42話「平和的な要求」
王都。
王宮に。
一人の使節が訪れていた。
「まずは」
「国王陛下のご無事を」
「心よりお祈り申し上げます」
「…………」
王弟は。
黙って使節を見る。
「それで?」
「本題は何だ」
「では」
「率直に」
使節が。
一枚の書状を差し出した。
「先日の国境での襲撃」
「我が国としても」
「大変憂慮しております」
「…………」
「国王陛下すら襲撃を受けた現在」
「貴国の国境警備には」
「不安が残ります」
「何が言いたい」
「両国の平和のため」
「いくつか提案がございます」
王弟が。
書状を見る。
一つ。
国境にある砦の共同管理。
二つ。
治安維持を目的とした。
隣国軍の王国領内への駐留。
そして。
三つ。
警備費用の一部として。
国境付近にある鉱山の採掘権を。
隣国にも認めること。
「…………」
王弟が。
顔を上げる。
「つまり」
「我が国の土地に」
「お前たちの兵を置き」
「我が国の鉱山を」
「お前たちが掘ると?」
「誤解なさらぬよう」
使節は。
微笑んだ。
「全ては」
「両国の平和のためです」
「…………」
「便利な言葉ですね」
ダイヤだった。
「何がでしょう?」
「奪うことを」
「守ると言い換えられる」
「財務卿」
「これは奪うのではありません」
「共同管理です」
「なるほど」
ダイヤが。
書状を見る。
「半分いただくことを」
「半分守ってあげると」
「言い換えられるわけですか」
「…………」
使節の笑みが。
僅かに消えた。
「現在の貴国にとっても」
「悪い条件ではないかと」
「…………」
王弟は。
その言葉を聞いて。
ようやく理解した。
国王はいない。
大将軍もいない。
近衛騎士団も壊滅した。
だから。
この国は。
戦争をちらつかせれば。
譲ると思われている。
「全て断る」
「…………」
「お考え直しを」
「必要ない」
「これは」
「平和的な要求です」
「そうか」
王弟が。
僅かに笑った。
「なら」
「平和とは」
「随分と安い言葉になったものだな」
◇
使節が去った後。
王弟は。
ダイヤを見る。
「どう思う?」
「国益になりません」
「即答か」
「我が国の土地と資源を渡し」
「相手国の兵まで招く」
「…………」
「それを利益と呼ぶほど」
「私は計算が苦手ではありません」
「なら」
「戦争の方が得か?」
「…………」
ダイヤが。
少し考える。
「勝てるのであれば」
「計算する価値はあります」
「そうか」
「ただし」
ダイヤが。
王弟を見る。
「戦争ほど」
「予算通りにいかないものもありません」
「覚えておきます」
「ぜひ」
今度は。
ハートが口を開く。
「戦争をなさるおつもりですね」
「ああ」
「人が死にます」
「分かっている」
「未来の戦争を防ぐために」
「今」
「人を殺すのですか?」
「…………」
「そうだ」
ハートは。
静かに王弟を見る。
「平和というものは」
「随分と血を欲しがるのですね」
「弱い国の平和は」
王弟が答える。
「もっと多くを奪われる」
「…………」
「土地も」
「金も」
「最後には」
「人の命もな」
ハートは。
それ以上。
何も言わなかった。
◇
夜。
王弟とガレスは。
二人で地図を見ていた。
「やるんだな?」
「ああ」
「領土を守るためか?」
「違う」
「…………」
「まだ」
「何も奪われていない」
「なら」
「何のためだ?」
王弟の指が。
国境を越え。
隣国へ触れる。
「次の要求を」
「二度とさせないためだ」
「…………」
「我が国が弱いから」
「あんな要求ができる」
「なら」
「教えればいい」
「何をだ?」
「この国が」
「弱くないことを」
ガレスが。
僅かに笑った。
「どうやって?」
「一度でいい」
王弟が。
周辺諸国の並ぶ地図を見る。
「この国と戦えば」
「どうなるのか」
「全ての国に見せる」
「…………」
「それでも」
「剣を向ける国があるなら?」
「その時は」
王弟が。
ガレスを見る。
「折る」
「根元からな」
王弟は。
地図から手を離した。
「軍を動かせ」
「戦争だ」
平和を守るため。
王弟は。
戦争を始めることにした。




