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王の愚者  作者: クロワ
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42/109

42話「平和的な要求」

王都。


 王宮に。


 一人の使節が訪れていた。


「まずは」


「国王陛下のご無事を」


「心よりお祈り申し上げます」


「…………」


 王弟は。


 黙って使節を見る。


「それで?」


「本題は何だ」


「では」


「率直に」


 使節が。


 一枚の書状を差し出した。


「先日の国境での襲撃」


「我が国としても」


「大変憂慮しております」


「…………」


「国王陛下すら襲撃を受けた現在」


「貴国の国境警備には」


「不安が残ります」


「何が言いたい」


「両国の平和のため」


「いくつか提案がございます」


 王弟が。


 書状を見る。


 一つ。


 国境にある砦の共同管理。


 二つ。


 治安維持を目的とした。


 隣国軍の王国領内への駐留。


 そして。


 三つ。


 警備費用の一部として。


 国境付近にある鉱山の採掘権を。


 隣国にも認めること。


「…………」


 王弟が。


 顔を上げる。


「つまり」


「我が国の土地に」


「お前たちの兵を置き」


「我が国の鉱山を」


「お前たちが掘ると?」


「誤解なさらぬよう」


 使節は。


 微笑んだ。


「全ては」


「両国の平和のためです」


「…………」


「便利な言葉ですね」


 ダイヤだった。


「何がでしょう?」


「奪うことを」


「守ると言い換えられる」


「財務卿」


「これは奪うのではありません」


「共同管理です」


「なるほど」


 ダイヤが。


 書状を見る。


「半分いただくことを」


「半分守ってあげると」


「言い換えられるわけですか」


「…………」


 使節の笑みが。


 僅かに消えた。


「現在の貴国にとっても」


「悪い条件ではないかと」


「…………」


 王弟は。


 その言葉を聞いて。


 ようやく理解した。


 国王はいない。


 大将軍もいない。


 近衛騎士団も壊滅した。


 だから。


 この国は。


 戦争をちらつかせれば。


 譲ると思われている。


「全て断る」


「…………」


「お考え直しを」


「必要ない」


「これは」


「平和的な要求です」


「そうか」


 王弟が。


 僅かに笑った。


「なら」


「平和とは」


「随分と安い言葉になったものだな」


 ◇


 使節が去った後。


 王弟は。


 ダイヤを見る。


「どう思う?」


「国益になりません」


「即答か」


「我が国の土地と資源を渡し」


「相手国の兵まで招く」


「…………」


「それを利益と呼ぶほど」


「私は計算が苦手ではありません」


「なら」


「戦争の方が得か?」


「…………」


 ダイヤが。


 少し考える。


「勝てるのであれば」


「計算する価値はあります」


「そうか」


「ただし」


 ダイヤが。


 王弟を見る。


「戦争ほど」


「予算通りにいかないものもありません」


「覚えておきます」


「ぜひ」


 今度は。


 ハートが口を開く。


「戦争をなさるおつもりですね」


「ああ」


「人が死にます」


「分かっている」


「未来の戦争を防ぐために」


「今」


「人を殺すのですか?」


「…………」


「そうだ」


 ハートは。


 静かに王弟を見る。


「平和というものは」


「随分と血を欲しがるのですね」


「弱い国の平和は」


 王弟が答える。


「もっと多くを奪われる」


「…………」


「土地も」


「金も」


「最後には」


「人の命もな」


 ハートは。


 それ以上。


 何も言わなかった。


 ◇


 夜。


 王弟とガレスは。


 二人で地図を見ていた。


「やるんだな?」


「ああ」


「領土を守るためか?」


「違う」


「…………」


「まだ」


「何も奪われていない」


「なら」


「何のためだ?」


 王弟の指が。


 国境を越え。


 隣国へ触れる。


「次の要求を」


「二度とさせないためだ」


「…………」


「我が国が弱いから」


「あんな要求ができる」


「なら」


「教えればいい」


「何をだ?」


「この国が」


「弱くないことを」


 ガレスが。


 僅かに笑った。


「どうやって?」


「一度でいい」


 王弟が。


 周辺諸国の並ぶ地図を見る。


「この国と戦えば」


「どうなるのか」


「全ての国に見せる」


「…………」


「それでも」


「剣を向ける国があるなら?」


「その時は」


 王弟が。


 ガレスを見る。


「折る」


「根元からな」


 王弟は。


 地図から手を離した。


「軍を動かせ」


「戦争だ」


 平和を守るため。


 王弟は。


 戦争を始めることにした。


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