25話 「大馬鹿者」
砦の一室。
会談は、すでに一刻近く続いていた。
だが。
最初に比べれば、怒鳴り声は随分と減っていた。
「……もう一度確認する」
王が言った。
「貴国は、我が国の村を襲っていない」
「そして貴国も、我が国の村を襲っていないと?」
「命じていない」
「兵が勝手に動いた可能性は」
「調べた。該当する部隊はない」
「こちらもだ」
「…………」
再び沈黙。
王弟が腕を組む。
「互いに『やっていない』と言うだけなら、話は進みませんね」
王が卓上の剣を見る。
「妙だとは思わないか」
「我が国の村には、貴国の剣と軍服が残されていた」
「ああ」
「そして貴国の村には、我が国の武器が残されていた」
「…………」
「襲撃した兵が、自分たちの身元を示す物をこれほど都合よく残すものか?」
将軍が黙る。
「それも――」
王が剣を持ち上げる。
「双方が、同じようにな」
「…………」
将軍の顔から、少しずつ怒りが消えていった。
「まさか……」
「ああ」
王が言う。
「余たちは最初から、一つ思い違いをしていたのかもしれない」
「思い違い?」
「どちらがやったのか――ではない」
王は将軍を見る。
「我々を争わせたい者がいる」
「…………」
長い沈黙。
やがて将軍が椅子にもたれた。
「……だとすれば」
大きく息を吐く。
「我々は随分と間抜けだな――」
その時だった。
ドンッ!!
砦が揺れた。
「――何だ!?」
クラブの手が剣へ伸びる。
続けて。
ドォンッ!!
窓の外から爆煙が上がった。
「敵襲!!」
「敵襲だ!!」
廊下を兵士が走る。
クラブが扉を開けた。
「何があった!」
「団長!」
兵士が駆け込んでくる。
「武装集団です!」
「どこの軍だ!」
「分かりません!」
「隣国軍ではないのか!」
「違います!」
隣国の将軍が立ち上がる。
「数は!」
「百以上! 森から次々と!」
窓へ向かう。
外を見る。
砦へ押し寄せる武装兵。
その中央。
風に揺れる黒い旗。
銀色の狼。
「……嘘だろ」
「何だ」
クラブが小さく呟く。
「昔――」
剣を抜く。
「王国軍に、あの旗を掲げていた大馬鹿がいたんですよ」
「誰だ」
「ガレス」
クラブは続ける。
「スペードと並んで、王国の双璧と呼ばれた男です」
「聞いたことがある」
王が言う。
「だが確か――」
「死にました」
クラブは窓の外を見る。
「……そのはずです」




