108話「できること」
一時保護区域。
ダイヤが。
名簿を見ている。
「残っている者も」
「随分」
「変わりましたね」
王。
「働ける者は」
「ほとんど」
「王国へ入ったからな」
ダイヤ。
「正確には」
「我々が」
「働けると思っていた者です」
王。
「?」
◇
一人の女性。
その横には。
幼い子供が二人。
役人。
「働く意思は?」
「あります」
「料理なら」
「できます」
「ですが」
女性が。
子供を見る。
「この子たちを」
「置いてはいけません」
ハート。
「孤児院で」
「預かりましょう」
女性。
「でも」
「この子たちは」
「孤児では……」
「夜には」
「迎えに来るのでしょう?」
「はい」
「でしたら」
「昼間だけです」
女性。
「…………」
「いいんですか?」
「もちろん」
その日から。
女性は。
炊事場で働き始めた。
大量の野菜。
大きな鍋。
女性。
「何人分です?」
「百二十人」
「…………」
「家族四人分しか」
「作ったことないんですけど」
「今日は」
「家族が増えたと」
「思ってください」
「増えすぎでしょ」
隣から。
笑い声が上がった。
作った食事は。
一時保護区域。
孤児院。
働きに出た難民たちへ。
運ばれていく。
別の母親は。
孤児院へ。
「私は」
「料理より」
「子供の相手の方が」
「得意です」
泣いている孤児を。
抱き上げる。
その横では。
預けられた子供たちも。
一緒に遊んでいた。
子供を見る者がいる。
だから。
その親が働ける。
◇
夜。
治療用の天幕。
老人が。
椅子に座っている。
王。
「何をしている?」
老人。
「仕事」
王。
「お前が?」
「悪いか」
医師。
「夜間の」
「見守りです」
「容体が変われば」
「我々を呼んでもらいます」
王。
「戦えるのか?」
老人。
「無理」
「走れるか?」
「もっと無理」
「では」
「何ができる?」
老人が。
鐘を持ち上げる。
「鳴らせる」
王。
「…………」
「十分だな」
老人。
「だろ?」
別の老人は。
倉庫の前。
椅子に座っている。
荷物を運ぶ必要はない。
異常があれば。
兵士を呼ぶ。
若い兵士。
「これで」
「夜の国境警備に」
「戻れます」
王。
「なるほど」
別の場所では。
洗濯。
清掃。
食事の配膳。
物資の整理。
王。
「随分」
「仕事があったのだな」
ダイヤ。
「人が増えれば」
「必要な仕事も」
「増えますので」
少し離れた天幕では。
足の悪い元教師が。
子供たちに。
文字を書いている。
その隣では。
難民だった医師が。
王国の医師と共に。
怪我人の処置をしていた。
王。
「働けない者が」
「残っていたのでは」
「なかったのだな」
ダイヤ。
「はい」
「我々が」
「できる仕事を」
「見つけていなかっただけです」
「働く者を」
「支えることも」
「仕事です」
王。
「なら」
「さらに」
「受け入れられるか?」
ダイヤ。
「計算してみます」
王。
「頼む」
ハート。
「怪我人と」
「病人は?」
王。
「それは」
「休ませろ」
ダイヤ。
「当然です」
ジョーカー。
「陛下も」
「随分と」
「優しくなられましたね」
王。
「病人まで働かせる王に」
「見えていたのか?」
「少々」
「ニア」
◇
数日後。
ダイヤが。
帳簿を持ってくる。
「陛下」
王。
「増えたか?」
「はい」
「このままなら」
「さらに」
「受け入れ人数を」
「増やせそうです」
王。
「そうか」
ハート。
「少しずつ」
「回り始めましたね」
王。
「ああ」
その時。
外から。
怒鳴り声。
王。
「?」
兵士が。
駆け込んでくる。
「陛下!」
「問題が!」
王。
「今度はなんだ」
町の一角。
人だかり。
二人の男が。
兵士に押さえられている。
一人は。
王国へ入った難民。
もう一人も。
同じ国から逃げてきた難民だった。
だが。
首から下げている。
信仰の印が違う。
「こいつらが!」
「俺たちの神を」
「侮辱した!」
「先に言ったのは」
「お前だろ!」
「異端者が!」
ハート。
「…………」
王。
「同じ国から」
「逃げてきた者同士だろう」
男。
「だから」
「同じだと?」
王。
「…………」
もう一人が。
叫ぶ。
「こいつらのせいで」
「俺たちは」
「迫害されたんだ!」
周囲にも。
同じ印を持つ者たちが。
集まり始める。
兵士。
「離れろ!」
「全員!」
その時。
別の兵士が。
走ってくる。
「陛下!」
王。
「まだあるのか?」
「町で」
「商店の金が」
「盗まれました」
王。
「犯人は?」
「捕まえました」
「難民として」
「先日」
「王国へ入った男です」
周囲が。
ざわつく。
南部の住民。
「ほら見ろ」
「だから」
「言ったんだ」
別の住民。
「こんなに」
「入れるからだ」
「喧嘩」
「盗み」
「次は何だ?」
王。
「待て」
「盗んだのは」
「その男だろう」
住民。
「でも」
「難民だ」
王。
「…………」
別の住民。
「今まで」
「こんなこと」
「なかった」
さらに。
別の声。
「もう」
「入れるのを」
「やめろ!」
ざわめきが。
大きくなる。
ハートは。
宗派の違う二つの集団を見る。
ダイヤは。
捕まった男を見る。
王は。
その両方を見る。
ジョーカー。
「仕事」
「食事」
「住む場所」
「随分と」
「整ってきました」
王。
「ああ」
ジョーカー。
「ですが」
人々の怒鳴り声が。
響く。
「一緒に暮らす方法までは」
「まだ」
「作っていなかったようですね」
王。
「…………」
門の前には。
今日も。
王国へ入る順番を待つ。
長い列があった。
だが。
その門の内側では。
別の問題が。
始まっていた。




