↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王の愚者  作者: クロワ
PR
16/104

16話 「火種」

「戦はしない」


 王の一言で、会議室が静まり返った。


 昨日から続いていた国境問題についての協議。


 その結論だった。


「兄上」


 王弟が口を開く。


「昨日も申し上げましたが、ここで弱腰を見せれば――」


「何もしないとは言っていない」


 王は卓上の地図を見る。


「国境の警備は増やす。隣国へ使者を送り、度重なる越境について正式に抗議する」


「それで相手が聞くと?」


「聞かせるのが外交だ」


「聞かなければ?」


「その時に考える」


 王弟は黙った。


「剣は一度抜けば、血を見るまで収まらん」


 王は皆を見渡す。


「余は、民の命を賭けて意地を張るつもりはない」


 スペードが頭を下げた。


「陛下のご命令とあらば」


 ハート、ダイヤもそれに続く。


 クラブも異論はないようだった。


 最後に王弟が、小さく息を吐いた。


「……分かりました」


 そして兄を見る。


「兄上が、王ですから」


     ◇


 三日後。


 隣国へ送られた使者が戻った。


 回答は、意外なものだった。


「隣国側にも、戦争の意思はないとのことです」


「……そうか」


 王の表情が僅かに緩む。


「越境については?」


「一部の兵が命令を無視した可能性があると。現在、隣国側でも調査しているとのことです」


「再発防止を求めろ」


「はっ」


 使者が退出する。


 ジョーカーは壁際で、そのやり取りを聞いていた。


「よかったですねえ、陛下」


「何がだ」


「戦争にならずに済みそうです」


「……ああ」


「王弟殿下には残念な結果かもしれませんが」


「余計なことを言うな」


「おや。私は平和を喜んでいるだけですよ?」


「その顔で言うな」


 ジョーカーは笑った。


 こうして。


 国境を巡る問題は、ひとまず収まった。


 少なくとも――


 誰もが、そう思っていた。


     ◇


 それから五日後。


 早朝。


 王宮に、一頭の馬が駆け込んできた。


「陛下!」


 泥と血にまみれた兵士が、謁見の間へ転がり込む。


「国境の村が……襲撃を受けました!」


 王が立ち上がった。


「何?」


「昨夜、武装した一団が村を襲撃! 家屋に火を放ち、抵抗した村人が……」


「死者は」


 兵士が言葉に詰まる。


「……十三名です」


 空気が凍った。


「子供も……二人」


 王の拳が握られる。


「犯人は」


「分かりません。夜襲でしたので、生存者も顔までは……」


「ならば調べろ」


「すでにスペード様の部隊が現地へ向かっております」


「分かった」


 王は短く答えた。


「憶測で動くな。分かったことだけを報告しろ」


「はっ!」


     ◇


 その日の夕刻。


 調査隊が戻った。


 卓上に置かれたのは一本の剣だった。


「これは……」


 クラブが手に取る。


 柄に、見慣れない紋章が刻まれている。


「隣国軍のものです」


 報告に来た騎士が答えた。


「襲撃された村で発見されました」


 さらに、布が置かれる。


 血の付着した軍服の切れ端。


 そこにも同じ紋章。


「生存者の一人が、襲撃者の鎧にもこの紋章があったと証言しています」


「…………」


 王は剣を見つめていた。


「兄上」


 王弟が低い声で言う。


「これでも、まだ話し合いますか」


 王は答えなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。