「馬」


「輸送」


「負傷兵の治療」


「戦死者への補償」


 王弟が。


 帳簿を見る。


「高いな」


「戦争ですから」


「…………」


「一月です」


「何?」


「この規模で」


「私が許容できるのは」


「一月までです」


「一月を超えれば?」


「勝っても」


「国が貧しくなります」


「…………」


「戦争とは」


「勝利にも」


「随分と金がかかるらしい」


「敗北よりは」


「安く済みます」


「相変わらずだな」


「財務卿ですので」


 王弟は。


 帳簿を返した。


「一月もかけない」


「その言葉」


「帳簿に書いておきましょうか?」


「やめろ」


 ◇


 王宮を出る直前。


「殿下」


 ハートが。


 王弟を呼び止めた。


「何だ」


「勝ってください」


「…………」


 王弟が。


 少し驚く。


「戦争には」


「反対ではなかったか?」


「反対です」


「なら」


「なぜ勝てと?」


「始めると決めた以上」


「負ければ」


「さらに多くの人が死にます」


「…………」


「ですから」


「勝ってください」


 ハートが。


 静かに続ける。


「そして」


「できるだけ」


「敵も殺さずに」


「無茶を言う」


「ええ」


 ハートが。


 微笑んだ。


「私は」


「そういう仕事ですので」


「…………」


 王弟は。


 少しだけ笑った。


「努力する」


「神に祈っております」


「私ではなく」


「兵たちに祈ってやってくれ」


「勝利を?」


「違う」


 王弟は。


 歩き出す。


「生きて帰れるようにだ」


 ハートは。


 その背中を見送った。


 ◇


 数日後。


 国境。


 王国軍が。


 平原へ到着した。


 数千の兵。


 槍が並び。


 旗が風に揺れる。


 その向こう。


 隣国軍も。


 すでに布陣していた。


「…………」


 王都で。


 笑っていた兵士たちは。


 誰も笑っていなかった。


 一人の若い兵士が。


 槍を握っている。


 手が。


 震えていた。


「怖いか?」


 ガレスが尋ねる。


「…………はい」


「そうか」


「申し訳ありません」


「何で謝る?」


「兵士なのに」


「怖くて……」


「馬鹿野郎」


 ガレスが。


 兵士の肩を叩く。


「怖くねえ奴から」


「先に死ぬ」


「…………」


「怖いなら」


「生きて帰ろうとしろ」


「はい!」


 ガレスは。


 王弟の隣へ戻る。


 目の前には。


 敵軍。


「これが」


「お前の欲しかった戦争か」


「違う」


「何?」


「欲しかったのは」


「この後だ」


「…………」


 王弟が。


 敵軍を見る。


「この戦争が終わった後」


「誰も」


「我が国に」


「剣を向けなくなる」


「本当に」


「そうなると思うか?」


「…………」


「そうする」


 王弟は。


 剣を抜いた。


 王都では。


 花が舞っていた。


 ここには。


 花はない。


 歓声もない。


 あるのは。


 槍と。


 剣と。


 人だけだった。


 王弟が。


 剣を前へ向ける。


「全軍」


 兵士たちが。


 武器を構える。


「前進」


 地面が。


 揺れ始める。


 戦争は。


 ようやく。


 美しくなくなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。