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王の愚者  作者: クロワ
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27話 「盾の役目」

ガレスの大剣が持ち上がる。


「悪く思うなよ、陛下」


 王は剣を構えた。


 ガレスが地面を蹴る。


 速い。


 巨体からは想像できない速度だった。


 大剣が王へ振り下ろされる。


 その瞬間。


 ガァン!!


 横から巨大な盾が割り込んだ。


 凄まじい衝撃。


 それでも。


 盾は動かなかった。


「…………」


 ガレスが目を見開く。


 大盾の向こうから、男が顔を出す。


「……相変わらず馬鹿みたいな力ですね」


 ガレスの口元が上がった。


「でかくなったな」


「誰の真似したと思ってんですか」


「ハッ!」


 ガレスが大剣を引く。


「クラブ!」


「お久しぶりです」


 クラブは大盾を構え。


 もう片方の手に、無骨なメイスを握った。


「ガレスさん」


「知り合いか?」


 王が尋ねる。


「ええ。昔、随分と世話になりまして」


「随分?」


「戦い方から、酒の飲み方まで」


「俺にとっちゃ、兄貴みたいな人でしたよ」


「だったら話は早え」


 ガレスが大剣を構える。


「そこをどけ、クラブ」


「嫌です」


「即答かよ」


「俺、近衛騎士団長なんで」


 クラブが王の前へ立つ。


 大盾を地面につけた。


「ここを通りたきゃ――」


 メイスを肩へ担ぐ。


「俺を倒してからにしてください」


 ガレスが笑った。


「言うようになったじゃねえか!」


 二人が同時に踏み込んだ。


     ◇


 ガレスの一撃。


 クラブは大盾を傾けて受け流す。


「もらった!」


 そのままメイスを振る。


 ガレスが大剣で受け止めた。


 ドンッ!


 ガレスが一歩下がる。


「……へえ」


 嬉しそうに笑った。


「強くなったじゃねえか!」


「何年経ったと思ってんです!」


「でも今のは駄目だ!」


「何がです?」


「そこはもっと――」


 ガレスが大剣を構える。


「グーッと構えて」


「…………」


「ガッと入って!」


「…………」


「バァーッといって――」


 大剣を振りかぶる。


「最後にガーンだ!!」


 ガァン!!


「ぐおっ!?」


 クラブが大盾ごと数歩押し戻された。


「分かったか!」


「分かるか!!」


「昔から教えてんだろ!」


「昔から分かんねえんですよ!」


「なんでだよ! グーッ、ガッ、バァーッ、ガーンだぞ!」


「何言ってんだこの人は!」


「どこが分かんねえんだ!」


「全部だよ!」


 ガレスが首を傾げる。


「お前、昔はもっと物分かり良かったぞ?」


「諦めて聞き流してただけです!」


 クラブが大盾を構え直す。


「俺の教えを捨てやがったな!」


「教えられてねえ!」


 二人の武器が再び激突した。


 大剣と大盾が激突する。


 ガレスが笑う。


 クラブも一瞬だけ笑った。


 昔と同じだった。


 何度挑んでも地面に転がされ。


 それでも最後には、大きな手を差し出してくれた。


 クラブにとって。


 ガレスは確かに――兄貴だった。


「……ガレスさん」


「あ?」


「本当に陛下を殺すつもりなんですか」


「ああ」


「なぜ」


「俺が大将軍になるためだ」


 クラブの眉が動く。


「誰に約束されたんです?」


「…………」


 一瞬。


 ガレスの動きが止まった。


「お前には関係ねえ」


「そうですか」


 クラブはそれ以上聞かなかった。


 だが。


 小さな違和感だけが残った。


     ◇


「クラブ!」


 王が剣を抜く。


「余も加勢する!」


「やめてください!」


「二人なら――」


「…………」


「⋯こいつ、タイマンならスペードより強かったんですよ!」


「だから下がっててください!」


 その時。


 王弟が王へ近づいた。


「兄上。ここはクラブに任せ、我々は森へ。」


「ここにいては兄上が狙われ続けます」


 王が迷う。


「……分かった」


 二人が動こうとした。


「駄目です!」


 クラブが叫んだ。


「陛下はここにいてください!」


「私じゃあ兄上を守れないと?」


「そうは言ってません」


 クラブはガレスの大剣を大盾で受けながら答える。


「念のためです」


 確証はない。


 証拠もない。


 考えすぎかもしれない。


 だが。


 近衛騎士団長という仕事は。


 信じて後悔することを許されない。


「陛下はそこに」


 クラブが王弟を見る。


「殿下も――お願いします」


「…………」


 王弟は少し黙った。


「分かった」


     ◇


「よそ見してんじゃねえ!」


 ガレスの大剣が振り下ろされる。


 クラブが大盾で受ける。


「ぐっ……!」


「昔はもっと素直だっただろ!」


「昔はあんたが陛下を殺そうとしてなかったでしょうが!」


「だったらどけ!」


「嫌です!」


 クラブは盾ごとガレスを押し返す。


「俺はあんたに、強くなる方法を教わった!」


「おう!」


「でも――」


 クラブが踏み込む。


 メイスを振り上げる。


「誰を守るために強くなるかは、自分で決めたんですよ!」


 メイスがガレスの大剣を弾いた。


「…………」


 ガレスが笑う。


「上等だ!!」


 二人が同時に踏み込んだ。


 その時だった。


 ドォンッ!!


「――っ!?」


 爆発。


 土煙が一気に広がる。


 何も見えない。


「陛下!」


「余は無事だ!」


「そこを動かないでください!」


 クラブは大盾を構えたまま目を凝らす。


 煙の向こう。


 一つの人影。


 王だ。


 そして。


 その背後に――もう一人。


 剣を持っている。


 切っ先が王へ向いた。


「陛下!!」


 人影が動く。


 剣が突き出される。


「――っ!」


 クラブは考えなかった。


 大盾を捨てる。


 走る。


 王を突き飛ばした。


「クラブ!?」


 鈍い音。


 クラブの身体が止まった。


「…………」


 腹から剣の切っ先が出ていた。


「クラブ!!」


 王の声が響く。


 剣が抜ける。


 クラブの膝が落ちた。


 手からメイスが転がる。


「……陛、下……」


 王が駆け寄る。


 その傍らには。


 先ほどまで王を守っていた大盾が、持ち主を失って転がっていた。


 だが。


 煙の向こう。


 クラブを刺した者の顔は見えない。


 ガレスなのか。


 武装兵なのか。


 それとも――


 別の誰かなのか。


 まだ。


 誰にも分からなかった。

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