39話「知らなかった国」
王たちは北へ向かっていた。
百人の兵では目立つ。
そのため。
王。
ジョーカー。
スペード。
数人の護衛だけで。
近くの町へ入った。
「…………」
市場には人が集まり。
子供たちが走り回っている。
「思ったより平穏だな」
「ええ」
ジョーカーが笑う。
「平和で何よりですね」
「その言い方は何だ」
「いえ、何も」
しばらく歩き。
王が気づく。
「若い男が少ないな」
「お気づきになりましたか」
「知っていたなら言え」
「陛下がご自身で見る旅でしょう?」
「…………」
「私が教えては意味がありません」
◇
三人は。
小さな食堂へ入った。
「旅人か?」
「ああ」
王が店主に尋ねる。
「この町は」
「若い者が少ないな」
「ああ」
「殿下のところへ行ったからな」
王の手が止まる。
「殿下?」
「王弟殿下だよ」
「連れていかれたのか?」
「まさか」
店主が笑う。
「自分から行ったんだ」
「…………」
「この辺りは昔から」
「盗賊が多くてな」
「王都に何度頼んでも」
「どうにもならなかった」
店主が続ける。
「そんな時」
「王弟殿下が来た」
「盗賊を討って」
「若い連中に剣まで教えてくれた」
「…………」
「それで皆」
「殿下についていったんだ」
王が尋ねる。
「王が嫌いだったのか?」
「いや?」
店主は首を傾げる。
「別に嫌いじゃない」
「ただ」
「…………」
「王様は」
「俺たちのことなんて知らないだろ?」
王は。
何も答えなかった。
「王弟殿下は」
「ここまで来てくれたからな」
◇
店を出る。
三人は。
黙って歩いていた。
「ジョーカー」
「はい」
「何か言いたそうだな」
「まさか」
「言え」
「では」
ジョーカーが笑う。
「陛下は」
「随分と民に愛されておりますね」
「…………」
「嫌われるほど」
「知られてすらいなかったようです」
「ジョーカー」
スペードが睨む。
「いい」
王が止める。
「事実だ」
ジョーカーが。
僅かに目を見開く。
「怒られないのですね」
「事実に怒ってどうする」
王は。
町を見る。
「余が知らなかった」
「それだけだ」
◇
町を出る。
王が振り返る。
「あいつは」
「余が見ていなかったものを」
「見ていたんだな」
「そうですね」
ジョーカーが答える。
「盗賊を討ち」
「若者を守った」
「立派ですね」
「皮肉か?」
「いいえ」
ジョーカーが笑う。
「今回は本当に」
「だから困るのです」
「…………」
王弟が。
全て間違っているのなら。
倒せばいい。
だが。
王弟に救われた者がいる。
自ら。
ついていった者がいる。
「まず一つ目だ」
王が呟く。
「何がでしょう」
「王弟が正しかったことだ」
「…………」
「あいつは」
「余より先に」
「この土地を見ていた」
「認めるのですか?」
「そのために来た」
王が。
北を見る。
「あいつを否定するためではない」
「余の答えを見つけるためだ」
「…………」
「行くぞ」
「どちらへ?」
「北だ」
ジョーカーが。
僅かに笑う。
「危険ですよ」
「ああ」
王は歩き出す。
「だから見に行く」
王弟が見た国を。
今度は。
王自身の目で見るために。




