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王の愚者  作者: クロワ
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107/109

107話「都合のいい人」

一時保護区域。


今日も。


王国へ入る者の名前が。


読み上げられていた。


「次」


「農業経験十五年」


男が。


妻と子供を連れて。


門へ向かう。


「次」


「石工経験八年」


また一人。


家族と共に。


門を越える。


それを。


待っている者たちが。


見ていた。


「まただ」


「働ける奴ばっかり」


「若い奴から」


「入れてる」


一人の男が。


吐き捨てる。


「難民を」


「助けてるんじゃない」


「王国に」


「都合のいい奴を」


「選んでるだけだろ」


周囲から。


小さく。


同意する声が上がった。


◇


王が。


その話を聞く。


王。


「そう見えるか」


ハート。


「実際」


「働ける者を」


「優先していますから」


ダイヤ。


「はい」


王。


「否定せんのか?」


「事実ですので」


ダイヤが。


帳簿を開く。


「農業」


「建設」


「運送」


「鉱山」


「どこも」


「人手が足りておりません」


ハート。


「だから」


「王国に必要な者を」


「選んでいる?」


ダイヤ。


「それだけではありません」


「働く者が増えれば」


「生産が増えます」


「給料を得れば」


「物を買います」


「そして」


「税も納めます」


王。


「…………」


「税が増えれば」


「食料」


「住居」


「学校」


「医療」


「新たな受け入れに」


「必要なものへ」


「回すことができます」


ダイヤが。


待機者の名簿を見る。


「先に」


「自立できる者を」


「受け入れることで」


「次に」


「受け入れられる者を」


「増やす」


王。


「最初から」


「そのつもりだったのか?」


ダイヤ。


「だから」


「働ける者を」


「最初にしたのですが」


王。


「言え」


「聞かれませんでしたので」


ジョーカー。


「説明不足で」


「国民に怒られる官僚の」


「立派な素質がございますね」


ダイヤ。


「あなたにだけは」


「言われたくありません」


◇


一時保護区域。


役人の前に。


杖をついた男が立っていた。


「職業は?」


「教師です」


「何を?」


「読み書き」


「計算」


「歴史も」


役人が。


男の足を見る。


「肉体労働は?」


男。


「この足では」


「難しい」


「ですが」


「働く意思はあります」


役人。


「…………」


そこへ。


王が来る。


王。


「教師なのだろう?」


「はい」


「なら」


「教師をすればいい」


男。


「ですが」


「王国の文字は」


「まだ十分には」


王が。


保護区域を見る。


そこには。


難民の子供たち。


「あの子供たちは?」


男。


「…………」


「私の国の」


「子供たちです」


「なら」


「まず」


「あの子たちに」


「教えろ」


「読み書き」


「計算」


「それから」


「王国の教師と一緒に」


「王国の言葉も」


「覚えればいい」


男。


「それも」


「仕事に?」


王。


「足ではなく」


「頭を使え」


男は。


少し笑う。


「はい」


別の天幕。


怪我人が。


何人も寝ている。


王国の医師たちが。


走り回っていた。


「人手が足りない!」


その声を聞いて。


一人の難民が。


前へ出る。


「私」


「医師です」


王国の医師。


「医師?」


「二十年」


「向こうで」


「…………」


王国の医師が。


少し迷う。


ダイヤ。


「正式に」


「王国の医師として」


「認めるのは」


「まだ無理です」


男。


「…………」


ハート。


「ですが」


「ここで」


「何もできないわけでは」


「ありません」


王国の医師が。


包帯を渡す。


「王国の薬は」


「私が確認する」


「応急処置と」


「怪我人の状態を」


「見てくれますか?」


難民の医師。


「もちろん」


すぐに。


患者のもとへ走る。


ジョーカー。


「随分と」


「働ける者が」


「増えましたね」


王。


「ああ」


「余たちが」


「働けないと」


「決めつけていただけだった」


◇


数週間後。


会議室。


ダイヤが。


新しい帳簿を置く。


王。


「また金か?」


「今回は」


「少し違います」


農地の生産。


増加。


建設中の住居。


予定より早く完成。


運送量。


増加。


そして。


税収。


増加。


王。


「…………」


ダイヤ。


「受け入れた者たちが」


「王国を」


「支える側に」


「回り始めています」


ハート。


「ということは?」


ダイヤ。


「受け入れ可能人数を」


「増やせます」


王。


「どれほど?」


「まず」


「三百人ほど」


王。


「…………」


「三百」


ダイヤ。


「今後」


「働く者が増えれば」


「さらに」


王は。


立ち上がる。


「行くぞ」


ジョーカー。


「どちらへ?」


王。


「待たせている者の」


「ところだ」


一時保護区域。


あの老人が。


天幕の前に座っていた。


役人が。


名前を呼ぶ。


老人。


「俺?」


「はい」


「王国への」


「受け入れが」


「決まりました」


老人。


「…………」


「なんで?」


「受け入れられる人数が」


「増えました」


老人が。


門を見る。


向こうでは。


若い男たちが。


新しい家を建てている。


以前。


自分より先に。


門を越えた者たちだった。


老人。


「あいつらが?」


王。


「ああ」


「先に入った者が」


「次の者の場所を」


「作っている」


老人。


「…………」


「そういうことか」


近くで。


待っていた男が。


王を見る。


以前。


「都合のいい奴を選んでいる」


そう言った男だった。


「じゃあ」


「俺たちは」


「捨てられたわけじゃ」


「なかったのか」


王。


「待たせてはいる」


「それは」


「変わらん」


「だが」


「待たせたままにするために」


「順番を」


「決めたわけではない」


男。


「…………」


王。


「全員を」


「一度には」


「入れられん」


「だから」


「先に入った者に」


「次の者を」


「支えてもらう」


「その次は」


「お前たちが」


「また」


「誰かを支える」


男は。


門の向こうを見る。


ジョーカー。


「都合のいい人を」


「選んでいたのでは」


「なかったのですね」


王。


「ああ」


ジョーカー。


「都合のいい順番を」


「選んでいた」


王。


「…………」


「間違ってはいないが」


「言い方が腹立つな」


門が開く。


老人が。


ゆっくりと。


その向こうへ歩いていく。


先に入った者が。


次の者の場所を作る。


そして。


次に入った者が。


また。


その次の者を支える。


王国へ続く列は。


まだ。


なくなってはいなかった。


だが。


昨日より。


少しだけ。


前へ進んでいた。

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