41話「剣の大きさ」
王たちは。
小さな村へ立ち寄った。
「…………」
村の広場では。
農民や職人たちが。
木剣を握っていた。
「構えろ!」
「腰を落とせ!」
指導しているのは。
王国兵だった。
「農民まで剣を持つのか」
王が呟く。
「平和になりましたね」
ジョーカーが笑う。
「どこがだ」
「皆さん」
「平和を守るために」
「武器を持っておられます」
「…………」
「平和というものは」
「随分と物騒な格好をしているのですね」
「相変わらずだな」
「お褒めいただき光栄です」
◇
一人の少年が。
何度も木剣を振っていた。
「なぜ剣を習う?」
「村を守るためだよ」
「誰から?」
「盗賊とか」
「敵の国とか」
「…………」
「王弟殿下が言ってたんだ」
「守りたいなら」
「守れるだけの力を持てって」
「怖くないのか?」
「怖いよ」
「でも」
少年は。
木剣を握り直した。
「何もできない方が」
「もっと怖い」
「…………」
少年は。
再び訓練へ戻った。
「…間違ってはいないな」
王が呟く。
◇
同じ頃。
王都。
王弟の前には。
王国の地図が広げられていた。
「北部の兵は?」
「集結しております」
「国境守備隊も増員を」
「よし」
一人の大臣が尋ねる。
「殿下」
「これほど兵を集めて」
「戦争を始めるおつもりですか?」
「逆だ」
「何がでしょう」
「戦争を」
「仕掛けられない国にする」
王弟が。
国境を指す。
「剣は」
「鞘に収めているだけでは」
「相手には長さが分からない」
「…………」
「一度」
「見せる必要がある」
「我が国に剣を向ければ」
「どうなるのかを」
「なるほど」
ダイヤが。
帳簿を閉じた。
「反対か?」
「いいえ」
「…………」
「軍を動かすには」
「金がかかります」
「知っている」
「兵糧」
「武器」
「馬」
「輸送」
「そして」
「死んだ兵士の家族への補償」
「…………」
ダイヤが。
王弟を見る。
「剣を見せることで」
「それ以上の損失を防げるのであれば」
「私は反対しません」
「国益になるからか」
「それ以外に」
「国が戦う理由が?」
「相変わらずだな」
「褒め言葉として」
「受け取っておきます」
「私は」
今度は。
ハートが口を開いた。
「反対です」
王弟が見る。
「なぜだ」
「剣を見せれば」
「相手は恐れるでしょう」
「それが目的だ」
「そして」
「相手も剣を持つでしょう」
「…………」
「恐怖で従わせることと」
「平和は」
「同じなのでしょうか」
「綺麗事で」
「国は守れない」
「ええ」
ハートは。
静かに頷いた。
「ですが」
「守るためなら」
「何をしてもよい国になれば」
「…………」
「最後に守られるものは」
「何なのでしょうね」
王弟は。
答えなかった。
ガレスが。
腕を組む。
「難しい話だな」
「要するに」
「一回ぶん殴って」
「次から喧嘩売られねえようにすりゃいいんだろ?」
「…………」
「品のない言い方だが」
「そういうことだ」
◇
夕暮れ。
王は。
訓練する村人たちを見ていた。
「大きな剣ですね」
ジョーカーが。
一人の兵を見る。
「あれなら」
「敵も怖がるでしょう」
「そうだな」
「では」
「もっと大きくしましょう」
「何?」
「敵が」
「もっと大きな剣を持ったら」
「こちらはさらに大きな剣を」
「…………」
「その敵が」
「さらに大きな剣を持ったら?」
王は。
黙った。
「また」
「大きくするのでしょうね」
「…………」
「大変ですね」
ジョーカーが笑う。
「平和というものは」
「随分と腕力が必要らしい」
「ジョーカー」
「はい」
「王弟の言う通りだ」
「…………」
「力は必要だ」
「そうですね」
「だが」
王は。
木剣を振る少年を見る。
「どこまで強くなれば」
「十分なんだろうな」
「…………」
「剣を長くすれば」
「相手も長くする」
「なら」
「最後には」
「どれほど長い剣になる?」
ジョーカーが。
少しだけ笑った。
「さあ」
「ですが」
「一つだけ分かります」
「何だ」
「長すぎる剣は」
一拍。
「敵を斬る前に」
「自分でも持てなくなります」
「…………」
王は。
何も答えなかった。
剣は必要だ。
王弟は。
その剣を見せようとしている。
ダイヤは。
その剣が国の利益になるかを見る。
ハートは。
その剣を振るうことが正しいのかを問う。
そして。
王はまだ。
その剣が。
どこまで長ければいいのか。
答えを持っていなかった。




