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王の愚者  作者: クロワ
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41/105

41話「剣の大きさ」

王たちは。


 小さな村へ立ち寄った。


「…………」


 村の広場では。


 農民や職人たちが。


 木剣を握っていた。


「構えろ!」


「腰を落とせ!」


 指導しているのは。


 王国兵だった。


「農民まで剣を持つのか」


 王が呟く。


「平和になりましたね」


 ジョーカーが笑う。


「どこがだ」


「皆さん」


「平和を守るために」


「武器を持っておられます」


「…………」


「平和というものは」


「随分と物騒な格好をしているのですね」


「相変わらずだな」


「お褒めいただき光栄です」


 ◇


 一人の少年が。


 何度も木剣を振っていた。


「なぜ剣を習う?」


「村を守るためだよ」


「誰から?」


「盗賊とか」


「敵の国とか」


「…………」


「王弟殿下が言ってたんだ」


「守りたいなら」


「守れるだけの力を持てって」


「怖くないのか?」


「怖いよ」


「でも」


 少年は。


 木剣を握り直した。


「何もできない方が」


「もっと怖い」


「…………」


 少年は。


 再び訓練へ戻った。


「…間違ってはいないな」


 王が呟く。



 ◇


 同じ頃。


 王都。


 王弟の前には。


 王国の地図が広げられていた。


「北部の兵は?」


「集結しております」


「国境守備隊も増員を」


「よし」


 一人の大臣が尋ねる。


「殿下」


「これほど兵を集めて」


「戦争を始めるおつもりですか?」


「逆だ」


「何がでしょう」


「戦争を」


「仕掛けられない国にする」


 王弟が。


 国境を指す。


「剣は」


「鞘に収めているだけでは」


「相手には長さが分からない」


「…………」


「一度」


「見せる必要がある」


「我が国に剣を向ければ」


「どうなるのかを」


「なるほど」


 ダイヤが。


 帳簿を閉じた。


「反対か?」


「いいえ」


「…………」


「軍を動かすには」


「金がかかります」


「知っている」


「兵糧」


「武器」


「馬」


「輸送」


「そして」


「死んだ兵士の家族への補償」


「…………」


 ダイヤが。


 王弟を見る。


「剣を見せることで」


「それ以上の損失を防げるのであれば」


「私は反対しません」


「国益になるからか」


「それ以外に」


「国が戦う理由が?」


「相変わらずだな」


「褒め言葉として」


「受け取っておきます」


「私は」


 今度は。


 ハートが口を開いた。


「反対です」


 王弟が見る。


「なぜだ」


「剣を見せれば」


「相手は恐れるでしょう」


「それが目的だ」


「そして」


「相手も剣を持つでしょう」


「…………」


「恐怖で従わせることと」


「平和は」


「同じなのでしょうか」


「綺麗事で」


「国は守れない」


「ええ」


 ハートは。


 静かに頷いた。


「ですが」


「守るためなら」


「何をしてもよい国になれば」


「…………」


「最後に守られるものは」


「何なのでしょうね」


 王弟は。


 答えなかった。


 ガレスが。


 腕を組む。


「難しい話だな」


「要するに」


「一回ぶん殴って」


「次から喧嘩売られねえようにすりゃいいんだろ?」


「…………」


「品のない言い方だが」


「そういうことだ」


 ◇


 夕暮れ。


 王は。


 訓練する村人たちを見ていた。


「大きな剣ですね」


 ジョーカーが。


 一人の兵を見る。


「あれなら」


「敵も怖がるでしょう」


「そうだな」


「では」


「もっと大きくしましょう」


「何?」


「敵が」


「もっと大きな剣を持ったら」


「こちらはさらに大きな剣を」


「…………」


「その敵が」


「さらに大きな剣を持ったら?」


 王は。


 黙った。


「また」


「大きくするのでしょうね」


「…………」


「大変ですね」


 ジョーカーが笑う。


「平和というものは」


「随分と腕力が必要らしい」


「ジョーカー」


「はい」


「王弟の言う通りだ」


「…………」


「力は必要だ」


「そうですね」


「だが」


 王は。


 木剣を振る少年を見る。


「どこまで強くなれば」


「十分なんだろうな」


「…………」


「剣を長くすれば」


「相手も長くする」


「なら」


「最後には」


「どれほど長い剣になる?」


 ジョーカーが。


 少しだけ笑った。


「さあ」


「ですが」


「一つだけ分かります」


「何だ」


「長すぎる剣は」


 一拍。


「敵を斬る前に」


「自分でも持てなくなります」


「…………」


 王は。


 何も答えなかった。


 剣は必要だ。


 王弟は。


 その剣を見せようとしている。


 ダイヤは。


 その剣が国の利益になるかを見る。


 ハートは。


 その剣を振るうことが正しいのかを問う。


 そして。


 王はまだ。


 その剣が。


 どこまで長ければいいのか。


 答えを持っていなかった。

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