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王の愚者  作者: クロワ
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22話 「大将軍」

「次期大将軍は――スペードとする」


 その言葉が響いた瞬間。


 広間が静まり返った。


 予想されていた名前だった。


 だが同時に。


 もう一人の名前も、誰もが予想していた。


 ガレス。


 王国軍の双璧。


 次期大将軍はスペードか、ガレスか。


 軍の中では、随分前から二人の名前が挙がっていた。


「謹んで、お受けいたします」


 スペードが頭を下げる。


 正式な任命の場だ。


 居並ぶ将校たちは黙って頭を下げた。


 ただ一人。


「よっしゃああああああ!」


 声が響いた。


 全員が振り返る。


 ガレスだった。


「…………」


 スペードが目を閉じる。


「ガレス」


「やったなスペード!」


「静かにしろ」


「大将軍だぞ!」


「分かっている」


「もっと喜べ!」


「お前が喜びすぎだ」


 周囲の将校たちが困った顔をしている。


 ガレスは構わずスペードの肩を叩いた。


「いやあ! めでたい!」


「今夜は宴だな!」


「なぜそうなる」


「親友の出世祝いだ!」


「まだ仕事がある」


「大将軍就任初日の仕事は宴会だろ!」


「勝手に決めるな」


「じゃあ今作れ!」


「作らん」


 いつも通りだった。


     ◇


 その夜。


 結局、ガレスに引っ張られ。


 スペードは酒場にいた。


「乾杯!」


 ガレスが杯をぶつけてくる。


「……何度目だ」


「七回目!」


「乾杯は一度でいい」


「めでたい日は何回やってもいいんだ!」


「誰が決めた」


「当然俺!」


「却下だ」


「将軍だからって偉そうにしやがって!」


「⋯大将軍だ」


「うわ、腹立つ!」


 ガレスが笑った。


 スペードは杯に口をつける。


 しばらくして。


「……ガレス」


「あ?」


「一つ聞いていいか」


「おう」


「悔しくないのか」


 ガレスの動きが止まった。


「…………」


「大将軍のことだ」


「…………」


「お前も候補だった」


 ガレスは杯を見る。


 珍しく。


 すぐには答えなかった。


 やがて。


「悔しいよ」


 いつもの大声ではなかった。


「死ぬほどな」


 スペードがガレスを見る。


「俺だって大将軍になりたかった」


「…………」


「お前に負けたなんて、これっぽっちも思ってねえ」


 ガレスは酒を飲み干した。


「今だって俺の方が強いと思ってる」


「それはない」


「そこは慰めろよ!」


「嘘は嫌いだ」


「ほんっと腹立つなお前!」


 ガレスが笑う。


 だが。


 その笑顔の奥に。


 確かに悔しさはあった。


「まあ、見てろ」


 ガレスが立ち上がる。


 スペードを指差した。


「スペード!」


「店の中で叫ぶな」


「今日からお前は俺の目標だ!」


「勝手にしろ」


「そして――」


 ガレスが歯を見せて笑った。


「俺がお前から、大将軍の座を奪い返す!」


「……奪い返す?」


 スペードが眉をひそめる。


「お前のものだったことは一度もないだろう」


「細けえこと言うな!」


「重要だ」


「いいんだよ!」


 ガレスは豪快に笑った。


「俺がもっと強くなって!」


 自分の胸を叩く。


「もっと戦功を挙げて!」


 そしてスペードを指差す。


「いつか全員に言わせてやる!」


『やっぱりガレスを大将軍にするべきだった』とな!」


「その時はどうする」


「決まってる!」


 ガレスが杯を掲げた。


「お前を副官にしてやる!」


「断る」


「即答すんな!」


「お前の副官だけは絶対に嫌だ」


「なんでだよ!」


「毎日始末書を書くことになる」


「毎日書け!」


「断る!」


 ガレスの笑い声が、酒場に響いた。


 スペードも。


 ほんの少しだけ笑った。


 この時のガレスに。


 スペードへの憎しみなどなかった。


 悔しかった。


 負けたくなかった。


 いつか追い越したかった。


 それだけだった。


 そして数か月後。


 スペードは大将軍として――


 初めての大戦を迎えることになる。

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