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王の愚者  作者: クロワ
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28話 「王弟」

煙が、ゆっくりと晴れていく。


「……陛、下……」


「クラブ!」


 王が駆け寄り、その巨体を抱き起こす。


 腹部から流れる血が、王の手を赤く染めていく。


「しっかりしろ!」


「……申し訳、ありません……」


「喋るな!」


 王は傷口を押さえる。


 だが。


 血は止まらない。


 王が顔を上げる。


 一人の男が立っていた。


 その手には剣。


 刃を伝った血が。


 ぽたり。


 石床へ落ちる。


「…………」


 王の目が見開かれた。


 見間違えるはずがない。


 王弟だった。


 王は何も言えなかった。


 ただ。


 弟の顔を見つめていた。


「なぜ……」


 ようやく出たのは、それだけだった。


 王弟は答えない。


「なぜ、お前が……」


 王の声が震える。


 理解が追いつかない。


 その時。


 煙の奥から、さらに人影が現れた。


 武装した男たち。


 反乱軍。


 だが。


 誰も王弟に襲いかからない。


 一人。


 また一人。


 王弟の後ろへ並んでいく。


「…………」


 王はその光景を見つめた。


「まさか……」


 王弟は何も言わない。


「お前が……」


 王の頭の中で。


 これまでの出来事が蘇る。


 突然。


 城下から姿を消し始めた若者たち。


 行方を追っても。


 見つからなかった。


 消えた献金。


 本来あるはずの金が。


 どこにもなかった。


 そして。


 各地から消えていた物資。


 食糧。


 武器。


 防具。


 どれも。


 行き先が分からなかった。


 そのすべてが。


 今。


 王の目の前にある。


 若者は――兵に。


 献金は――軍資金に。


 物資は――武器と食糧に。


 そして。


 それらを集めていた者が。


 目の前にいる。


「……全部」


 王が呟いた。


「お前だったのか」


「…………」


「若者たちを集めたのも」


 王弟は答えない。


「献金を消したのも」


 沈黙。


「物資を集めていたのも」


 王は弟を見る。


「この反乱軍を作ったのも……!」


 しばらくして。


 王弟が口を開いた。


「ええ」


 たった一言。


 それだけだった。


「…………」


 王は弟を見つめた。


 幼い頃から知っている。


 同じ王宮で育った。


 そして。


 王となった自分の傍にも。


 弟はずっといた。


 それなのに。


「なぜだ……」


 王の口から、ようやく言葉が出た。


「なぜ、お前が……」


 王弟は答えない。


 表情も変わらない。


 王には分からなかった。


 いつから。


 どこから。


 目の前にいる弟が。


 自分の知っている弟ではなくなったのか。


「……いつからだ」


 王弟の目が、僅かに動いた。


「いつから……」


 王は弟を見る。


「余の王座を狙っていた」


「…………」


「いつから、この反乱を企てていた!」


 王弟はしばらく黙っていた。


 やがて。


 その口元に。


 ほんの僅かに笑みが浮かぶ。


「いつから、ですか」


 王弟は呟いた。


 少し考えるように。


 そして――


「そうですね」


 兄を見る。


「どこからお話ししましょうか」

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