107話「都合のいい人」
一時保護区域。
今日も。
王国へ入る者の名前が。
読み上げられていた。
「次」
「農業経験十五年」
男が。
妻と子供を連れて。
門へ向かう。
「次」
「石工経験八年」
また一人。
家族と共に。
門を越える。
それを。
待っている者たちが。
見ていた。
「まただ」
「働ける奴ばっかり」
「若い奴から」
「入れてる」
一人の男が。
吐き捨てる。
「難民を」
「助けてるんじゃない」
「王国に」
「都合のいい奴を」
「選んでるだけだろ」
周囲から。
小さく。
同意する声が上がった。
◇
王が。
その話を聞く。
王。
「そう見えるか」
ハート。
「実際」
「働ける者を」
「優先していますから」
ダイヤ。
「はい」
王。
「否定せんのか?」
「事実ですので」
ダイヤが。
帳簿を開く。
「農業」
「建設」
「運送」
「鉱山」
「どこも」
「人手が足りておりません」
ハート。
「だから」
「王国に必要な者を」
「選んでいる?」
ダイヤ。
「それだけではありません」
「働く者が増えれば」
「生産が増えます」
「給料を得れば」
「物を買います」
「そして」
「税も納めます」
王。
「…………」
「税が増えれば」
「食料」
「住居」
「学校」
「医療」
「新たな受け入れに」
「必要なものへ」
「回すことができます」
ダイヤが。
待機者の名簿を見る。
「先に」
「自立できる者を」
「受け入れることで」
「次に」
「受け入れられる者を」
「増やす」
王。
「最初から」
「そのつもりだったのか?」
ダイヤ。
「だから」
「働ける者を」
「最初にしたのですが」
王。
「言え」
「聞かれませんでしたので」
ジョーカー。
「説明不足で」
「国民に怒られる官僚の」
「立派な素質がございますね」
ダイヤ。
「あなたにだけは」
「言われたくありません」
◇
一時保護区域。
役人の前に。
杖をついた男が立っていた。
「職業は?」
「教師です」
「何を?」
「読み書き」
「計算」
「歴史も」
役人が。
男の足を見る。
「肉体労働は?」
男。
「この足では」
「難しい」
「ですが」
「働く意思はあります」
役人。
「…………」
そこへ。
王が来る。
王。
「教師なのだろう?」
「はい」
「なら」
「教師をすればいい」
男。
「ですが」
「王国の文字は」
「まだ十分には」
王が。
保護区域を見る。
そこには。
難民の子供たち。
「あの子供たちは?」
男。
「…………」
「私の国の」
「子供たちです」
「なら」
「まず」
「あの子たちに」
「教えろ」
「読み書き」
「計算」
「それから」
「王国の教師と一緒に」
「王国の言葉も」
「覚えればいい」
男。
「それも」
「仕事に?」
王。
「足ではなく」
「頭を使え」
男は。
少し笑う。
「はい」
別の天幕。
怪我人が。
何人も寝ている。
王国の医師たちが。
走り回っていた。
「人手が足りない!」
その声を聞いて。
一人の難民が。
前へ出る。
「私」
「医師です」
王国の医師。
「医師?」
「二十年」
「向こうで」
「…………」
王国の医師が。
少し迷う。
ダイヤ。
「正式に」
「王国の医師として」
「認めるのは」
「まだ無理です」
男。
「…………」
ハート。
「ですが」
「ここで」
「何もできないわけでは」
「ありません」
王国の医師が。
包帯を渡す。
「王国の薬は」
「私が確認する」
「応急処置と」
「怪我人の状態を」
「見てくれますか?」
難民の医師。
「もちろん」
すぐに。
患者のもとへ走る。
ジョーカー。
「随分と」
「働ける者が」
「増えましたね」
王。
「ああ」
「余たちが」
「働けないと」
「決めつけていただけだった」
◇
数週間後。
会議室。
ダイヤが。
新しい帳簿を置く。
王。
「また金か?」
「今回は」
「少し違います」
農地の生産。
増加。
建設中の住居。
予定より早く完成。
運送量。
増加。
そして。
税収。
増加。
王。
「…………」
ダイヤ。
「受け入れた者たちが」
「王国を」
「支える側に」
「回り始めています」
ハート。
「ということは?」
ダイヤ。
「受け入れ可能人数を」
「増やせます」
王。
「どれほど?」
「まず」
「三百人ほど」
王。
「…………」
「三百」
ダイヤ。
「今後」
「働く者が増えれば」
「さらに」
王は。
立ち上がる。
「行くぞ」
ジョーカー。
「どちらへ?」
王。
「待たせている者の」
「ところだ」
一時保護区域。
あの老人が。
天幕の前に座っていた。
役人が。
名前を呼ぶ。
老人。
「俺?」
「はい」
「王国への」
「受け入れが」
「決まりました」
老人。
「…………」
「なんで?」
「受け入れられる人数が」
「増えました」
老人が。
門を見る。
向こうでは。
若い男たちが。
新しい家を建てている。
以前。
自分より先に。
門を越えた者たちだった。
老人。
「あいつらが?」
王。
「ああ」
「先に入った者が」
「次の者の場所を」
「作っている」
老人。
「…………」
「そういうことか」
近くで。
待っていた男が。
王を見る。
以前。
「都合のいい奴を選んでいる」
そう言った男だった。
「じゃあ」
「俺たちは」
「捨てられたわけじゃ」
「なかったのか」
王。
「待たせてはいる」
「それは」
「変わらん」
「だが」
「待たせたままにするために」
「順番を」
「決めたわけではない」
男。
「…………」
王。
「全員を」
「一度には」
「入れられん」
「だから」
「先に入った者に」
「次の者を」
「支えてもらう」
「その次は」
「お前たちが」
「また」
「誰かを支える」
男は。
門の向こうを見る。
ジョーカー。
「都合のいい人を」
「選んでいたのでは」
「なかったのですね」
王。
「ああ」
ジョーカー。
「都合のいい順番を」
「選んでいた」
王。
「…………」
「間違ってはいないが」
「言い方が腹立つな」
門が開く。
老人が。
ゆっくりと。
その向こうへ歩いていく。
先に入った者が。
次の者の場所を作る。
そして。
次に入った者が。
また。
その次の者を支える。
王国へ続く列は。
まだ。
なくなってはいなかった。
だが。
昨日より。
少しだけ。
前へ進んでいた。




